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生物の塔を下りて行く  作者: 砂原泉


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第3話 旅立つと決めれば


 十八歳の誕生日、またしても私たちは衝突した。


 私が本気で塔の下へおりようと言ったからだ。


 今度は私がアンドロイドの肩を掴んでいた。必死だったのだ。


「人類存続の命令から自由になったのならここにいてもいなくても青人類には関係ないよ。だからドームから出てはいけない命令に意味なんてない!」


「リリー、分からないのか? 私は青人類の命令を守りたいわけじゃない」


 十六歳の誕生日に私が誤解して痛切に後悔した事だ。自責よりももっと大きなものが今はある。


「アンドロイドが私のためを思ってくれているからだって、わかってるよ」


私の目から涙が落ちた事に私自身がびっくりした。言葉と繋がって押し寄せる程の勢いだった。


 急に変わってしまったみたいに泣き出した弱い私は、やはりドームから出るのを反対されるだろうか。


 それでも、アンドロイドに気持ちを伝えることができてよかった。


 その日は一度話を切り上げたが、後日再び話した。


「確かに塔を下りる途中で動物に襲われて死ぬ可能性はあるよ。でも、死ぬまでここにいるのは嫌だな」


アンドロイドは厳しい顔をして俯き、なかなか唇を開かなかった。


 いつまでも待つつもりで、私はドームの向こうの星を見上げた。空は透明な覆いの向こうにあり、星月は見えても空の温度は感じられない。覆いの中の常に最適な空調が私達の世界を満たしている。


 見える空がドーム越しのものであると気にしなかったのは、ドームの素材の透明度の高さのためだろうか。本当に?


 しばらく星を見ていた。青人類について知りたがったせいで世界の輝きが消えたけど、知りたがらなければ良かったと後悔することはない。


 どうせ、死を迎える前にいつか気にしてしまうような気がする。


 遠くの空に朝日が昇る直前、ついにアンドロイドが顔を上げたので、私は緊張しながらもとりみださないようにした。


「やはり、人間一人は寂しかったか?」


「寂しくないよ」


アンドロイドは何を言っているのか。


「じゃあどうして出て行くんだ?」


アンドロイドが寂しそうな翳りを見せた。私はようやく誤解があったと気付いた。


「私はアンドロイドも一緒に来て欲しいと思っているよ」


アンドロイドの嬉しそうな顔を見て私も嬉しかったが、今まで何もかもうまく伝える事ができていなかったと知り切なくなった。


「二人一緒でも、安全ではないよ」


「構わないよ」


 外の世界を見たいのだとアンドロイドに言ったが、それは二番目の動機だった。


 一番の思いは、人類が絶滅した後もアンドロイドが寂しくないように他の生物がいる塔に連れて行きたいからだ。


 さすがに青人類にアンドロイドを頼んでいいのかは分からない。地球の生物を幽閉したという点は色々考えてもなお身勝手だといえる。


 だが当時の青人類はいなくなっており、今生きている彼らは何も罪のない子孫だ。三千年の時の流れが遺恨を和らげていたのならアンドロイドを頼みたい。


 それが無理でも他の階層にいいところがあるかもしれない。


 身勝手だと分かっている。私はただアンドロイドを独りにして死にたくないだけだ。


 こんなことを言えばアンドロイドは当然外に出るのを拒否するだろうから、内緒だ。



 旅立つと決めればアンドロイドの行動は早い。


 旧時代の武器倉庫に行って帰って来たと思えば、比較的近い時代の科学工場の跡地に向かう。


 アンドロイドが支度をしている間の家事を任されたので二人の好きな物をたくさん作ったが、それさえじっくり味わう暇がない程にアンドロイドは働いた。


 メインで使っている食料生成機で携帯食料を大量に作ると同時に、私は比較的小型の食料生成機を倉庫から出して余計な機能を外して持ち歩きできるように小型化した。


 私がそれだけの事をしているうちにアンドロイドはそれ以外の全ての支度を終えた。


 たくさん歩くための靴、あまり着替える必要のない抗菌インナー。


 白い防護服とズボンの上に膝下の丈の防護ジャケットを着る。ジャケットは袖が無く腰の位置からスリットが入る。


「防護服としての実用性と文化的なデザインを両立したかったからさ」


アンドロイドはあらゆる文化の服を作るので、この様式は前も見たことがある。


 私の防護ジャケットは水色で、赤の刺繍がある。


「これは何?」


「この塔に入れられてから千年程の時代に創られた宗教の猫だよ」


言われてみれば動物に見える。丸くなる猫がガラス瓶にじゃれて三本の尾を巻き付けている。片方が長い耳で、もう片方が丸い耳だ。猫は彼岸花(絵を見せて貰った事がある)のような模様の毛並みだ。


 アンドロイドは同じデザインだが赤の防護ジャケットだ。銀の刺繍がある。


「この塔に入れられてから二千年の時代に作られた宗教の泥人形だよ」


美しい女性が泥でできた赤子を抱えて穏やかに笑っている。女性には目が三つあり腕も三本あるが赤子はいわゆる『健常』だ。


「各階層に守護者のアンドロイドがいるから、文明が貧困だと思われないようにしないと」


「他のアンドロイドはどんな感じなの?」


アンドロイドが分かりやすく面白くなさそうな顔をした。


「実はあまり話した事が無い。階層ごとに配置する前に軽く顔合わせした程度だ。だが優しそうなものより、厄介そうなものの方が多い」


「意外だね。アンドロイドはこんなにも人間を助けてくれるのに」


すると少し申し訳なさそうにアンドロイドが目を伏せた。


「私だって最初の二百年くらいはあまり良い存在ではなかった」


「信じられない」


「レイプの横行を止められなかった」


そのような歴史はあっただろうと私だって思っていたが、やはり本当にあったのだ。


「ごめんな。こんな事を教える必要ないのに」


「ううん。想像はついてた」


アンドロイドの表情に諦めが見える。だがそれだけでない明るさもある。


 どうしたのかと聞いてみると彼女は案外落ち込んではいなかった。


「リリーはもう子供じゃないから色々な事を話せるって、改めて思ったよ」


「うん。大丈夫」


塔を下りながらも、下りてからもたくさん話そうと約束した。


 そして出発する。


「極秘のスイッチは図書館にあるんだ」


「そんな所に?」

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