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生物の塔を下りて行く  作者: 砂原泉


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5/9

第5話 私は熊と呼ばれているものです


 強烈な光、どこかで呼吸の音がして何かが擦れる音がする。風と言えるほどの空気の流れがある。


 第八階層は私達がいたドームと同じ広さで天井がある。


 天井にくっ付いている照明の光が眩しくて目を合わせられない。


「あれは人工太陽だ」


 本物の日光を取り入れられない八階層以下は全て人工太陽が配置されており、階層によっては動物が暮らせるように植物が用意されているとアンドロイドが教えてくれた。


 ドームの植物はどこかから種が迷い込んだという事だろう。


 あの螺旋階段を越えて偶然飛んでくる種子があるかはアンドロイドも分からないみたいだ。


 擦れる音は木の枝葉だった。


 図書館の周囲よりも生き生きした植物がたくさん並んでいる。


 これは本で読んだ森だろうかとアンドロイドに聞くと、やはりそうらしい。


「森のどこかに何かいそうだね」


「そうだな。ここは確か哺乳類がいるはず」


「哺乳類が捕食する他の種類の動物はいないのかな?」


「青人類はただ種別に分けたからな。いないと思うよ。おそらくここにも人工の生成機があるから、生きた獲物ではなく人工物を食べて生きているんじゃないかな」


「青人類は生態系というものを知らなかったのかな」


アンドロイドが腕を組んで少し考え込んだ。


 私も知識がないなりに考えてみたが、生態系を知らないような者が塔を作るなんて馬鹿げている。


 いや、生態系を知っているならこんな狂った塔を作らないのだろうか。


 私達が考えて黙り込んでいると、遠くからしか聞こえてこなかった枝葉の音や何かの呼吸の音が急に隣から聞こえた。


 私達より大きくて黒い生物だ。


 四本足だが後ろ足二本で立っている。


「熊だ!」


アンドロイドが叫び、私も話で聞いていた熊を思い出した。


 確か人を食べる。


 いきなりの命の危機に声も出せず、逃げなければと焦るが背を向けてはいけないと聞いた事もある。


 アンドロイドはホルスターの銃に手をかけていて、熊を遠慮なく殺す気があるみたいだ。


「リリーの命には代えられないだろ!」


アンドロイドの気持ちは嬉しいが、複雑な気もする。


 その時、熊が私達に一歩つめよった。


 アンドロイドが銃を構えたが、熊がそれを制するように片手をあげた。


「あなた方は人間ですか」


熊が喋るとは知らなかった。


「そうだけど?」


私は他の人間すら実物を見たことが無いので何事も本の知識とアンドロイドから教わった知識しかない。


 熊が喋るという発想はなかったが、ドームの中にいれば分からなくて当然だ。


「私は熊と呼ばれているものです。熊の仲間達の中ではアキタヤマと呼ばれています」


私だけでなくアンドロイドも驚いている。彼女にも知らない事があったのだ。


「いつの時代から熊は言葉を話すようになったんだ?」


「千年前からでございます。千年前に上からいらっしゃった人間から言葉を聞いたので、それ以来子熊が生まれるたびに話して聞かせているのです」


「人間が来たことがあったんだ」


アンドロイドも驚いているが心当たりがあると頷いた。


「千年前に数十人がいなくなる事件があった。ただ、あの図書館から出た形跡はないから塔を下りれなかったと当時は結論付けていたが……」


この塔に長く暮らすうちに、本来の熊から変化したという事なのか。


 だとしたら何も変わらなかった人類より熊の方が凄い。


「人間様、長い旅路は大変でしょう。私達の棲み処に寄っていらっしゃい。たくさんの食事を分けて差し上げます」


私とアンドロイドはどうしようかと顔を見合わせた。


 食料ならまだ十分に持っているが、旅は始まったばかり。


 食料を減らさないにこしたことはない。


 そして私には好奇心もあった。


 人間と会話することはできなかったが、人間とほぼ同じ会話を熊と交わせる。


 アンドロイドが一緒にいるからおそらく危険は無い。


「ね、行きたいな」


「分かった。でも気を付けよう」


私達は熊の棲み処について行く事にした。


 人工太陽が陰りだす。


 美しい夕暮れが森を染める。


 熊の後ろをついて歩いて、三日が経つ。


 朝早く起きて歩き出し夜は早めに休むという規則的なリズムで熊は私達を連れて行く。


 夜になりそろそろ休憩かと思ったが、熊がもうすぐだと言うのでそのまま歩いた。


 そしてたくさんの熊が輪になって座っている野原に着いた。


「おお、アキタヤマ。帰って来たのか」


「人間様がいらっしゃった。皆挨拶しなさいよ」


五匹の熊が会釈したので私達も会釈した。


 熊が岩でできた鍋にたくさんの植物と水を入れて火にかける。


 植物のスパイシーな香りが漂う。


 人間と食べるものは違えど料理をするのは同じのようだ。


「千年前に三十三人が来たのです」


火加減を調整した。


「彼らから言葉を聞いたのです。先ほども言ったように、子熊が生まれるたびに語って聞かせました」


水が沸騰した。

 おいしい匂いと湯気が立つ。


 五匹の熊が全員こちらを向いた。


「人間がおいしいという事も語って聞かされていたのです」


私があっけにとられているうちに、アンドロイドが威嚇のために一発撃った。


 それでも五匹はひるまない。


 安全なドームを出て行ってでも塔を下りたかったのに、こんな所で死にたくない!


 私も銃を撃つしかないと決意した時、頭上から大きな影が覆いかぶさる。


 大きな鳥だ。


 人間三人分くらいの大きさ。


 空から熊五匹に体当たりしてひるませると、羽毛から銃を取り出して皆倒した。


「お前は?」


味方かどうか分からない強い鳥に銃を向けるアンドロイドに、鳥が首を振った。


「俺だよ」


鳥が羽を脱いで人の形になった。


 男性型だが首にかけている金のネックレスがアンドロイドのリボンと似ている。


「俺はここの『守護者』だ。哺乳類を見張っている」


彼はアンドロイドと私の格好を見て、アンドロイドに怪訝な顔をした。


「監視対象と仲良くしているんだな」


アンドロイドも彼に不愉快を隠さない顔をした。


「人間はもう絶滅する。彼女が最期だ。だからもう私の役目はない。好きにさせてもらうよ」


「あー。やっぱり一番に滅ぶのは人間だったんだな」


あまり感じの良くない言い方だが、私はその言葉に納得もした。だがアンドロイドは嫌そうにした。


「お前も、滅んではいないが種の保存と言えるのか?」


「熊が進化したけど、どうせ青人類は気付かないよ」


彼はアンドロイドと本気で話す気がないみたいで、あまり噛み合った会話をしない。


 アンドロイドもそれを察して口を閉じた。


「下にいきたいんだ。通してくれ」


「分かった。熊の餌になられても面倒だからな」


彼はまた鳥の羽を身に付けると、私達を背に乗せて飛んだ。


 塔の壁に近い所に花畑があり、その花の一本がスイッチだった。


 ドームのスイッチとは違いけたたましいサイレンは鳴らなかった。


 再び巨大な螺旋階段を下りるが、もう恐怖はなかった。


 二度目だから慣れたというのもあるし、先ほどの熊に比べれば大したことないと思えた。


「三十三人の人も、熊に食べられちゃったけど外を目指したんだね」


「そうだなあ……。そういえば」


アンドロイドが苦々しい顔をした。


「図書館が正規の出口だが、空調の機関を破壊して出て行った可能性がある」


「それで無事に下に行けるの?」


「いや、空調の機関に入ると螺旋階段の高さを落下する事になるから、ほぼ死んでしまう」


「じゃあ熊は死体を食べたって事? 偶然生き残った人の言葉も覚えて……」


寒気がする程怖くなって二人で身を寄せ合った。


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