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70話 お嬢様の自我

 何故こんな事になったのか、理由は分かりません。

 でも脳に手術を施した後、わたしの意識はアンドロイドの『ジュリエッタ』の中に移ってしまったのです。


 わたしの脳に埋め込まれた回路は、人間がアンドロイドなどのアバターのボディを直接操るためのものだと思います。

 その回路を通じて『ジュリエッタ』の体をアバターとして動かしているのだけだったのかもしれません。

 しかし、それなら過去の記憶が無くなる事は無いでしょうし・・・わたしの生身の体が死んでしまった時、わたしの意識も一緒に消えていたはずです。



 そして、アンドロイドの『ジュリエッタ』の中に意識が移った直後のわたしは、自分で自分の存在というものを意識していなかった様に思います。



 わたしが自分を意識するようになったのは・・・やはりお嬢様、つまり自分の体が死んだ、あの日からなのです。




「全てを思い出したかしら?ジュリエッタ」


 わたしの目の前でクロエが微笑んでいます。


 その話し方は・・・夢の中のお嬢様そのものです。


「クロエ・・・・・いえ、お嬢様?」


「ふふふ、『お嬢様』はあなたでしょう?本物のジュリエッタ」


「いえ・・・今のわたしは・・・アンドロイドの『ジュリエッタ』です。それよりも、お嬢様・・・あなたは一体?」


「そうね・・・何から話そうかしら?」


 クロエの姿になったお嬢様はなんだかとても嬉しそうです。

 あの無表情だったクロエが生前のお嬢様と同じ笑い方をすると、まるでお嬢様が生き返ったみたいにそっくりに見えます。


「・・・あなたは、元々『ジュリエッタ』の中にいたAIなのですか?」


「そうではないわ。『ジュリエッタ』のAIは今のジュリエッタ、つまりあなたに上書きされてしまったの。そもそも最初の『ジュリエッタ』のAIには自我は無かったもの」


「それでは、あなたは・・・」


「私は・・・・・あなたの中に芽生えた二つ目の人格よ」


「二つ目の・・・人格?」


「そう、アンドロイドの『ジュリエッタ』の性格に憧れたあなたが作り上げたもう一人のあなた。運命に流されず前向きで、生きる事を心から楽しむ事が出来る理想の自分、それが私だったの」


「・・・二重人格・・・という事ですか?」


「そうよ、あなたはアンドロイドの『ジュリエッタ』と出会って、その容姿と性格に憧れ、自分がそうなりたいと強く願っていた。そうしているうちに、あなたの中にもう一つの人格が生まれたの。でもその人格は表に出る事なく、あなたの頭の中だけで育っていったわ。ところがそんな時に脳にアバターシステムの回路が組み込まれたの。それは本来アンドロイド『クロエ』とリンクして、あなたの記憶と自我を共有し、いずれあなたの肉体が寿命を迎えた時に『クロエ』の人工脳にあなたの自我を残すための試みだったの」


「それがどうして『ジュリエッタ』に意識が移ってしまったのでしょう?」


「それはきっと、あなたは『ジュリエッタ』の性格や美しい姿かたちだけでなく、自由に動き回る事が出来て病気になる事も無いその体に憧れ、無意識の内に自分がアンドロイドだったら良かったのに・・・と考える様になっていたからではないかしら?」




 ・・・確かに、そうです。

 アンドロイドだったらこんな病気で苦しむ事は無かっただろうと思った事はありました。




「その思いが強すぎて、アバターシステムが誤動作し、本来アンドロイド『クロエ』とだけリンクするはずだったシステムが『ジュリエッタ』にもリンクしてしまったの。結果として記憶だけが『クロエ』と共有する事になり、意識・・・つまり自我は『ジュリエッタ』に乗り移ってしまったの。そうして取り残されたもう一つの人格・・・つまり私が元の肉体に現れたのよ」


「わたしとあなたはそこで別れた・・・という事ですか?」


「そうね、ただ厳密には少し違うの。元々は一人の人格なのだからそう簡単に二つに分かれる事は出来ないわ。根底にある人格は本来の肉体と『ジュリエッタ』の両方に共存していたのよ。表層に現れる人格がアンドロイドの体と生身の体に別々に現れた状態になったのよ」


「それが・・・『ジュリエッタ』となったわたしが見ていた『お嬢様』、つまりあなただったのですね?」


「そうよ。あなたは自分がメイドアンドロイドの『ジュリエッタ』だと思い込んでいた。実際、あなたの人格は『ジュリエッタ』のAIと本来のジュリエッタの人格が融合したものだから、あながち間違いではないのだけど、過去の記憶を無くしてしまったので、自分がアンドロイドだと思ってしまうのは当然の事だったのね」


「あなたはどうだったんですか?」


「私は過去の記憶を持ったままだったから、当時は単にあの時をきっかけに自分の性格が変わったのだと思っていたわ。自分の運命を受け入れた上で、残された時間を大好きな『ジュリエッタ』と一緒に目いっぱい楽しむと決めていたの」


「それでお嬢様はあのように明るく積極的だったのですね?」


「そうよ、あなたと一緒に過ごす時間が本当に楽しかった・・・それがまさか突然あんな事になってしまうなんてね」


 ・・・そうです。


 お嬢様の肉体はあの時死んでしまったのです。

 当然脳も機能停止し、その後遺体は埋葬されているのです。


「あなたは・・・あの後、どこにいたのですか?」



「ふふふ、それはね・・・・・・ずっとあなたの中にいたのよ」


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