第6話
しまった。本来なら、こっそりゴブリンキングに攻撃を仕掛けるはずだったが、あまりにも勇者どもがアホな会話をしていたため、つい声をかけてしまった。
「お、お前は誰だ!」
「そうよ。私たちに、何て口の聞き方をしているのかしら」
「ふっ。そんなの関係ないな。馬鹿に馬鹿といって何が悪いんだ?敵の強さぐらい見極めれないと、ほんと死ぬぞ?」
「・・・知ったような口を。なら、お前はあの化け物が何か分かるのか?」
「ああ分かるとも。では何にも知らない、無知な勇者様方に教えてやろう。あの魔物は、ゴブリンキング。本来ならもっと北の魔王領に生息しているはずの、最低でDランクの魔物だ。奴の特殊能力は配下の魔物たちを強化すること。Fランクの冒険者たちがてこずるほど、ゴブリンどもを強化できるゴブリンキングに挑んだところで、お前たちでは相手にすらならないだろう。それ以前に、初心者がDランクの魔物に挑むなど、狂気の沙汰だ。どうだ、分かりましたか?勇者様」
「・・・お前が俺たちを馬鹿にしているのは、よーく分かった。だが、俺たちでは、こいつには敵わないということも理解できた。みんな、すまない。ここは一旦街に帰ろう」
「・・・俺は最初からそのつもりだった。それに、ヨウタの意思に俺たちは従う」
「ギィの言う通りよ。ヨウタの決めた事に反対はしないわ。でもそこまで言うからには、あなたあの化け物を倒せるんでしょうね?」
「当たり前だろう。気付いてないのか?ゴブリンどもが襲いかかってこないだろう?」
周りを見渡し、一名を除き愕然とした表情を浮かべる勇者ども。あれ?イリナ以外の奴らは、本当に気付いていなかったのかよ。
俺は、最初に勇者どもに声をかけると同時に、創造魔法を使っていた。今、ゴブリンどもは時間が経つたびに増加する重力に押し潰されている。それも、ゴブリンキングには余り意味はないようだがな。
「とにかく、逃げたいなら逃げろ。まあ、本当に倒せるかどうか疑っているというのなら、見学していってもいいがな」
俺の言葉にビクッと反応したのはエリナだ。大方他の奴らを説得して、ここに居座るつもりだったんだろう。何が「ヨウタの決めた事に反対はしない」だ。思いっきりしようとしてたみたいだぞ?
「さあ、とっとと後ろに下がってろ」
(予想を大幅に越える数だが・・・ゴブリン狩りを始める事にするかっ!)
「ハナシハオワッタノカ、ニンゲン。ワレノジャマヲスルトイウノナラ、マズハオマエカラコロストシヨウ」
「ある程度の知恵はあるようだな。普通のゴブリンキングに、人の言葉を話すほどの知恵はない。お前、何者だ?」
「ワレコソハ、マオウサマノハイカ、ゴブリンタチノチョウテンニタツモノ。マオウサマヨリサズカリシナワ、リィギャウ」
「ほぅ。名付きは予想外だが、やはり魔王軍の一員だったか。じゃなきゃこんなところにゴブリンキングが自然発生するはずがないもんな?面白いじゃねーか。俺を殺す?はっ!・・・実力の違いってもんを見せてやるよ、リギャウ」
前の呪文も使えるようだしな。あれをやってみるか。
「我に仇なす全ての者よ、燃え散りて灰とかせ!」
詠唱と同時に、俺はかつて使っていた魔法を思い起こした。ゴブリンどもが、獄炎の炎で覆い包まれる。だが、まだゴブリンキングには、余りダメージを与えられていないようだ。
「あれはっ、炎魔法の最上級魔法、インフェルノ?・・・いえっ、違う!?」
イリナが驚いているな。そこまで驚くほどのものだろうか。ただのオリジナルなんだが。というか結局全員残っていやがる。
「我に仇なす全ての者よ、永久の時の中へ凍り付け!」
悶え苦しんでいたゴブリンどもの動きが止まる。奴らの体は今も燃えているが、実は内部から凍りついている。
「我に仇なす全ての者よ、天空の彼方へと吹き飛べ!」
とどめに地面から大量の真空波を飛ばし、ゴブリンどもを細切れにした。もっとも、中が凍り付いていたため、血はでなかったが。
しかし・・・
「そんなっ。あの攻撃を耐えきるだなんて」
「さっきからごちゃごちゃとうるさいぞ。予想通りだ。黙って見てろ」
やはり、魔王の加護を受けたゴブリンキング、リィギャウは、この攻撃で倒しきることはできなかったな。だが、与えたダメージは大きいはずだ。
「アマイナ、ニンゲン!ジツリョクノチガイトイウノハ、コウイウコトダ!」
・・・ん?あの動作は、まさかっブレスか!しかも、もうすぐで準備が終わるだと!?まさかこいつ、俺の攻撃を耐えながら、ブレスの準備をしていたのか!
「くそっ、このままじゃ間に合わねえ!」
このままではブレスを放たれ俺はともかく勇者どもが全滅しちまう・・・待てよ。そういえば、俺にはもう1つの魔法があったな。破壊魔法か。どんな力か試させてもらおうじゃないか!
「グギギッ。コレデオワリダ、オロカナニンゲンヨ!」
ギィリャウの口から放たれた、漆黒のブレスが近付いてくる。それを見ながら、俺は1つの言葉を呟いた。
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あの人間は我のブレスを前にして、回避しようとする動作も見せない。人間が、何かを呟くように口を動かしたのが見えたが、今更何をしようとも遅い。目の前の人間はこの一撃で仕留めれるだろう。運が良ければあそこにいる勇者たちも巻き添えにできる。
「ばか野郎!逃げろっ!」
「駄目よ。逃げてっ!」
「逃げてくださいっ!」
「・・・逃げろっ!」
自分達が狙われている事にも気付かずに、もうすぐ死ぬ人間の心配をしている、馬鹿な勇者たち。愚かな者だな、人間というのは。
「ワレノカチダナ、ニンゲンヨ!マズハオマエカラシネ!」
リィギャウが勝利を確信し、勇者たちが絶望した次の瞬間だった。
ガジェスに当たったはずのブレスは、消えていたのである。