頓珍漢なる考察によると
日常のすぐ裏側に潜む不穏な空気感と、カウントダウンがもたらす緊張感を意識したまえがきです。
いつも通りの時間、いつも通りの行動。完璧に把握しているはずの「日常」が、ほんの少しの違和感で崩れていく恐怖を描いたショートストーリーです。
時計の針が十六時五十五分を指すとき、主人公が抱く不安の正体とは何なのか。たった五分間のカウントダウンを、ぜひ一緒にお楽しみください。
私の考察によると、彼は17時ちょうどに帰ってくる。
彼はコンビニへ向かった。私の考察によると、彼はきっと帰ってくる。
べつに不吉な予感がするワケでもない。
ただ、不安だ。不安と不吉との間には、どれだけの違いがあるのだろうか
よもや
よもや、私のくだらない考察が、この日常を崩す引き金になるなんて。
時計の針は十六時五十五分を指している。あと五分。たった五分で彼が玄関のドアを開ければ、私の不安は笑い話に変わるはずだった。
コンビニまでは往復で十分もかからない。いつも買うのは、決まって缶コーヒーと安い焼き菓子だ。彼の行動パターンは完璧に頭へ叩き込んである。だからこそ、その「いつも」から逸脱することが怖くてたまらない。
不安は私の内側から湧き出す妄想で、不吉は外の世界がもたらす予兆。頭では分かっているのに、胸のざわめきは増すばかりだ。
もしも、あの角を曲がった先で、彼がまったく違う世界へ足を踏み入れてしまっていたら?
もしも、私が思い描く「十六時五〇分」の彼と、現実の彼が乖離してしまったら?
カチリ、と静寂の中で分針が刻む音が響いた。十六時五十六分。
外から車の走る音が聞こえては遠ざかる。彼の足音ではない。
私はじっと、動かないドアノブを見つめていた。手のひらには、嫌な汗がじわりと滲んでいる。ただ彼が帰ってくること。それだけを証明するために、私は祈るような心地で、残り四分の時間を数え始めた。
日常と非日常の境界線は、案外「思い込み」の中に潜んでいるのかもしれません。誰しも一度は抱いたことのある、理由のない不安や胸のざわめきを形にしてみました。彼が無事に帰ってきたのか、それとも別の世界へ行ってしまったのか……結末はぜひ、読者の皆様の想像に委ねたいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。




