【序章】封印の呼び声(エピローグ的導入) 【第1章】士官学校の日常
——お前は、選ばれし者ではない。
だが、お前だけが、それを振るう資格を持つ。
誰かの声だった。夢の中で、何度も聞いたことがある。
燃え盛る戦場。空を裂く雷鳴。赤く染まった大地。
無数の命が消えていく中、レオンはただ、一振りの剣を手に立ち尽くしていた。
名もなき剣。だが、その刃に宿るものは、確かに世界を変える力だった。
【第1章】士官学校の日常
王都フェルゼンの西、城壁の外れに位置する《王立士官学校》。この国で騎士を志す者たちが集う、最も格式ある学び舎である。
その訓練場に、今日も鋭い剣戟の音が響いていた。
「はい、そこまで!」
指導教官ガラルドの鋭い声が飛ぶ。全身を鎧で覆った大柄な男で、元・王国騎士団の副団長を務めた実力者だ。
「次、レオン=エルヴァイン。出てこい」
「はい!」
呼ばれた少年が、一歩前に出る。深緑の訓練服を着たその姿は、まだ幼さを残しているが、周囲の生徒たちの視線は彼に集中していた。
《鉄の剣》。それは訓練用に配布される、ごく普通の実戦用模造剣。
レオンはそれを腰から抜き、無駄のない動作で構えを取る。
「来い。手加減はしないぞ」
「はい、お願いします」
そして、手合わせが始まった。
最初の数合は、明らかにガラルドの優勢。重く鋭い斬撃がレオンに襲いかかる。だが彼は、紙一重の間合いでそれをいなし、足を動かして懐へ飛び込む。
「——はっ!」
剣が、ガラルドの籠手に触れる寸前で止められた。
「……ふむ。良い太刀筋だ。以前より間合いの取り方が鋭くなったな」
「ありがとうございます!」
ガラルドは頷き、周囲を見渡すと、言った。
「優等生の中から選抜して、来週から実地訓練を行う。目的地は、王都北方にある《古代遺跡バル=ラグナ》だ。志願者には覚悟を持って臨んでもらう。……以上!」
---