表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

─〔 伍 〕─『Scared Eyes.<怯える眼>』#III


「ただいま〜」

「あ。おかえり、尭良。もうすぐご飯できるから……って何? そのボロボロになってる制服。意外に制服って高いんだよ? 特に夏は洗濯もしなきゃならないから洗濯代もかさ」

「着替えてきまーすッ!!」

「あ。今、完璧聞いてないふりしたよね」

 帰ってきた尭良に玖月はアットホームなのかよく分からない言葉をかけた。

「うん! 何も聞いてないっすよォッ」

 尭良はそれに明るく返事を返し、勢いよく階段をかけのぼっていく。

 その後ろ姿を見ていた玖月が、ソファでエロ本を見るのにいそしんでいる紅壬に声をかけた。

「……ねぇ。あれ、どう思う?」

「あれ……ってェ?」

「尭良だよ。昨日、イヴンがいくら問い掛けても、すごく上の空だったじゃん。それが今日の夕方になってこれだよ」

「あぁ……。ま、青春してんじゃねぇの?」

「青春?! ……なら、まだいいんだけど」

 心配気味の玖月を、紅壬は横目でちらりと見た。

「そんなに心配しなくてもいいと思うぜェ。あいつ、意外にしっかりしてるしよ」

「……うん、そうだね」

 玖月はそう答えると、視線をフライパンに戻した。紅壬は見ていたエロ本を閉じ、テレビをつけた。バラエティ番組の司会者が笑いをとり、スタッフがわざとらしく大声を出しながら笑っている。

「バカらしい」

 玖月が小声でそうつぶやいたのを、紅壬は聞いた。だが、その番組をつけたままにした。




 そのまま10分くらいすぎた。バラエティー番組は終わっていて、ニュースに入っている。

「よし、できた。紅壬、尭良とルイナよんできて」

 リビングの机に夕飯を並べながら玖月は言った。

「あ? 面倒くせェな。自分でよんでこいよ」

「つべこべ言わずによんできなさい」

「……あぁッ!! 何でニュースにいのぴー出てんの?! あ、やべぇ。超胸でけェ……ん? グラビアアイドル伊野原智恵、某電子機器会社社長と不倫疑惑……? えぇ、うそぉ?!」

 紅壬は玖月の言葉を無視し、テレビに飛びついた。そんな彼に玖月はバズーカでもかましてやろうかと思ったが、せっかく作った夕飯にほこりがかかるのはイヤなので、ぐっとこらえた。

「もういいよ。君が使えない奴だって、よくわかったよ」

 玖月はギャーギャー騒いでいる紅壬に皮肉を吐き捨て、二階に上がっていった。上がると彼は一番手前の部屋に立ち、ノックした。

「ルイナぁ、ご飯できたよ」

「わかったぁッ! すぐ行くね」

 ルイナの返答のあと、すぐに普通ではありえない機械音が聞こえてきた。玖月は渋い顔をしながら、今度は尭良の部屋のドアをノックする。

「ご飯だよ、尭良」

 返答は無く、ルイナの部屋から聞こえてくる不気味な機械音が響くだけだった。

「ちょっと。引きこもりごっこしてんの?」

 彼は皮肉を込めて言ったが、依然返答はない。玖月はイライラの限界を押さえきれず、

「ちょっと尭良ァッ!」

 と、柄にもなく叫びながら、ドアを開けた。

 開けた瞬間、ふわっと風が彼の頬をなでた。カーテンがゆれ、窓が開いていた。

「……ホント。青春だよ、まったく」

 玖月はそうあきれながら、リビングに戻っていった。

 戻ってみると、紅壬もいなくなっていた。テレビはつけっぱなしで、眼鏡をかけたニュースキャスターが律義に話している。



「……こっちも青春なわけ?」

 玖月はそう溜め息をつきながら、彼らのおかずにラップをかけた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ