─〔 壱 〕─『Be ambitious , BOY???<少年よ、大志抱いてる?>』#II
巨大ビルが俺の目の前に建っている。
早退させやがって……。壱花ちゃんのいい水着プロポーションが見れなかったじゃねぇか……。
俺はそう思いながら、ビルの路地に入り、奥の階段を下がる。下がってちょうど、灰色のドアが見えた。開けると金属のきしむ、あの嫌な音が聞こえてきた。
「ウーッス!」
入った直後、安眠アイマスクをサングラスをかけるかのようにつけている、黒いランニングシャツのエロ男がからんできた。
「……」
「おぉ!? その顔はアレだな。惚れた女に未練でも残して、ガッコから帰ってきたって感じだなぁ」
「ホントあんたはそういうのに関しては、ものすごい正解率をたたき出すよな」
「何言ってんだよ。この恋多き男は、お前の思春期の悩みのことを心配してやってんだぞォ」
ニヤニヤしながら言っているうちは、楽しんでるとしか思えねぇよ…。
自称、恋多きこの男は井 紅壬<ジン ホンレン>っていう、日本人の俺より日本語がうまい中国人。ちなみに経歴は俺とほぼ同じ。違うのは、事件内容の『ヤバさ』ぐらいだと思う。
実は俺、すごくヤバい仕事をしている。やばいっつっても警察が対応できなくなった犯罪者や脱獄囚を捕まえるって仕事。軽く言うとな。
でも、そんなヤツラにまともな人間はいない。俺たちにまわってくる事件すべてが、殺人鬼の確保・暗殺集団結成の阻止などなどの闇っぽいヤツばっか(今の日本は廃れていますからなァ)。こういうヤバいのにはヤバいので対抗しようと、よりすぐりの人格的危険の少ない重科犯罪者の現場投入を政府は発案し、実行しているってわけ。
まぁ、優しい犯罪者だってタダじゃ命張るのはやだから、お国はプレゼントをつけてくれた。
そう。
自分がしたいことのための自由を
それを見返りに俺らは住み込みで働いている。
あ、そうだ。これは絶対聞かなきゃ…ヤバい。
「もしかして、学校に電話したのって……紅壬?」
「違ェよ。そんな細けぇこと、俺がするわけねぇだろ。玖月だよ。……てか何だよ、そのさも俺が電話してたらやだなぁって言い方はよ」
そりゃそうだろ。あんたが電話したら、俺の父親がチンピラとして見られんだぞ。壱花ちゃんにそんなことでマイナス評価つけられんの、俺はイヤだ!
俺が心の中で陰口をたたきまくってると、急に紅壬が深刻な顔になった。
「なななななんだよ、その顔!」
俺は少しドキっとした。まさか俺の心を……――
「何だよ、慌て過ぎだぞ」
「だって急に真剣な顔になったもんで心の中を読ま……。そういや、何であんたここにいんだよ?今お昼寝タイムだったんだろ」
俺は頭のアイマスクを見ながら言った。
「いや、な。玖月がちょい悪徳薬剤師まがいの危険な行為をしてるか」
「だぁれが悪徳だってぇ?」
後ろから突然、別の男の声がした。
「あ。尭良もう帰ってたんだ。おかえり〜」
「はぁ」
「いや〜ネボスケ君がドアに向かって独り言してたと思ってね。……ちっ」
「『ちッ』て何だよ!!『ちッ』て!」
「べっつに〜。気にしない気にしな〜い」
この人は薊 玖月<アザミ クヅキ>。俺らと同じ元 重科犯罪者。主に後援をしている。玖月さんには別名がある。
“Mr.Raven<<ミスターレイブン>”と呼ばれた毒殺魔という別名が。
別名がつく犯罪者は少ない。玖月さんもそれなりのヤバいことをしていたから付いたんだろう。まぁ詳しくは知らないけどね。
「その言い方が一番怖いんですけどね……玖月クン」
「いやいや、怖がらなくてもいいですからね、紅壬クン」
にこやかに言う玖月さんに、冷や汗かきぎみの紅壬。
今日も男達の戦いが始まる……。アハハハハ〜。
その光景にちょっとしたナレーションを入れつつ、俺が苦い顔になりそうな時だった。
「グ〜タラ単純エロ本男に薬品バカ! 作戦会議そろそろ始めるんだから、リビングに来なさい!……ってあたしの話、聞いてんのかァ?!」
「玖月さんと紅壬は、静かな男の戦いを繰り広げている真っ最中だよ、ルイナ」
俺は奥から叫ぶ女に向かって言った。
「あぁ。おかえり尭良。ちょっと単純アホをリビングに連れてきてくんない?」
紅壬、この言葉に即反応。
「単純アホって何だよ、ペチャ子!」
「あんたのことに決まってんだろが、こんのスケベジジィ!」
最近ルイナの言葉遣いがどんどん悪くなっていってる気がする。いいのかよ…。あんたもうすぐ結婚を考えるべきお歳だってのに。紅壬と言い合う女は、Ruina Welic<ルイナ ウェリック>。うちの支局の副局長でただ一人の女性仕事人。だけど、みんな性格上の問題から、男のようにあしらっている。そのため……。
「うっせーよ!! へちゃむくれ胸なし童貞半男!」
「んだと?! 口軽汗くさ野郎ォッ!」
と、まぁ言い合いがヤバい方向へ進んで行くこともある。そんなに深夜向けじゃないのが幸いだ。
でも、これ以上言い合いを続けてたら、玄関が暑くなるし、それに……ある人がキレたら大変なことになる。
そう。恐怖と魔の三時間説教スペシャルタイムを味わうということに……。
玖月さんもそう思ったのか、止めにはいった。
「お二人さん。そろそろお止めになった方がよろしいんでは? 奥の方からドス黒い殺気がぷんぷんきてますよ」
異常反応を示した紅壬とルイナ。俺たちが恐る恐る、玖月さんの指差す方を見るとそこには……。
眉間にしわをたっぷり寄せた局長がもたれかかっていた。そして、静かに言う。
「四時間、説教だな」
キター! しかも何気に増えてるー!!
こうして本当に説教をされるはめになった。
ヘルプ・ミー。




