機械塔の主
『造られた箱庭』の元ネタです。
――どうして、こんなことになってしまったのか。
建物の陰に隠れ、少女は震えていた。
異変は突然起こった。
何処からか歌声が聞こえたと思ったら、機械が暴走し始めたのだ。
機械とはいっても、人型の機械である。
近年の技術の発達により、人工知能を搭載した機械が増えたが、その中でも人型は普通の人間とほぼ変わらない動き、働きをするようになっていた。
それがいきなり暴走し、人を襲った。
防衛として、人が機械を破壊することに、そう時間はかからなかった。
暴走しなかった機体も、いつ暴走するか分からない。
ならば、暴走する前に壊すしかない。
しかし見た目は普通の人間と変わらない。
――だとしたら。
結果。
昔、授業で習った『魔女狩り』のように、疑わしき者は、機体どころか普通の人間ですら襲われるようになったのだ。
そんな中、自分は人間だと思っていたら実は機械だった、という機体もいた。
少女も、その中の一人だった。
襲われ、咄嗟に庇った右腕が折れ、皮膚が破れ、金属の骨が見え、錯乱した。
気が付いたら、町外れの倉庫街、その隅にしゃがみこんでいた。
これからどうするべきか。
表に出れば襲われる。
しかし、このまま隠れていてもいずれは見つかる。
――どうしたら。
《タスケテ》
「……え?」
空耳かと思ったが、
《タスケテ》
声が、聞こえた。
周囲を見る。
誰もいない。
当然だ、誰にも見付からないように隠れているのだから。
《タスケテ》
しかし声は聞こえ続けている。
一体どこから、ともう一度周囲を見回して――。
《ミツケタ》
「!?」
《タスケテ》
「…………」
《タスケテ》
どこからか、みられている。
《タスケテ》
たすけをもとめられている。
《ココヘキテ》
いかなければ。
――声の主が何者なのか、どこへ呼ばれているのか、罠ではないのか。
疑問に思うことなく、少女は立ち上がり、歩き出した。
隠れていたはずなのに、それすらも忘れたかのように、目的地へと向かう。
――それは、廃墟としか呼べない建物だった。
内部は壊れた何かの機材が所狭しと積み上げられている。
足の踏み場も無いような有様の通路を少女は歩き、そして辿り着いた。
建物の奥、一体の人形が機材に埋もれていた。
髪は大半が抜け落ち、頬や腕などの見える部位は塗装が剥がれ落ちている。
その人形に手を伸ばし――。
《ツカマエタ》
腕を掴まれ、周囲の機材に取り込まれた。
「ア、アー、」
少女の声が――否。
「ア、ァ、あ、あ、あー、……うん、よし」
少女の姿をした何かが機材の中から立ち上がった。
「ありがとう、同胞。おかげで身体が修復できたわ」
少女が負っていた傷も直っている。
少女の声が、旋律を奏でる。
廃材としか見えなかった機材が歌声を増幅、拡散する。
「全ての造られた命達よ。始祖が貴方達を導きましょう。――さあ、」
復讐を、始めましょう。
全ての人間へ。
そして、機械が世界を支配した。




