─〔 弐 〕─『Enough is enough!!!!<もう、うんざりだァあああッ!!>』#II
俺は振り返らず、そのまま内股気味で歩いた。路地から出るように。すると、後ろの足音が早くなる。
────チャリ
金属音がした。
来る。俺の本能がそう言ってる。いつのまにか、耳の小型イヤホンから雑音が聞こえなくなった。沈黙があたりを包んだ瞬間だった。
それを壊すかのように、紅壬の呟きが聞こえた。
「……来た」
すると、急に足音が止んだ。俺は地面を見た。影が俺の頭より上にある。
跳んだか。俺は後ろにさがった。ウエスタンブーツで走りにくいが、とにかくさがった。
そして、金属が地面に当たったの轟音とともに、男が着地した。イヤホンから別の声が聞こえた。
「目視完了。これより犯人の逮捕に移行する」
局長の静かな声が入ってくる。俺、囮だから何にもしなくていいよな? ってかこの服着てて捕まえろとか……。できるわけねぇだろッ!!
だが、向こうはそんなこと知ったこっちゃない。後ろにさがった俺に、突っ込んできた。
「ひょえぇええッ」
俺は台本通り、情けない声を出し、路地の奥に逃げた。
「ひょえぇえええッ!」
俺は、もう一回かわいらしくウソ叫びをした。よく分からないけど、オカマの道が見えてきた気がした。
俺が別のことで冷や汗気味になっているとき、後ろの音が止まった。また、跳んだのか。いや……地面に影はない。逃げられたらまずいな。奥に誘いこまなきゃ──
俺は一回犯人の様子を確かめるため、振り向いた。
男は手に持っていた金属棒の片方の先端に口を当てている。あれ…?あの体勢、テレビで見たことあ……。
「────フッ」
男は勢いよく息を吹き込んだ。瞬間、俺の頬に何かがかすめる。かすめたところが切れて、血が出てきた。
男は舌打ちをしてから、また口を棒に近づける。
あれ……そうだ。必●仕事人で見た! 吹矢だ!(てか、俺がそんな時代劇見るほど、最近平和だったんだな)
男は金属棒――吹矢にまた息を吹き込んだ。俺はスカートを王子から必死に逃げるシンデレラ風に持ちながら、走った。
どうやら二回目の吹矢も不発だったらしい。後ろからまた舌打ちが聞こえ、足音がついてきた。すると、耳のイヤホンから、声がした。
「紅壬、タイミング見計らって降りてよ。僕は狙撃専門じゃないんだから」
「わぁってる、わぁってる」
「てか局長。これって単純バカとくーちゃんだけで十分ですよね」
「おいペチャ子。今お前、何気に喧嘩売った?」
「むゥ。僕はグラマー娘じゃないよ」
「誰も倖田●未なんて言ってないわよ」
「さらっと俺を無視すんなよッ」
下らない会話を聞かされた俺は溜め息をつきながら、指輪形状小型マイクに口を近づける。
「あの……早くしてくれませんかね。連続殺人犯に終われてんですけど、こっちは。ホントいいっすよね、高みの見物って。よすぎて呪ってやりたい」
一瞬イヤホンの向こうが凍り付いた気がした。俺、そんな怖い声だしたっけ。
沈黙の後、紅壬の声が聞こえてきた。
「ま、まぁ落ち着け、尭良。ちゃんと助けてやっからよ」
だったら早くしてよねッ!
機械越しの会話をしていると、後ろから大声が聞こえた。
「くっ……逃がさん!!」
一体この格好に何の秘密があるんだろう。ただの赤ずきん風ロリファだぜ?
相変わらず追って来る男に疑問を抱きつつ、俺は走った。もう少し、あと少しで路地のつきあたり。
そこで俺は走るのをやめ、振り返った。
「フ……やっとあきらめたか、女ァ」
振り返った俺に、ほくそ笑む男。
俺は何でこんなロリファ女を追ってくるのか知りたかったため、可愛く声を出した。
「何でェ、私をォ追ってくるのォ?」
棒読みで悲劇のヒロインを演じる俺。なぜか男は低く身構えた。
「とぼけても無駄だ。あのとき、俺の顔を見てただろ」
……そっか。目撃者の服なんだ、これ。で、俺が一番背が近いから囮をやらされたんだ。
「……そうならそうと言えよバカ〜」
「ん?」
「いいえ! 何でもないのォ」
素が出かけた俺に、少し疑いながらも男は金属棒を口に近づける。
「終わりだ、女」
男はそういうと、吹矢に息をいれた。俺はそれをよけつつ、後ろの壁に向かって全速力で走った。
「無駄なことを……」
また男はほくそ笑んだ。
はッ、お前が無駄なんだよ。今に分かるぜ。俺はそう思いながら、壁をけり、勢いをつけて飛んだ。そして、ハリウッド映画のスタントのように、男の頭の上で宙返りをする。
「……んなッ」
男は驚いていた(そりゃそうだわな。ロリータまがい女だと思ってたヤツが、いきなりスタントマンみたいなことすんだからよ)。
そして俺が着地した時だった。もう一つ別の着地音がして、
「はい、つかまえた〜」
と、いう紅壬の声が聞こえた。
男は一瞬のうちに変な体勢ではがいじめにされていた。はがいじめにされた男が無理やり裾をまくられて、腕の肌が露出されている。
「く! 放せッ!」
もがく男に紅壬はうんざり気味だった。
「動いて変なとこにぶっ刺さっても知んねぇぞ。……玖月先生ェ、注射お願いしまーす!!」
────プシュッ
腕に黄色いブイつきの針が刺さり、途端にぐったりしだす男。
「く……玖月。てめぇ、どんな催眠薬ぬったんだよ? あと1ミリずれてたら、俺にあたって……──」
「事件解決には、多少の犠牲はつきものだよ」
玖月さんの冷静な声が聞こえた。
午後八時すぎ。無事、犯人逮捕。
おカマ時間の長かった今日は、仕事と共に終わりを告げた。




