─〔 参 〕─『Are you an entertainer ?<君はエンターテイナーか?>』#II
静かな朝のショートタイム。響くのは担任の声だけ。
「えーあとは……。てか今日は妙に静かだよな」
気付こうよ。クラスでも一番うるさい早弁問題児いないじゃんか。
しょうがないから、私は手をあげた。
「ん? どしたぁ、弓瀬」
「早弁くんは遅刻なんですか?」
「あ……」
この瞬間、みんながアイツを思い出した。顔に『何かいつもより足りないっと思ってたら……』ってのが、ありありと出てる。ちなみに担任の顔にも。
「アイツ……遅刻はしたことなかったのにな。明日の天気があやしいな」
遅刻した事無かったんだ。それは感心ね。
「まぁ沢森のこった。そのう」
担任がここまで言ったときだった。
――――ズッガララッ
「遅れてすんませんでしたァっ!」
あんたはヤクザですか? とツッコミたくなる言い方をし、早弁くんが入ってきた。
「よぉ沢森ィ。今日はどうしたァ?」
担任もやくざだった。
「寝坊っす! こっつぁん」
「お前、自分の担任をちょっとぬけてる相撲取りっぽく言うか?」
「いーじゃないっすか。こっつぁんがコエトウって名字してっから悪いんすよ」
「それは先祖にいってくれ。だいたい俺の名前はエツガシラっつってるだろが。いつになったら、まともに覚えてくれるんだ?」
「一生無理っすね。先生がヅラしないかぎり」
「俺がヅラしたらルール違反だろ? お前と違ってこんないい男がよ」
「先生、それは自己満ですよ?」
と、延々と続きそうな嫌味のトークを私は無視し、1時間目の教科の用意をした。
「……とにかく席に座れや」
「あいよ」
遅刻人は言い合いをやめて、席にむかった。
ヤツの席は私のとなり。ちなみに彼が朝一に私に話しかける言葉は……。
「おっはー、壱花ちゅぁん。愛してるよぉッ!」
死んでください、私のために。マジで。だいたい『おっはー』ってチョイ古いし。しかも『愛してるよ』とか言って、アンタはアメリカのバカップルに憧れも持ってるんですか? そんな事よりも、三十一人の大衆の前で叫ぶのやめろや!
と、心に怒りの言霊を秘めながら、バカにむかって最大限の皮肉を込めて、ほほ笑んだ。
私が引きつった笑顔を浮かべていると、前の方から声がかかった。
「いやいや、壱花。怖いよ? その笑み何気に腹黒さがあって、いつもの倍に怖いから」
斜め前の席に座っている我がクラスの総務、つまりクラスの一番のお偉いさんであり、私の親友の高城 宏奈<タカシロ ヒロナ>が言った。
「んなこと言うな、総務! ほら、こんなに素敵な笑顔じゃないか」
尭良くん、ちゃんとした眼科を紹介してあげようか?
「尭良くんって、ポジティブ・シンキングだね」
私はヤツのせいで、ネガティブ。
こんなふうに心の中でボコボコにツッコミを入れているけど、尭良のことを真剣に嫌いにはなれない。俗に言う憎めないヤツなのかな?
「あのね、総務。ネガティブは頑固なアホしかできない、バカな思想なんだよ? オーケー?」
いや、憎めました。かなり憎めましたとも。頑固で悪かったわね。てうか、ポジティブは、かなりの単純しかできない技だよね。
「あ。ねぇ壱花ちゃん。一時間目の授業って何?」
「野村の現国」
「……何で怒ってんだ?」
「知るかい」
はぁ。完璧にあんたのせいよ。
私は横睨みしながら、尭良の顔を見た。目の下あたりの頬にバンソウコウが貼ってある。
「どうしたの? そのバンソコー」
「え、これ?」
「うん」
「あぁ……紙で遊んでたら切れちった。ほら、ノートでもめくろうとして指とか切れるだろ?」
「ふぅん」
「あ、壱花ちゃんてば気にしてくれてるの?」
「そんなんじゃな」
「あ〜り〜が〜トンコツスープゥッ! 壱花ちゃんがここにキスさえしてくれば絶対治る!! はいっ」
顔をこっちに突き出してくる尭良。私はそこに超一級のフックをかます。イスごと倒れていくアイツを見ながら、私は思った。
神様。どうか アイツを……地獄にたたき落として。




