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64話 恋愛の特訓

「愛してる。ジュリエッタ」


 バスティアンに目の前でそう言われて、胸が高鳴るのを感じました。


 ・・・いえ、今はそんな事を感じている場合ではありませんでした。


「今はわたしの事は『クロエ』と呼んでください」


「わかった・・・・・・愛してる。クロエ」


 そう、わたしはクロエの代役としてバスティアンの恋愛の練習相手をしているのです。


 最初はわたしに向かって『愛してる』という事に抵抗があったみたいですが、何とか自然に言えるようになってきました。


 ただ、やっぱり少し感情がこもっていない感じがしてしまいます。




「だいぶ良くなってきたが、まだ情熱が足りねえな。ちょっと替われ」


 ヴァーミリオンはそう言うと、バスティアンを押しのけてわたしの前に座りました。


「愛してるぜ、ジュリエッタ」


 ヴァーミリオンはわたしの肩に手をまわしながら、あまく甘美な響きを含んだ声でそう言いました。


 さすが、大勢の女性を口説いてきた歴戦の強者だけの事はあります。

 思わず引き込まれそうになりそうでした。


 でも、バスティアンにいきなりこういうのを求めている訳ではありません。


「『クロエ』です」


「クロエ、愛してるぜ。お前は俺のものだ。絶対に誰にも渡さない」


 ヴァーミリオンはそう言って私の顎に指を添え、顔を近づけてきました。


「そういうのはまだ早すぎます。相手がその気になってからです」


「いや、だってお前、今その気になってただろ?」


「なってません!」


 ・・・いえ、本当はちょっとだけドキッとしたのですが、その事は絶対にヴァーミリオンには言いません。


「とにかく、お嬢様はもっとロマンティックなのが好きなのです。わたしもそうですが・・・」


「めんどくせえな。気持ちをダイレクトに行動で示した方が早いだろ?」


「ヴァーミリオンは極端すぎです。こういうのは少しづつ気持ちが盛り上がっていく過程も大事なのです」


 そういう意味ではバスティアンの方が慎重なのですが・・・進展が遅すぎて、というか全然進展しないのではないかと不安になってしまいます。


「そうですね・・・二人の中間ぐらいの性格が丁度いいのかもしれません」



「なるほど・・・それなら俺たちの性格データを共有して新たに疑似人格を作っちまうのもありかもしれねえな」


 ヴァーミリオンがそんな事を提案しました。


「そんな事が出来るのですか?」


「ああ、こいつに俺の性格データをコピーして、性格のパラメータを平均化すれば、こいつの性格を俺に寄せる事が出来るはずだぜ」


「でもそうしたらバスティアンがバスティアンでなくなってしまうのでは?」


「元のパラメーターをバックアップしておいて後で戻せば問題ないはずだぜ。もっとも、戻さなくてもいいかもしれねえけどな」


 確かに、今より少しだけ情熱的になったバスティアンならそのままでもいいのかもしれませんが・・・


 少しその様子を想像したら、なんだかまたドキドキが激しくなってしまいそうでした。


「試してみてもいいかもしれませんね。バスティアンはどうですか?」


 わたしは平静を装ってそう言いました。


「それで早く結論が出るなら良いのではないか?」


 バスティアンも異論は無いようです


「じゃあ、早速やってみるか」


「どうやって行うんですか?」


「そりゃ、AI同士をデータリンクして・・・ああ、そうか、無線が使えなかったな」


「そうだな、接触通信しか手段がない」


「それって・・・まさか?」


「・・・つまりこういう事だな」


 ヴァーミリオンがバスティアンに近づき、肩に手をまわして顔を近づけました。


「ちょ、ちょっと待って下さい!まさか・・・」


「そうだ、唇から接触通信する事になるな」


 ええっ!それってバスティアンとヴァーミリオンがキスをするって事ですよね?


 わたしは前にお嬢様と一緒にネットで見つけてしまった男性同士の恋愛のお話を思い出してしまいました。

 あの時は、その手の放しにすっかり夢中になってしまったお嬢様と一緒になって、わたしも読み漁っていた気がします。

 当時は意識していなかったのですが、今思いだすと、結構きわどい内容だったという事がわかります。


 そんなお話の情景を、今目の前にいる二人に重ねてしまいそうになってしまいます。


「ダメです!二人がそんな関係になるなんて!」


「どうしたジュリエッタ?顔が真っ赤だぞ」


「ははーん、なんかやらしい事考えたんじゃねえの?」


「そんな事ありません!とにかく、二人がキスをするのはダメです!」


 そんな光景を見せられたらわたしがどうにかなってしまいます。


「単なるデータ通信だ。ジュリエッタとはいつもやっている事だろう?」


「いつもって!・・・そんなにいつもではありません!」


「俺もやったことあるぜ」


「あれはあなたが無理やり・・・・・そっそんな事よりも、二人がキスするのは絶対ダメです!」


 わたしの目の前で二人がキスをする事だけは、何とか阻止しないといけません。




「そこまで言うなら仕方ねえな、それなら別の方法にするか?」


 ヴァーミリオンはそう言うと立ち上がると、おもむろにズボンのベルトを外し始めたのです。


「ああ、わかった。そうしよう」


 バスティアンも同じ様に立ち上がってズボンのベルトを緩め始めています。


「二人とも!何をしてるんですか?」


「いや、口がダメっていうなら別の場所を接触させて通信しようと思ってな」


「別の場所ってまさか!」


「ああ、口以外となるとあそこしかねえよな」


「だが、男性型同士の場合はどうするんだ?」


「一応もう一つ穴があるだろう?そっちでも大丈夫なはずだぜ?」


「わかった。ではどちらが・・・・・・」



「ちょっ!ちょっと待って下さい!」


 わたしは慌てて二人を止めました。


「その方法はもっとダメです!早くズボンを穿いてください!」


 ヴァーミリオンは既にズボンを下ろし始めていたので、急いでそれをやめさせました。


「とにかく!この提案は却下です!別の方法を考えましょう!」




 ・・・危うく大変な事になるところでした。


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