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─〔 肆 〕─『I met.<俺は出会った>』#I


 ────ジリリッ ジリリリリリッ 

 目覚ましのうるさい音が遠くから聞こえる。

 ────ジリリリッ ジリィリリリリリッ

 うっせェ……。

 ────ジリリリリッ ジジィリリリリッ

「今、ジジィっつっただろッ!」

 俺はそう言いながら、目覚まし時計に踵落としをくらわした。派手な金属音とともにぺしゃんこになった時計が、俺の足下から出てくる。

 げ……ヤバい……。玖月さんに見つかる前に……いや! ルイナだ! ルイナが誕生日プレゼントとして買ってくれたから……。俺は寝ぼけた脳みそで必死に考えた。

 そんなとき、ある男が俺の部屋に入ってきた。

「おッはよう! ねぼすけ尭良ァ !今日はこのかっこよくて頼もしい紅壬兄さんが起こしにきてやったぜェッ……ん? 何、そのカッコ?」

 俺は必死に壊れた目覚時計を隠そうとした。

「ななななな何でもないっす!」

「いやァあるだろ。てか、慌て過ぎだから」

「何にもねぇよッ。だいたい慌ててねぇ!」

「あ……壱花ちゃんが……」

「え?! どこどこどこォ!?」

 俺が辺りをキョロキョロと見回すと、いつの間にやら足下の金属の冷たさが無くなっていた。

「おわー。こっりゃぁひどくやっちまったなァ。さすがにフォローできねぇわ。でもホント、お前って安く引っかかるよなァ」

「うをわッ?! 返せよコラッ」

 俺は紅壬に飛びついた。だが軽くかわされ、床に頭からダイビングしてしまった。

「あ〜あ〜。朝から元気だな〜。若いって、いいねェ〜」

「ぎゃぁ!足で背中を踏むじゃねぇッ」

「しっかしまぁ……ルイナに恨みが相当あるようで。ニシシシシ」

「あ?! 素敵にシカトっすか? しかも笑い方が…ふんぎゃッ! あだ!! いだだだッ」

「おらおらおるァ」

「ぎゃぁ! ぐりぐりすんなッアダッ」

「は! 悔しかったらァどかしてみやがれ」

「紅壬。何? その手のやつ……」

 俺と紅壬の一瞬動きが固まる。声の主に視線を泳がせるとルイナが立っていた。

 部屋の入口に立ちすくむルイナが、もう一度聞いた。

「ねぇ、紅壬。その手に握ってる物……」

「ここれは違ェ! 俺じゃなくて、アキ」

「紅壬がやったんだよ。触るなって言ったのに〜。あ〜あ」

「尭良ァ……てめェ……ッ」

「ほらほら! ちゃんと謝ろうね〜人の物、壊しちゃったんだし」

「何言ってやがる! 誰がこんな半男に謝んなきゃならねェんだよッ。だいたいな時計ぐらいでつべこべ……って俺やっ」

「時計ぐらい?」

 ルイナの声色が変わる。いつもよりドスの聞いた声だった。俺と紅壬の動きがまた固まる。

「……へ?」

「時計……ぐらい……」

 ルイナが右手を強く握り始めた。そしてその手を……──

「やややめろ! また局長におこら……れ……」

「問答無用ォ! かァくごォッ!」

 そう言うやいなや……ってより完璧なフライングで、ルイナの拳は紅壬の顔にくい込んでいた。





「何だ?朝から刺激的な物でも見たのか」

 紅壬の顔を見ながら、局長が言った。

「アホ。どう見ても被害者のツラだろうが。鼻血出してて、顔もボコボコだぜ?」

 完璧に局長はドン引きした。

「え、まさかルイナがか? 夫婦喧嘩でそんなに?」

「誰があんな暴力ゴリラと夫婦になるかァ!」

 今度は局長が被害にあった。紅壬の左手が局長の顔に沈みこみ、見事にイスごと吹っ飛ばす。局長は床に投げ出された。

「ひどい! ひどいわ! お母さんに何てことするの?! あんたそんな子じゃなかったわ! ほら、尭良もお兄ちゃんに何か言いいなさいッ」

 局長は娘にはたかれた母親のように、悲劇のヒロイン体勢で高い声を出して言った。

「気持ち悪いっす。ちなみに局長も気持ち悪かったっす」

「んだとコルァ!? 確かに今、局長はかなりキモい事したけど、何でこんな男前がキモいんだよ!!俺は被害者だぞッ」

「紅壬、貴様ァ! 人が恥を忍んで、金10から学んだ演技を披露したと言うのに……キモいとは何だァッ!」

「はっ。誰も演技してくだせェなんて言ってねぇよ、ボケが」

「うぅ……尭良、お前も何か言えっ」

 俺はある人の方を少し見ながら言った。そう。昨日から、ちょっと怖い雰囲気を出している例のあの人を見ながら。

「玖月さん。どうぞ、一言」

「一言?そうだね……。……二人とも、いっぺん死ねば?」

 笑顔の玖月さんに、リビングにいた全員が恐怖にかられた瞬間だった。




「あれ? 皆、どうしたの?」

 怒りが冷めて、一時間後。ようやく二階から降りてきたルイナが、リビングで俺たちを見て聞いた。

「……」

「あ、ルイナ。もう朝ご飯、片付けちゃったんだけど」

「え〜。玖月のご飯美味しいのにィ……クソ単純バカ野郎があんな事しなけりゃ」

 そう言って、ルイナは鋭い目で紅壬を睨んだ。紅壬はチラチラと上目遣いでルイナの事を見て言った。

「あ……すみません。でも僕じゃないんです。僕が壊したわけじゃないんです」

「ななななな……何?改まって……。しかも『僕』って、気持ち悪いわね……」

「……ったくガキは。あの恐怖がわからねェから、まったくよォ………」

「何気に小声で言ってくれちゃってるし……」

「僕、何にも言ってません。いろんなことにちゃんと反省いたしてます」

「しかも、日本語ちょっとおかしいし」

「……るせーよ、イギリス人がよ。テメェに言われたかねぇっつーの」

「もう一発殴ろっか?」

 ルイナが引きつった笑顔の前に握り拳をもって、紅壬につめよった。

 その様子を見て、玖月さんはニコニコと笑い、局長は深すぎな溜め息を吐いた。

「夫婦喧嘩は後にしてくれ」

「夫婦じゃねぇッ!!」

 局長の顔に、今度は紅壬とルイナのパンチがくい込んだ。また見事に吹っ飛ばされ、その軌道上にいた玖月さんが軽くよけたために、壁に激突した。

 轟音とともに崩れ落ちる局長と白い壁紙。俺はあきれた。むやみにここの建物、壊すんじゃねぇって。もう今月のこづかいから引かれること間違いなしになってきたじゃんかよ……。はぁ……俺の素晴らしき“壱花ちゃんとデート計画”が金のため、台無しになりかねない。

「二人とも、落ち着きなって。」

 玖月さんが笑顔でそう言うと、紅壬がすぐにイスに座った。ルイナもその素早すぎな行動に首をかしげながらも、黙って席につく。俺はその様子を見ながら、壁と仲良く崩れてる局長を助け起こした。

「おぉ……すまない、尭良」

「壁の修理代引くなら、紅壬とルイナの給料から引けよ」

「……」

 局長は微妙な顔をしながら、まっさらな作戦会議用白壁のところにいく。

 それを見て、恒例のルイナがブラインド降ろしと玖月さんがプロジェクターのスイッチオンをした。

「それでは今回の事件について、会議を始める」

 局長がそう言うと、壁に写真が写し出された。

 壁に写し出されたのは泡を吹いて気絶しているヤツの写真だった。あちこちに青アザがある。

 局長は俺たちの様子を伺いながら、聞いてきた。

「何か疑問点はあるか?」

「う〜ん。これって例の連続強打魔くん?」

 第一声は玖月さんだった。顔がニヒルに笑っている。

「そうだが……どうした?」

「すげぇやり方ってコトよ」

「ほう。どこがだ、紅壬?」

「あ? 見るからに、叩きまくったって感じだろうが。ほら、頭とか特によ」

 紅壬が重傷者の頭を指差しながら、言った。確かに、青アザとかがかなり多い。鼻血も出している。

 鼻血ブー……。

「あぁ、そうだな。他に疑問点はないか?」

 ……。

 局長は何かの気付かせるために聞いているんじゃないか? これ。 俺はそう思い、写真をよく見た。グレーの短髪に見開かれた白目。泡が出てる口。オレンジのアロハシャツ。そして、小指をつめた4本の手。

 ……え? つめる? 4本指?

「局長。もしかしてコイツ……」

 俺が言いかけたとき、局長はうなずいた。

「気付いたようだな、尭良。コイツは新都心でも有名な暴力団組員だ。一連の事件に関する資料を問い合わせた結果、こういうヤクザ系の奴等が主な被害者だ」

「それでも妙よ。だって、ソイツらには何のつながりも」

 局長はルイナの発言を静かに制止し、ポツリと言った。

「単なる暴力団狙いの線もある。まぁ犯人を捕まえれば、おのずどはっきりするだろう」

 俺は局長のこの言葉にまとわりつく、嫌な予感をなんとなくキャッチした。

 まままままさか……今回も……。

 俺が心の中でおびえているとき、局長は力んで立ち、そして言った。

「ということで、今回も囮使用の陽動作戦だァ!」

 キター! 来たよキタヨきたよォおおッ! 無駄に等しい囮作戦。今回の犠牲者は一体誰なんだ?!

「この囮はかなり重要だ…雰囲気もヤクザっぽくなくてはならない。ので、紅壬。お前に頼」

「死ね」

 紅壬は即刻拒否した。しかも、「嫌だ」とかじゃなくて、「死ね」だ。相当ヤクザっぽいと思われたのが嫌だったらしい。ちょい怖ェ……。

「じゃあ誰にすればいい?! 玖月か? それともルイナか?」

「……」

 玖月さんは無言でバの付くものを出す。ルイナはそれの弾を装填した。

「すすすすまん。冗談だ。軽いジョークだ」

 ゆっくりと下ろされるバの付く危ない筒。

「と、いうことで、尭良! 大役はお前に任せ」

「みんな威圧するもの持ってていいなァ〜。俺ねぇもんなぁ……」

 俺は無表情で局長を見た。すると、玖月さんがバのつくアレをそっと差し出す。

「尭良…使っていいよ。この前のウップンも含めてぶっ飛ばしちゃえェ! キャハっ」

 玖月さんに別の人格が入った気が……ってマジっすか?! いいんすか?

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 俺は局長に向かって構えた。

「え…尭良君。いつからそんな……やややめよう。俺は暴力主義では……ギャーああッ!」

 夜まで局長は自室から出てこなくなってしまった。




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