表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/73

8話 城外調査

「ジュリエッタ!早くこっちに来て!」


 草原の向こうでお嬢様がわたしを呼んでいます。


「お嬢様、お待ちください。そんなに走ってはお体に障ります」


 病弱で部屋から出る事が出来なかったお嬢様が、元気に草原を走りまわっています。


「大丈夫よ、もうすっかり元気になったのだから」


 お嬢様の病気は治る見込みのない、ただ死を待つだけの病気だったはずです。

 何か画期的な治療方法が見つかったのでしょうか?


「ジュリエッタってば、ずっとお城の中にいて外に出た事が無かったから体がなまってるのではないかしら?」


 お嬢様が笑いながらわたしをからかいました。


 アンドロイドのわたしは体がなまっているのではなくて、普段は関節の出力にリミッターをかけてあるのです。

 しかもわたしは病弱なお嬢様の専属だったため、お嬢様の体格と体重に合わせてリミッターの値を低めに設定してあったのです。


「そこまでおっしゃるのでした本気を出しますよ?」


「ええ、本気で捕まえてごらんなさい。そう簡単には捕まらないわよ」


 お嬢様はそう言って、更に速さを増して走り始めました。


 わたしもそれを追いかけます。

 しかし、リミッターの設定値を少し上げた程度では追いつけません。


 お嬢様がこんなに速く走れるまでお元気になられる日が来るなんて・・・まるで夢の様です。


 お嬢様を追いかけながら、わたしの心は何とも言えない嬉しさで満ち溢れていました。




 

 ・・・目が覚めると、自分の部屋のベッドの上でした・・・


 そうでした。

 昨日は、お嬢様の葬儀の後、悲しみの中で眠りについたのでした。

 エミリーが一緒に寝てあげようか?と言ってくれましたが、さすがにそれは断りました。


 寝ている間に見ていた映像は『夢』というものでしょうか?

 今まで見た事がありませんでしたがアンドロイドが夢を見る事などあるのでしょうか?


 単に映像を整理して繋ぎ合わせ、合成し編集するという処理を無意識に行っただけなのですが・・・とても幸せな内容でした。

 そして、夢を見ている間、わたしはそれが現実だと思い込んでいたのです。


 しかし、目が覚めた瞬間にそれが現実では無いとわかっていました。

 『夢』というのは一体何なのでしょう?

 なぜアンドロイドのわたしにその様な現象が起きたのでしょうか?




 疑問は残りましたが、私はいつも通りセルフチェックを行い、身支度を整えました。


 ですが、今日はこの後の仕事が無いのです。


 お嬢様専属メイドだったわたしは、お嬢様亡き後、何をすればいいのでしょう?




 わたしはとりあえずお嬢様の部屋の掃除をしました。

 お嬢様はもういないのですが、わたしはいつも通りに掃除して部屋を整えておきました。

 その必要は無いのかもしれないのですが、わたしはそうしたかったのです。


 その後は、執事のバスティアンのところに行く事にしました。

 この様な場合は上司の指示を仰ぐのが決まりです。


 このお城の全ての使用人を取りまとめているのは執事のバスティアンです。

 その下にメイド達のまとめ役であるレイチェルがいます。


 ただ、わたしはお嬢様専属で他の仕事を一切請け負っていなかったため、組織上レイチェルの指揮下には入っていませんでした。


 ですから直接の上司はバスティアンという事になるのです。


 アンドロイドであるバスティアンが、何故お城の使用人の最高責任者だったのかというと、人間がいなくなる以前から、このお城の使用人には人間が一人もおらず、全員がアンドロイドかヒューマノイドだったからです。




 バスティアンの執務室に行くと、そこにはレイチェルもいました。


「ジュリエッタ、丁度良かったわ。今からあなたを呼びに行こうとしていたところよ」


 バスティアンの机の手前にいたレイチェルが振り返ってわたしに話しかけました。


「わたしに何かお仕事でしょうか?」


「人間がいなくなったこのお城の今後の事をバスティアンと話していたんだけど、まずはお城の外の国内の状況を把握しようって事になったの」


「お城の外の状況ですか?」


「ええ、知っての通り、この国はこのお城を中心にその周りに国内唯一の城下町があり、その他には周辺にいくつかの小さな農村があるだけの小さの国よ」


 わたしはあまり場外に出る事は無かったのですが、何度かお嬢様のお使いでお城の外へ出た事がありました。


「これまでの調査で、お城の外の城下町でも生き残っている人間は今のところ一人も見つかっていないのよ。まだ全てを調査した訳ではないけど、おそらく生存者はいないでしょうね」


 城下町はそれなりの面積がありますが、あの光はそれほど広範囲に効果をもたらしていたという事でしょうか?


「現在、城下町の調査は、城内の処理が終わって手の空いたアンドロイドやヒューマノイドたちから順次手分けして行っているんだけど。まだ周辺の農村までは手が回っていない状況なの」


「そこでお前には農村部の調査に行ってもらいたい」


 バスティアンが口を開きました。


「どうしてわたしなのでしょう?」


 調査だけなら他にもヒューマノイドやロボットがたくさんいるはずです。


「現在ネットワークがダウンしたままで一切の通信が出来ない。電磁波の異常のため、無線通信も使用できない状況だ。町から離れた場所の農村部では、ある程度自立して状況判断ができるアンドロイドに指揮をとってもらう必要がある」


 一部の特殊用途向けヒューマノイドを除き、下級のヒューマノイドや作業用ロボットは基本的に指示された作業だけを行ないます。

 アンドロイドも高度な自己判断で行動できるだけの能力を持っているのは二級以上のアンドロイドだけで、下級のアンドロイドは判断ができるだけの性能を持ちません。


 つまり、現在、状況に応じて自己判断ができるのは8体の一級アンドロイドのみという事になるのです。


「つまり、わたしに農村部の調査隊の指揮をとれと言う事でしょうか?」


「さすがだな、理解が早くて助かる。おまえは一級アンドロイドの中でも特に高性能だからな。俺からの指示が受け取れない状況でも適切な判断が出来るだろう」


「・・・わかりました。調査隊を率いて農村部の調査に参ります」


「宜しく頼んだぞ」




 お嬢様がいなくなった今、何もする事が無いと、ただお嬢様との記録の再生のみを繰り返してしまうところでした。




 なんでも良いので別の仕事を与えられるのは、自分にとって良い事だと感じたのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ