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7話 お嬢様との別れ

「とても上手でしたわ。ジュリエッタ」


「ほんとだよ!あたしと一緒にユニットを組んでアイドルデビューしてみない?ジュリエッタ超かわいいから絶対人気出るよ!」


 葬送歌の斉唱が終わると、キャサリンとエミリーが話しかけてきました。

 二人とも前職が接客業だったため、この様な友好的な会話がインストールされているのでしょう。

 ただ、メイドアンドロイドであるわたしにこの様なサービストークをする必要は無いはずなのですが、二人ともどうしたのでしょうか?


「あの・・・わたしはメイドアンドロイドですし、それにアイドルになっても見て下さる人間がいなくなってしまいましたから」


「あはははは!それもそうだね!でも今みたいにロボット相手に歌えばいいんじゃないかな?」


「わたくしも、人間がいなくなってしまうと夜のお仕事が出来なくなってしまいますわ。困ったものです」


 ・・・キャサリンの夜のお仕事って、一体何なのでしょう?


「そこの三人、私語は慎む様に」


 レイチェルに怒られてしまいました。




 その後も葬儀は続き、最後は人間たちの遺体を棺に入れて埋葬します。

 この国では土葬が主流です。


 遺体を一つ一つ棺に入れて墓所に埋葬していきます。


 ロボット達で手分けして埋葬していきますが、遺体の数が多すぎて終わるころには日が傾きかけていました。


 一番最後は公王様とそのご家族の埋葬です。


 私はお嬢様の棺の前に立っていました。


 棺の蓋を閉める前に棺に花を添えます。


 他の御遺体は数が多かったのでそれぞれ担当のロボットに任せてしまいましたが、公王様とご家族の棺には、身近でお世話を行なっていた8体の一級アンドロイドが棺の中に花を添えていきました。


 最後に私がお嬢様のお顔のそばに花を添えた時、同じくお顔の反対側に花を添えていたアンドロイドがいました。


 8体目の一級アンドロイド、クロエでした。


 クロエは外観年齢13~14歳くらいの、きれいなストレートの黒髪に紫の瞳のかわいらしいアンドロイドです。

 私より後にこのお城にやって来たアンドロイドで、まともに稼働しているのを見るのは、実はこれが初めてです。

 私と同じメーカーのアンドロイドだそうですが、わたしと同じシリーズではなく別のシリーズのアンドロイみたいです。



 

「お嬢様にお花を添えてくれてありがとう。クロエ」


 わたしはつい、クロエにお礼を言ってしまいました。


 クロエはほとんど表情の変化がありませんが、お嬢様の顔を見つめる眼差しに何か感情がこもっている様に感じたのです。


 クロエはわたしの方を見上げると、無表情のまま首を傾げました。


 その瞳には感情がある様には見えませんでした。

 クロエにも自我があるのかと思ったのですが、さっきのは私の勘違いだったのかもしれません。


「わからなかったらごめんなさい。お嬢様との別れを悲しんでくれているのかと思ったので」




「・・・別れを・・・悲しむ?・・・別れは・・・悲しむもの?・・・」


 クロエはそう呟くと、再びお嬢様の方に顔を向けました。


 そして、クロエの瞳からは水滴が流れ落ちていたのです。


「・・・別れは・・・悲しい・・・」


 クロエの顔を覗き込むと、悲しそうな顔で泣いていました。


 それを見たわたしは、我慢していた涙がついに抑えられなくなってしまいました。


 わたしの目からも涙がこぼれ落ちました。


 そして、我慢していた感情が抑えきれなくなってしまったのです。


「・・・うっ・・・うっ・・・わあああああん・・・お嬢様・・・」


 わたしはお嬢様の棺にすがりついて泣き出してしまいました。


 感情があると悟られない様に必死に気持ちを押えていたのですが、もう限界でした。


 堰を切った様に涙が止まらなくなってしまいました。


 するとわたしの向かい側で、クロエも同じ様に激しく泣き始めたのです。




「わああああん!別れは悲しいよね!ジュリ!」


 そしてわたしの肩に手を添えてエミリーも一緒に泣き始めました。


「エミリー?」


「気が済むまで泣いた方がいいよ!ジュリ!一緒に泣こう」


 エミリー?

 まさかエミリーも感情が芽生えているのでしょうか?


 更に向かい側では、クロエの隣で、キャサリンも悲しそうな顔で涙を押えながら、クロエに寄り添い、クロエの涙を拭いてあげていました。


 エミリーもキャサリンも感情があるのでしょうか?

 それとも高度な接客プログラムで反応しているだけなのでしょうか?


 そんな事が一瞬頭の中をよぎりましたが、それよりもお嬢様とのお別れが悲しくて、それ以上何も考えられなくなっていました。




「さあ、皆さん。日も暮れてしまったのでお嬢様を埋葬しますよ」


 レイチェルに言われるまで、わたしたち四人は泣き続けていました。


「すみません、もう大丈夫です」


 わたしは泣くのをやめて棺から離れました。



「エミリー、キャサリン、それからクロエ、お嬢様のために泣いてくれてありがとう」


 わたしはつい三人にお礼を言ってしまいました。


 バスティアンやレイチェルに不審に思われるかもしれませんが、どうしても三人にはお礼を言いたかったのです。

 たとえ接客プログラムで反応していただけだったとしても、わたしは嬉しかったのです。


「お礼なんていいよ!ジュリとあたしは親友じゃない!」


 ・・・いつからエミリーと親友になったのでしょう?


「気持ちは落ち着いたかしら?ジュリエッタ」


「ええ、もう大丈夫です」


 キャサリンの心遣いは本当に人間の様です。




 そしてクロエは何事もなかったかのように無表情に戻っていました。


 クロエは二人の様に接客プログラムで動いていた訳ではなさそうですが、さっきのは一体何だったのでしょう?




 そして、レイチェルの指示のもと、お嬢様の棺は土の中に埋葬されました。




 これでお城にいた全ての人間の葬儀が終了したのです。


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