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曇り夜空に消え行く羽根(つばさ)
『暁に消える翼』の元になった原稿の、更に元になった文章です。題名は投稿時の物を使用。
――月の見えない曇り空。
ビルの屋上で、彼は私の目の前から消えようとしていた。
彼の背中からは黒い翼が生えている。
元は白かったそれは、この世界に堕ちた所為で黒く染まった。
彼は、こうなった事を後悔はしていない、と言った。
でも、もう少し側にいたかった、と。
微かに悲しそうな笑顔で、言った。
指先から崩れ、風に散る身体。
――抱えていた全身が崩れ、全てが消えた。
彼の存在していた全てが。
曇り空の切れ間から月光が降り注ぐ。
まるで、夢を見ていたかのように、幻だったかのように。
唯一残っていた黒い羽根が、涙と共に夜風に消えた。