無限樹海
残酷描写があります。
――それは樹海の中。
一人の老人が何かを探すように歩いていた。
ふと見ると、一人の女性が木に紐を掛けている。
自殺をしようとしていたその女性に、老人が声をかけた。
自分の仕えていた令嬢が不慮の事故で亡くなってしまった。
周りの人間が悲しむので、暫く身代わりになってくれる女性を探している。
自殺する前に、私に手を貸してはくれないか、と。
何をするのか女性は聞いた。
顔を変えて、ただ笑ってくれれば良いと老人は答えた。
それだけで良いならば、と女性は答えた。
そして女性は老人に案内された。
辿り着いたのは、豪奢な館。
女性は整形をした。
令嬢の顔になった。
女性は綺麗な服を纏った。
令嬢の姿になった。
女性は笑う。
令嬢の顔で笑う。
令嬢が戻ってきたと周りの人間は喜んだ。
一年が経ち、二年が経った。
五年過ぎると、女性は自分が誰だったのか思い出せなくなっていた。
自分は誰だ。
鏡の中の令嬢【じぶん】に問う。
私は貴女、貴女は私。
では貴女は誰?
令嬢【あなた】の名前を女性【わたし】は知らない。
令嬢の名は?
私の名は?
分からないわからないワカラナイ。
呟きながら令嬢は自分の居た場所から飛び出し、女性が居た樹海へ逃げ込む。
見覚えのある光景だと彼女は思った。
見覚えのある木からぶら下がる一本の紐。
あぁそうだ、と女性は思い出す。
――早く、早く死なないと。
老人は揺れる女性を見て首を振り、足元を見た。
よく見ると、色褪せてぼろぼろになった服を纏った骨が、いくつもいくつも転がっている。
また新しい令嬢を探す為に、老人は樹海を歩く。