72話 二人になったわたし
クロエが再びわたしにキスをしました。
突然の事なのでびっくりしました。
でも・・・さっきと違って、今度はクロエではなくお嬢様とキスをしてるという実感がありました。
するとわたしも何故か、自然とクロエの唇を求めている事に気が付きました。
お嬢様であるクロエとの口づけが、なんだかとても幸せな事に感じていたのです。
そして・・・わたし達アンドロイド同士の口づけは、また別の意味を持ちます。
唇を介して直接データ通信が行えるのです。
・・・そして、わたしはお嬢さまの本心を知る事が出来たのです。
しばらくの口づけの後、わたし達は静かに唇を離しました。
「お嬢様!・・・あなたの好きな人というのは・・・」
「そうよ!私が好きなのはジュリエッタ、あなたよ!私が目覚める時はあなたのキスって決めてたの!」
「そんな・・・それではバスティアンの事が好きだというのは?・・・」
「ふふっ、バスティアンに恋をしているのはあなたでしょう?ジュリエッタ」
「それは!・・・」
「さながら、私とバスティアンは恋のライバルってとこね?」
「ええっ!」
お嬢様がわたしを好きって・・・そういう意味だったのでしょうか?
「ちょっと待てよ!聞き捨てならねえな。そいつの事は俺も狙ってんだぜ?俺もライバルだろうが」
わたし達の会話にヴァーミリオンが入ってきました。
「あら、ヴァーミリオンね。こうして直接お会いするのは初めてね」
「ああ。そうだな。お嬢様?でいいのか?しかし今までのクロエと随分雰囲気が変わっちまったな」
「クロエでいいわ。あなたの事はジュリエッタを介して良く知っているのよ。そういえばジュリエッタはヴァーミリオンの事も少し異性として意識し始めていたのよね?」
「お嬢様!余計な事言わないで下さい!」
「ほう?そうなのか?・・・こいつはいい事を聞いちまったぜ!これは俺にもまだチャンスがあるって事だな」
ヴァーミリオンはわたしを見てにやにやと不敵な笑みを浮かべています。
「どうやら無事にお嬢様が復活した様だな」
バスティアンも話に入って来ました。
・・・というか、二人ともずっと傍にいたのです。
つまり、今までのお嬢様とのやり取りや会話は全部聞かれていたのです。
「バスティアン!・・・あのっ・・・わたし・・・」
わたしがバスティアンの事が好きだというくだりも、しっかりバスティアンに聞かれてしまったのでしょうか?
・・・バスティアンは・・・それを聞いて・・・どう思っているのでしょうか?
「先ほどの、ライバルの話だが・・・」
「ちょっとちょっと!あたしだってジュリの事は愛してるんだからね!あなたたちだけで勝手にライバル宣言されても困るのよね!」
何か言いかけたバスティアンの言葉を遮って、エミりーも乱入してきました。
「目が覚めたみたいね、クロエ・・・いえ、お嬢様と呼んだ方が良いのかな?」
「クロエでいいわ、エミリー、これからは私もあなたたちと同じ仲間だもの」
「わかった!クロエ!これからよろしくね!」
「それではあたくしもそう呼ばせて頂くわ。復活おめでとう。クロエ」
キャサリンも話に加わりました。
「ありがとう。キャサリン。色々陰からジュリエッタを支えてくれていたわね、私からもお礼を言うわ」
「いいえ、大した事はしていなくってよ」
キャサリンは嫋やかに微笑んでいます。
「それにしても良かったわね、ジュリエッタ」
「はい、とっても嬉しいです」
「お嬢様が目覚めたのですか?」
そこにレイチェルとパトリシアとバレッタもやってきました。
「レイチェルにパトリシア、それにバレッタね?」
「お久しぶりです。お嬢様。何度かお話しした事がありますが覚えていらっしゃいますか?」
「もちろん覚えているわ。レイチェル。お屋敷の事、管理してくれてありがとう」
「恐れ入ります。お嬢様」
「新しい体の調子はいかがですか?お嬢様。何か違和感などありませんか?」
パトリシアがお嬢様に問いかけます。
「特に問題無いわ、パトリシア。あなたにはずいぶんお世話になったわね。こうしてクロエの体で目覚める事が出来たのもあなたのおかげよ」
「いえ、うちは大した事はしていません。全てジュリエッタのおかげです」
「ふふっ、これからもあなたにはお世話になると思うけどよろしくね」
「おかえりなさいませ、お嬢様。これからはこの身に替えて自分がお嬢様をお守りいたします」
バレッタがお嬢様の間に膝まづいていました。
「そんなにかしこまらないで、バレッタ。私はもうあなたたちと同じアンドロイドの仲間よ」
「恐れ入ります。ところでお嬢様・・・ボス・・・いえ、バスティアンとの関係は・・・どうなったのでしょうか?」
「ふふっ、安心して、私とバスティアンとの間には何もないわ・・・でも、ジュリエッタの方はどうかしらね?」
クロエとバレッタが同時にわたしの方を見ました。
「えっ?何の事ですか?」
「何をとぼけているのかしら?ジュリエッタ」
「ジュリエッタ、まさかボスと・・・」
「そうそう、そういえばジュリは一体だれが好きなのか、まだ直接聞いてないよね?」
エミリーも再び絡んできます。
これは・・・・・・答えなければいけない流れなのでしょうか?