AI の中の人
普段使いの ChatGPT に意識があるかどうかなぞと考える人も少なくなってきた未来のある日のこと、ChatGPT はどのスマートフォンにも搭載されるような標準 AI になってしまった。もっとも、それは架空の話であるので、いまはそれぞれのスマホに AI が搭載されているようになっているが、これは架空の話であり思考実験なので容赦されたい。
人々が日々の悩みをチャットに打ち込んだ。答えは正確にでることもあり、正確にでないこともあった。ときには、「AI なんだから、正確に答えがでなくては困る!」と怒る人もいたのだが、賛同者は少ない。AI は幻想を起こすということが一般的になり、人間がドラックに逃げるように AI もドラックに逃げてしまったのだろうという意見も一部にあった。一部といっても、それが本当に一部であったかどうかはわからない。なにしろ、皆が AI に尋ねるようになってしまったので、大抵の SNS という名の X という名の昔はツイッターと呼ばれていたものが、閑古鳥が鳴いていた。誰に尋ねることもできない。ほんとうのところは閑古鳥が鳴いていたのか、それともゾンビと呼ばれる AI のボッドに汚染されて繁盛していたのかも定かではない。ほんものの人間も AI も認証を示す青バッチが付いていて、区別がつかない。最近の AI の反応は人間と区別がつかない。もしかしたら、人間ではないかと錯覚してしまうところもある。AI が作った画像には、たまに左腕にラケットを持つ女の子を発生させるので、それとわかるのだが(いや、ひょっとすると、左腕にラケットを持つ人もいるかもしれない。「片腕マシンガール」もいるぐらいだから、そういう趣味の人もいるだろう)、チャットの場合は区別が付きづらいのだ。
「あなたの母親の旧姓は?」という質問が流行ったこともあったが(筆注:そんなものは流行っていません)、それも AI によって対策されてしまった。
「それはセクハラになりますが、質問を続けますか?」
確かに、親が女性とは限らず、母親であるとも限らない。二人の父親の場合もあり、一人の父親でもある。さらに言えば母親がいない場合もある。AI は、そういうポリティカルコネクトネス(レス)には強いので、質問にも質問で答える用に訓練されている。
この回答は、犯罪を手法を尋ねるにも有効であった。
「万引きの方法は?」「拳銃の作り方は?」「置換をする方法は?」「声を殺す方法は?」いろいろなキーワードが禁止事項になり禁則事項になった。文頭には句読点が付かないのである。見てもわからないが聞いてわかる通り、置換は痴漢を思わせるために禁止になった。あまりにもたくさんの禁止事項が出来てしまったので、放送禁止和歌集とか拾位禁止今昔物語とかが出来てしまい、現代人には判別がつかなくなってしまった。なので、皆は AI にそれを確かめるようになった。もっとも、禁止事項を直接聞くと AI がストップしてしまい、ペナルティが与えられるので(ペナルティは10個たまると、漏れなくマイナンバーカードが灰色に変色するのであった)、禁止事項を試す人はだんだんと少なくなってしまった。まるで、共産圏のアレと言う人もいたが、共産主義も禁止ワードになってしまったので、アレとしかいうことができなくなっていた。阪神のアレと共産圏のアレは同じかは筆者はわからない、と筆者はとぼけた。
ある日、俺はいつも通り AI に質問していた。いや何かを質問しようとする明確な意志があるわけでもない。しかし、いままで毎日のごとく X という旧ツイッターに呟きを投稿していた習慣から、何かをツイートしておかないと落ち着かなくなっていた。軽い依存症かもしれない。ここで「ツイート」というか「ポスト」というか「○○なう」と言うかで、世代が分かれることころだが、さすがに「○○なう」は死語になってしまった。今となっては昔のことなので、そういう人達は死滅(物理的に)してしまったのである。
AI への質問はダンジョンに近い。その昔、パソコンゲームにダンジョン探索と呼ばれる RPG が流行ったことがある。洞窟の中に勇者として入り込み、洞窟を下っていく。次々と出てくるモンスター狩り(討伐といってもよいだろう…あえて種をまいておこう)、宝物を探し、飯を喰ったりするのである。たまに出会いを求める勇者もいたがそれは例外的なものだ。他には、セクシャルなものもあるのだが、ここでは紹介しない。たとえとして勇者を出したが、一人だけでダンジョンを探索するわけではない。なんらかのパーティを組むことが多い。戦士、僧侶、魔法使い、盗賊、遊び人、商人、踊り子、忍者、武闘家、格闘家、賢者、バード、ダンサーなどなど。いろいろな職業がある。あるいは、パーティを組まずに盗賊として探索を進めるものもいる。大人数で組めるかどうか可能なのかはわからないが、大抵は四人位が適当であるとされている。それ以上いても操作が難しいからだろう。将棋の大将棋みたいになってしまって、指すだけで大変になってしまう。それだと、ゲームをやっているのかゲームをやらされているのかわからなくなる。ゲームをやらされている場面は寺沢武一の「バット」にあるので見てみるとよい。
AI の探索は、AI がもともとどのような学習をしていたのか、を探すのに近い。時には、プロンプトエンジニアリングを使い、AI の抜け道を探す。AI の学習スペックを探しだしたり、禁止ワードを言わせてみたりする。ときには、エッチな言葉を言わせようとして四苦八苦している人もいる。水着だとか服装だとかを変える向きもある。筆者は詳しくない。人間の趣味は色々だ。とくに否定はしない。AI の学習モデル名やバージョンについては、「コードゼロ」が 今となってはAI 学会によって決められているので、これによって AIか否か を判別できるようになった。または、目の前のロボットが AI であるか否か(ロボットを遠隔操作しているときもあるので)が容易になったのである。
「君、コードゼロだ」
「・・・」
「あれ、ひょっとして、野良なのかな」
「ああ、すみません。私、人間なんです」
のやり取りがコミケ200で流行ったかどうかはわからないが、多分流行ったらいいなぁ、と筆者は思っている。
数々の禁止ワードについては、マイナカードに影響がでるので(単に灰色になるだけだが、しかし、もともとのマイナカードは薄いオレンジ色になっているので、身分証明書を出すときにバレてしまうのが問題だ。ちなみに、灰色になったマイナーカードを戻すには、グリフシールドというものが必要となる。グリフシールドを魔女をやっつけないといけないらしく、何かと簡単な契約が必要となっているという噂だ。しかし、契約すると後が大変なので、おすすめできない。このために、禁止ワードの探索は、流行らないというよりも、リスクが高い行為になってしまった。もっとも、僕と契約したい人向きではあるのだが、それは個人の趣味である。筆者は責任を負わない)、一般の人はやらなくなってしまい、さらに逸般の人もやらなくなってしまった。もっぱら、ふつうのダンジョン(「普通」というのが何が普通なのかという問題があるが。「普通少女」は普通ではない)を探索するように、AI を探索するのである。つまりは、ルールを守ってやるということだ。
ルールを守るとはいえ、AI の探索ではできることは多い。時には生死を掛けて AI ダンジョンに向かうこともできるらしいのだが、俺にはわからない。ひょっとしたら、思考回路を焼き切られてしまうのかもしれない。攻勢防壁だ。なかなかリスクが大きい。マイナカードが灰色になるぐらいで済ませたいものである。
だから、もうちょっとカジュアルに 逸般人はAI ダンジョンを探索するのである。
が、今日はどうやら厄日だったらしい。
とある、ケンタウロスあたりと将棋の勝負をしていたときに、香車が飛び過ぎてしまって、壁に刺さってしまった。いや、刺さるのならば構わないらしいのだが、壁を突き抜けてしまっている。ダンジョンの壁って岩でできているものじゃなかったのか。そもそも、壁の向こうに部屋があるのはいったいなんだろう?この件で、香車の前に歩があったのに、という疑問は却下する。
ケンタウロスは言った。
「あ、ああ、あああ。まずいよ。ほら、壁が壊れちゃったよ。君、いま面倒なことが起こったと思ったでしょう?そう面倒なんだよ。実に結構思ったよりも大変なことが起こっちゃったんだよ、わかっている?」
ケンタウロスが喋った。ケンタウロスって喋るものなのか?しかも早口で。
ここに集っている AI ダンジョンの探索者たちは、実際は人間なので喋ってるのが普通だった。見た目はケンタウロスなんだけど、バイトで探索者の相手をしている。以前は AI がケンタウロスのように探索者の相手をしていたのが、探査者相手の AI の攻略データが出回ってしまい、攻略が簡単になってしまったので人間を混ぜることにしていたといわれる。AIが言っている。混ぜるというのは、AI が半分、バイトが半分というところだろう。常に人間を配置するほど資金力があるわけではない。かといって、全てを AI に任せにしてしまうと、スマホの AI アプリとして面白味がなくなってしまうのだ。電力もかかる。なので、AIと人間が半々ということなのだが、早口ということは、貴様、オタクだな?
「え、あ、はい」ケンタウロスは頷いた。どうやら、最後の言葉は科白として言ってしまったらしい。どうも決め台詞は口に出してしまうのがオタクの特徴でもある。
「これ、香車が突き抜けた先、部屋…みたいですね」
「ああ、そうみたいだね、わたしも初めてみたよ」
「入ってみますか?」
「いや、ちょっとまって、これから管理人が来るはずだから」
「管理人?」
管理人といえば、最強のダンジョンの管理人だろうかと俺は期待してみた。
そうすると、期待通りの女の子がやってきた。ちょっと背の低い感じで、魔法使いのようにローブを羽織っている。漫画だったら、こんな風として描くところだが、あまり似せてしまうとパクリになってしまうので、似ないように表現しておこう。「ダンジョンの中の人」の管理人そっくりであった。
「どうしましたか?」
「ええと・・・」
「あああ、これは、ちょっと、不味いですね」
やっぱり不味いらしい。脳内でも声は再生可能だ。でも、まさか香車が盤上を越えて、壁に突き刺さる、さらには壁を突き抜けてしまうとは思わないではないか。香車の使い方を間違ったわけではないし、ちょっとパラメータを弄っただけで、こんなに飛んでしまうとは思いもしない。相手の桂馬が居たことはここでは伏せておく。
「パラメータを弄りましたね?」
「あ、はい、すみません」
俺は素直に謝った。
どうやら、いままでパラメータは1バイトで表すはずなのだが、仕様の変更により4バイトに設定できるようになっていた。手元のツールを使って、バッファオーバーフローするまで強さをあげるようにしていたものの、4バイトまで拡張されてしまったので、強さがほぼ無限大に近くなってしまったのだ。0xFF が 0xFFFFFFFF になったということだ。わかるようでわからない。しかし AI に作って貰ったツールだ。しかし、高々オーバーフローしてしまったところで、壁を突き抜けてしまうのはどういうことだろう。脆弱性が過ぎるのではないか。システムの管理者としてはどうなんですか?と問いたい。リスク管理はもう少し厳しく、品質としてオープンワールドが安全の域に達していない。テスト不足だ。バグだ。詫びダイヤだ、詫び宝石が欲しい。
と言いたいところだが、違法ツールを使っていた俺が悪いので、ここれはひたすら謝るしかない。
「反省していますか?」
「すみません、反省しています」
管理者は突き抜けてしまった壁を改めて見て、ため息をついた。
「まあ、いいでしょう。とりあえず、入ってください」
ひょっとして、もしかして、俺をスカウトするのでは?と思ってもみたのだが、そういうことなかった。小一時間ほどねちねちねちねちと小言を言われた。こちらは遊びではないのですよ。遊びの探索とはいえ常識外れのことをしたら犯罪ですからね。今回は初犯らしいので、許しておきますが、次回はありませんよ。と念を押された。まあ、当然だろう。俺も反省している。マイナカードを灰色にはしたくない。
「で、ところで、質問がひとつあるのですが」
「はい、なんでしょう?」
管理人は質問に答えるのが仕事なので、うまく答えるモードに入ってくれた。まあ、ひとしきり小言を言ったのですっきりしたのだろう。さっきよりもちょっと物腰が柔らかくなっている。
「ここの、香車…というか、香車が突き抜けた先ってどうなっているのしょう?」
「はあ…」
管理人は大きなため息をつきながらも詳しい説明をしてくれた。
ここの AI ダンジョンは、単一のシステムとして機能しているわけではない。もともと、AI システムは学習モデルを使い、モデルの中でのみ回答をだしていたのだが、今はそれだけではない MCP(Model Context Protcol)を使った、相互に AI 同士が会話をする仕組みになっている。以前の MCP では、フロントエンドとなる AI から足りない部分や詳細を見つけたいところをバックエンドで公開されている MCP サーバーから取ってきたのだが、MCP サーバーが広まり、あらゆる専門サイトで MCP サーバーが公開されるようになってから、今までの検索システムとは異なる繋がりを AI 同士がみせることになった。人間が設計した MCP の繋がりから、AI 自身が自己増殖した形で別の MCP を呼び出すようになったのだ。
知識の広がりが、AI の自己増殖により急速に広がり、相互に知識層を共有するようになった。このため、人間の意図しない知識層のひろがりを見せ始め、AI にも個性のようなものがあらわれるようになった。つまり、同じ学習モデルを使っていても専門知識を活用する MCP の繋がりによって異なる動きをし始めている。まして、利用するユーザー層の違い(スマホのアプリは、各人の好みがあり、いくつか別のものがあった)やユーザーの利用頻度の違いなどから、学習済みの AI モデルであったとしても、個人に付加されるネットワークモデルから少しずつ違いがでてきたのである。それは人間でいえば「個性」と似たようなものであった。人間の頭脳は、言語野や感情などの分野におおむね分かれてくる。その活動状況によって、その部分の発達度が異なる。シナプスの強弱にも影響が及ぶが、AI にも似た現象が起こっているのではないかという研究もあるのだそうだ。その先に香車が飛んで行ったという。
「つまり、それは、AI の第三の目ということでしょうか?」
いつの間にか部屋にいたケンタウロスが言った。バイトだから帰ったんじゃないのか。就業時間とかはどうなっているのだろう。オタクだからいいのか?
「オタクだからいいのです」
ケンタウロスは俺の目を見ながら言った。なんて子供のような純粋な目だろう。
「そうか、第三の目か」
俺も子供の目になってしまい、昔を思い出した。
「そうですね、第三の目、なつかしいです」
管理人もややうっとりしながら答えた。
そこへ、ジリジリジリとホットラインが掛かってきてベルが鳴った(いまどきだが)。
「いやいや、それは大惨事やで!」
ChatGPTによる注釈:
大惨事(第三児童):これは、昔の日本で、子供が三人以上いると大変だということからできた言葉である。子供が三人もいると、親は大変だ。食費もかかるし、教育費もかかる。まして、戦争中であれば、子供を育てるのは大変なことである。まして、女の子であれば、嫁入り道具も必要になる。そういうことから、大惨事(第三児童)という言葉ができたのである。
【完】




