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友達の声が届かない

〈正直、ごめん。わからなくなってた〉


 ……と。

 鈍器でガツンと胸を殴られたみたいな衝撃が走って、我慢できなくて、気がついたらあかねはすぐに箕輪に電話していた。


 でも……、たった今メッセージを送ってきたはずなのに、彼は電話に出てはくれなかった。


 あかねはパニックになって、半狂乱(はんきょうらん)みたいになった。

 彼を失いたくなくて、堪まらなかった。

 何度も連絡して、大学で追いかけてやっと彼と話せたと思ったら、彼は嫌そうな顔であかねを見た。

 いかにも――〈空気読めよ〉みたいな顔で。


「別れようぜ、もう」


 と、あっさり冷淡に言われた。

 でも、トラウマにでもなってしまったのか、細かくどんな話をしたとか、ニュアンスはどうだったかとかまでは覚えていない。

 ただ、彼の向こうでイチョウの葉がちらちら散っている景色だけが、目の奥に悲しく焼きついていた。


 彼は、


「俺だって言いたいことは山ほどあるんだぜ? そっちが全然気持ち言わないのにも不安になったし、連絡をくれないところも嫌だったし」


 ……と、言った。


「でも、それは、雄大君に負担をかけたくなくて……」


 そんな風に、どんなにあかねが彼を想っていたかを一生懸命伝えたけれど、駄目だった。

 箕輪の話を聞いていると、別れの何もかもがあかねのせいみたいだった。


「もう決めたから。無理」


 最後は取りつく島もなくそう言われて、二人は別れた。


 その夜は瞼が開かなくなるくらいに泣いて、例の友達にも、『絶対別れてよかったよ!』と何度も言われた。


「――そいつ、マジで最低な男じゃん! あかねの純粋な気持ちに浸け込んでさ。もう構っちゃ駄目。そういう奴だったんだよ!」


 別れてよかった、三か月で奴の正体がわかってよかった――と、あかねもそう思った。……はずだった。


 ……けれど、箕輪は質の悪い男だった。


 苦しくて切なくて悔しくてムカついて、酷い扱いを受けたはずなのに全部自分が悪い気がして、『悪いとこ全部直すから』と言ってすがりたいと思い詰める嵐のような時間がようやく過ぎて落ち着いたと思った一か月後に、……電話があったのだ。



『――久しぶりに会いたいなって思って。あかねはいつも俺のこと凄く考えてくれてたって、やっと気づいたんだよ。ごめんな、傷つけて』



 なんて、言うのだ。


 その言葉を聞いた途端、言ってやりたかった文句は全部消え失せて……。


 あかねは、泣いた。

 泣いて泣いて、気がついたら言ってしまっていた。


「あたしも悪かったの……。自分で雄大君が忙しいって勝手に決めつけて、連絡しなかったから……」


 震える声で。

 でも、幸せで。

 あかねは……、本当は自分が、彼との復縁をずっと夢見て待っていたのだと知った。

 こんなに人を好きになったのは、初めてだった。



 ♢ 〇 ♢



 二人は再会してまた付き合うようになって、今度は二か月楽しかった。


 でも、復縁して三か月目になると、箕輪はまた自分勝手になって……不安になってスマホを覗いたら、びっくりするくらいの数の女の子と遊んでいた。


 最初にあかねに対してしたみたいに真面目っぽく誘っているのもあれば、あからさまにいやらしいメッセージのやり取りをしている女の子もいた。


 あかねの存在を知っていて、馬鹿にしているようなやり取りもあった。


 手が震えて、胸の動悸に殺されるかと思うほどドキドキして、汗が止まらなくなって……。……なのに、その地獄みたいなやり取りを、何人分も、どこまでもどこまでも、読み漁る手が止まらないのだった。


 堪らえ切れなくなってあかねのベッドで眠りこけている箕輪を無理やり叩き起こすと、彼は浮気のことは一言も謝らずに、スマホを勝手に見たあかねを激しく責めた。


「……つーかさ。何で勝手に人のスマホ見るわけ? それが信じられんわ。おまえ、マジでキツいよ。最悪だわ。俺にはプライベートもないわけ?」


 イライラした声で言って、その後はどんなにあかねがすがって(へりくだ)って謝っても、……彼は許してはくれなかった。


 箕輪は朝を待ってあかねの部屋を出て、あかねからの連絡手段をすべてブロックした。


 一度目に別れた時よりも今度は傷が深くて、猛烈に傷ついて、あかねはぐちゃぐちゃになった。

 ぼろ雑巾みたい――という喩えがあるけれど、まさにその通りだった。

 胸の同じところにさらに深く傷を抉り刻まれて、あかねはリストカットまでしてしまった。

 けれど、それは高校や大学の友達が駆けつけてくれて、皆が泣いて止めてくれて、一度で終わった。


 そうやって、二度と彼とは寄りを戻さないと誓ったはずなのに……。

 一か月後にブロックが解除されて、彼から連絡があった。


〈やっぱり仲直りしよう〉


 って。

 今度ばかりはもう箕輪の本性ははっきりとわかっていたから、あかねも警戒して、感じ悪く〈無理だから〉と返した。


 でも、彼はしつこくて、大学で追いかけてきたり家まで押しかけてきては『反省した』と何度も繰り返して、あかねが好きだったスイーツやドリンクなんかを部屋へ差し入れに持ってきたりして――。


 いつの間にか押し切られて……、あかねは箕輪と仕方なく寄りを戻していた。


 友達は、皆大反対だった。


 でも、あかねは、自分でも自分を止められなかった。


 二度目の復縁はお互いに不信感が(つの)りすぎて、会う度に喧嘩し、(ののし)り合う関係になっていた。


 あかねは今度こそ自分を押し殺すのはやめようと不安や不満を全部箕輪にぶつけたし、彼は彼で、歯向かうようになったあかねがどんなに自分を傷つけたかをいつも主張した。


 箕輪とあかねは、付き合ったり別れたりを繰り返すようになっていた。


 あかねが彼女の時もあったし、別れていて、箕輪には別の彼女ができて、セフレだったり、二股相手だったりした時もあった。


 彼と切れている期間が長引いた時には、あかねも新しく彼氏を作ってみたこともあった。


 でも、優しい新しい彼氏達を、あかねはどうしても好きになれなかった。

 彼らはどう見ても箕輪ほどには冴えなかったし、優しいだけが取り柄な地味な男に見えたから。


 あかねの胸の中には、いつでもあの悪魔みたいな箕輪がいた。


 だから、その時付き合っていた彼氏と別れた後で、またもあかねは彼にすがってしまった。

 ちょうど箕輪も彼女がいなかったようで、二人はまた付き合うようになった。


 だけど――、そのうちに、あかねの妊娠が発覚した。


「……嘘……」


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