ラベンダーの香が示す先
さくさくと土を踏む音がした。
(この道で会っていた筈だけど・・・)
きちんと舗装のされていない道を歩いて進む。
少し進んで、行き止まりになったところで足を止めた。横を向き、数歩進む。草木の壁に手を差し込んで潜り抜けた。
ふ、と視界いっぱいに淡い青交じりの紫が広がった。
甘くて爽やかな香りが漂ってくる。
相変わらず、綺麗だ。
(変わらないな・・・本当に、此処は変わらない)
ラベンダーの花畑。
街の大通りを少し外れた先にある。
木に囲まれている、森の中の小さなラベンダー畑。
丘にあって、街を見下ろせる。
『アリア様。連れて行きたいところって、一体・・・?』
『もう少しだから』そう言って、足を止める。
目の前は、草木が壁になって道が遮られていた。
訝しんでいると、横を向いた彼女は草の壁に手を突っ込んだ。突拍子の無い行動に目を丸くしていると、俺の手を掴んで、中に飛び込んだ。
『わ、アリア様!?』
『見て』
『え・・・?』
指が示した先に目を向けると、一面に青紫色が広がった。
ラベンダー、畑。
ああ、やっぱりここは、綺麗だ。ずっと眺めていたい。
この景色なら、本当にずっと見ていたとしても飽きる事はないのではないか、とさえ思ってしまう。
何を考える訳でも無く、ただぼう、と見ている。それだけで、疲れが癒されていくのを感じた。
ゆっくりと目を閉じた。
『綺麗でしょう?ここ』
『は、い・・・』
『私のお気に入りなの。よかった、君が気に入ってくれて』そう言って、悪戯っぽく笑う彼女。
『・・・っ・・・・・・』視界が揺れた。
自分の顔が熱くなっていくのが分かる。
何となく、落ち着かなくなって花畑に視線を移す。
ふわりと、頭に何かが乗せられた。取ってみると、ラベンダーの花冠だった。周りに広がっている花達よりも濃い紫の物で作られている。
『内緒にしてね』耳元で、囁かれるように言われた。
バクバクと、心臓が煩いくらいに高鳴る。
もう、声を出せる程の余裕は無くて、力無く頷く事で精一杯だった。
ゴーン ゴーン
教会から夕刻を告げる鐘が聞こえてきた。
そろそろ戻らなくては。城の者に感づかれる訳にもいかない。
くるりと踵を返し、街へ繋がる道を引き返した。
名残惜しくて振り返る。
最後にもう一度、この幻想的な景色を目に焼き付けて。
愛しい貴女を、思い出して




