飛んで火に入る夏の虫
『コドク』の新入り君視点です。
「おい、大丈夫か新入り-?」
──うるさい、新入りって言うな。
自分にあてがわれたベッドの中、ブランケットに包まりながら僕は心の中で文句を言う。
数日前に入った孤児院。今日は夜に子供達が怖い話をする集まりみたいなものがあった。
僕より年上だろうお兄さんは『百物語』だとか言っていた。
かろうじて二桁な参加人数で何を言っているのやら、と思っていたら、精神的なダメージを受けてしまった。
そもそも何故僕が孤児院に来る羽目になったのか。
親から見捨てられたからである。
去年の夏、墓場で肝試しをしていたら二歳下の弟が墓場奥にあった空き家の庭の井戸に落ちて死んだ。
弟がいなくなった時、側に友達がいたから誰にも僕が何かしたとは疑われなかった。実際、何もしていないのだが。
それでも色々と陰で言われていたらしく、暫くして、母の精神は限界を越えた。
僕に手を上げるようになったのだ。
虐待どころか殺人にまで発展しそうだった母を、父は何とか説得して、僕と引き離した。
どうやら僕の両親は駆け落ち同然に結婚したらしい。僕は祖父母も親戚にも預けられることもなく、たまたま両親の目に入った孤児院に売られる形になった。
文字通り金銭のやり取りがあったのかは知らないが、頻繁に子供が引き取られていくらしいと噂で聞いている。無事に生きているかどうかすら怪しいと思う。
その中に僕も加わるのだろうが、それに関しては親に売られた時点でもう諦めている。
諦めていた、はずだった。
今夜の『百物語』で聞いた話を思い出す。
それはまるで、僕が弟を殺してしまったかのような内容で。
ただの偶然だろうとは思ったが、殺してもいないのに弟に責められたような不快感と、そう感じることを誰かに仕組まれたかのような気持ちの悪さに、耐えきれず叫んでしまった。
それが原因で、同部屋の奴らに心配されている訳だが──。
(……?)
いつの間にか声が聞こえなくなっていることに気付き、僕の反応の無さに飽きたのかとブランケットを持ち上げてみると。
部屋の中が紅く染まっていた。
床には同部屋の奴ららしき何かが転がっている。
腕や足の一部では判別できる訳がない。
何故気付かなかったのか。
その原因はきっと、目の前にいる黒い何かだ。
『百物語』中に感じた気持ちの悪さが蘇る。
それは、突然動きを止めて僕を見た──ような気がした。
どこに目があるかは分からないが、僕を観察しているようだ。
どうせ僕も、同部屋の奴らと同じで殺されるんだろうな、と考えていたら、それが動いた。
近付き、僕に向かって襲いかかってくる様子に、苦手な生き物の姿が重なる。
──だからぼくは、むしがきらいだ。