表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

のじゃロリ魔神、オムライスを食す。

金色の髪に赤い瞳、ボロボロのローブをまとった幼女——いや、のじゃロリ魔神。


 だが、俺の目の前にいるのはどう見ても「異世界に迷い込んだ貧しい孤児」にしか見えない。


「……お前、本当に魔神なのか?」


「うむ! 妾はこの世界に恐れられる存在……! しかし今はちと力を失っておるのじゃ……」


「ほう……」


「……?」


 俺はしばし彼女の顔を見つめた。


「な、なんじゃ? その目は?」


「いや……腹減ってるだけじゃないか、お前」


「ぬ、ぬぬ……! 確かに空腹で力が出ぬが、それがどうしたというのじゃ!?」


「どうしたもこうしたも、飯食わないと始まらないだろ」


「……はっ!」


 ヴァルフェナスの顔が驚愕に歪む。


「ぬ、ぬし……さてはただの凡人ではないな!? 魔神たる妾の悩みを一瞬で見抜くとは……!?」


「いや、見りゃ分かるだろ……」


「……むぅ、そうか……そうじゃな……」


「よし、なら俺の転生特典の出番だな!」


「なに?」


 俺は手を前にかざし、意識を集中する。


「《生活物資》!!」


 俺が能力名を叫ぶと、目の前に新品の鉄鍋が**バシュッ!!**と出現した。


 それを見て、ヴァルフェナスの目がキラキラと輝く。


「ぬおお!? なんじゃこれは!? ぬし、また、いきなり変な物を生み出したのじゃ!?」


「おう。どうやら俺のスキルは、日常生活に必要な道具を出せるみたいだな」


 俺は手を前にかざし、再び意識を集中する。


「《生活物資》!」


 次の瞬間、今度はまな板と包丁が目の前に現れた。


「ぬぅ!? 今度は武器まで!? すごいのじゃ!」


 キャッキャと目を光らせながら喜ぶヴァルフェナス。


「いや、これはただの調理器具だ」


「ほほう? ……では、この鋭い刃で魔獣を一刀両断するのじゃな?」


「そんなことしねぇよ!! 料理するんだよ!!」


「むう……つまらぬのじゃ」


 ヴァルフェナスは少し頬を膨らませ、腕を組む。


「しかし、ぬしの能力はなかなか面白いのじゃ! 他には何が出せるのじゃ?」


「試してみるか……」


 俺は次々と《生活物資》を発動する。


「《生活物資》!」


 ——バシュッ!


 今度は、新品のフライパンが出現した。


「《生活物資》!」


 ——バシュッ!


 次に現れたのは、塩・胡椒・バター・米・卵。


「……おおお!? これは、まさか!!」


「そうだな……これだけ揃えば、オムライスでも作れるな」


「ぬぬぬ!? オムライスとな!? そんな高級料理をぬしは作れるのか!?」


「お前の世界の料理レベル、どんなもんなんだよ……」


わらわが知る限り、魔族の食事は“焼く”か“煮る”しかないのじゃ! あとは生肉をかじるくらいか」


「おい、魔族の食文化、未発達すぎねぇか……?」


「むむ……そんなことはないのじゃ! ぬしの世界が異常なだけなのじゃ!!」


「いやいや、そっちのほうが異常だろ……」


「と、とにかく!! 妾はオムライスとやらを食べてみたいのじゃ!! さっさと作るのじゃ!!」


「へいへい……っと」


 俺は手際よくフライパンを火にかけ、バターを溶かす。


 ジュワァァァ……!!


「むおおおお!? な、なんじゃこの良い匂いは!!」


 ヴァルフェナスは、よだれをダラダラと流していた。


「ふっふっふ……まずはケチャップライスを作る」


 米を投入し、ジュウジュウと炒めながら、ケチャップと塩胡椒で味を調える。

 森中に広がる、甘酸っぱい香り。うん。いい匂いだ。


「ぬ、ぬぬぅ……! なんだこの神々しい香りは……」


「よし、次は卵だな」


 溶いた卵にバターを絡め、フライパンの上でふわふわに焼き上げる。

 そして、ライスの上にそっとかぶせるように乗せると——


「完成だ」


「ぬおおおおお!!??」


 ヴァルフェナスはガタッと立ち上がり、食い入るようにオムライスを見つめた。


「お、おじさん……これが……オムライス……黄金に輝いておりのじゃ! 美味そうすぎるのじゃ! 食って良いのか? 良いのかえ?」


「ああ、冷める前に食え」


 それを聞いたヴァルフェナスは、激しく首を縦にふる。


「い、いただくのじゃ!!!」


 ヴァルフェナスはスプーンを手に取り、一口すくう。

 ふわふわの卵と、しっとりとしたケチャップライスがスプーンの上で踊るように揺れる。


 そして——


「……!!」


「……どうだ?」


 ヴァルフェナスはブルブルと震え——


「ほほほほほほほぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!! う、うますぎるのじゃぁぁぁああああああああああ!!!!」


 目に涙を浮かべつつ、スプーンを次々と口に運ぶ。


「な、なんじゃこれは……!? こんなに美味い食べ物が存在していたとは……!! 今までの飯は何じゃったのじゃ!!」


 口にケチャップを付けながら感激の言葉を送ってくれる。

(ここまで喜んでもらえると作った甲斐があるってもんだな)


「そりゃよかった」


「……ぬし……」


 神妙な眼差しでコチラを見てくる。


「ん?」


「ぬし、まさか神ではないのか!?」


「いや、ただの無職おじさんだって」


「ぬぬぬぬ……妾の知る限り、ここまでの美食を作れる者はこの世界にいないのじゃ!! 食べ物を司る神以外じゃ作れない美味さじゃ」


「そんな大げさな……」


「いや、本当におらぬのじゃ!!!」


 ヴァルフェナスは息を荒くしながら、さらにオムライスを頬張る。


「……ふぅ……満腹なのじゃ……」


 地べたに寝転がりながら腹を抑えている。


「そりゃよかった」


「むぅ……おじさん、ぬしの能力はすごいのじゃ……! 妾のために、これからも作るのじゃ!!」


「まぁ、飯作るのは別にいいけど……食材の確保が大変だな」


「ふっふっふ……それなら妾に任せるがよい!!」


 ヴァルフェナスは自信満々に胸を張る。


「ぬしが料理をするなら、妾は食材を調達するのじゃ!!」


「お、頼もしいじゃねぇか」


「では、狩りに行くのじゃ!!」


 ヴァルフェナスは森の奥へと駆け出していった。


「……本当に大丈夫か、あいつ」


 そんな俺の不安をよそに——


ヴァルフェナスの狩猟が、すぐに異世界を騒がせる大事件になることを、この時の俺はまだ知らなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ