第0話
塔の最上階にいた魔王と戦っていた勇者たちは、次第に魔王を追い詰めていった。
「ぐっ、まだ我は死ぬわけにはいかぬ!」
「そうはいくか。一気に畳み掛けるぞ!」
「「「おう!」」」
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そして、絶望が訪れた。
あと一歩と言うところで、魔王に膨大な魔力が流れ込んでいったのだ。
(油断しましたね。まさか最後の最後でこんな魔法を使うとは)
魔王は古代に失われたはずの、〈洗脳魔法〉を使い、勇者の仲間たちと勇者を戦わせた。回復術師 、魔法使い、戦士・・・。もはや操られていないのは、勇者と彼1人のみだった。
「畜生、このままじゃ全員やられちまう。俺には、あいつらを救う力がない。頼むっ、お前の力を貸してくれ。」
「・・・これはサービスですよ。しばらくの間、彼らを止めていてください」
「あいつらを助けられるんだな?」
「誰にものを聞いているんですか?当然でしょう」
そう言うと、彼は呪文を紡ぎ始めた。その詠唱は、神々しく、どこか、危うい気配のするもので、しばらく旅をしてきた彼らも聞いたことのないものだった。
(まったく。今回はただ見ているだけでいいと言っていたじゃありませんか)
「我が神器たちよ、我と共にその力を解き放ち、我に邪悪なる者を封じ聖なる者を守り、支える力を与えたまえ!」
〈光の聖域〉!
「この呪文っ、まさか貴様は奴のっ!覚えていろ、我は必ず貴様を、貴様らを殺す、殺してや――」
その言葉を最後に、魔王は消滅した。
「お、おいっ、お前、あ、足が・・・」
彼の体は、足から徐々に透けていく。
「・・・どうやらしばらくお別れのようですね。僕の神器たちを・・・頼みましたよ。また、会いましょう」
彼はそう笑って消えていった。彼の消滅と共に神神器も飛び去った今、あとに残されたのは、勇者とその仲間たちのみだった。
「っ―――!こんな、こんなことになるなんて聞いてねえぞ、馬鹿野郎!」
魔王のいなくなった塔に、勇者の叫び声が響き渡った。
――それから十年後・・・