62話 自我と恋愛
クロエとバスティアンを恋愛を成就さればお嬢様が復活するかもしれない。
もし・・・本当にその可能性があるなら、わたしはその可能性に賭けてみたいと思いました。
「クロエにその様な素振りは見られませんでしたが、どうやってその話を聞きだしたのですか?」
わたしはヴァーミリオンに尋ねました。
「どうしてって、あいつをベッドに誘ったら断られて、理由を聞いたら自分から話し始めたんだ」
「・・・クロエにまで手を出そうとしたのですね」
「おう、取り合えず全員に声はかけたぜ。結局応じてくれたのはキャスだけだったけどな」
「本当に見境無いのですね」
「もちろん拒んだ相手に無理強いはしてねえぜ。俺が本気だ愛してるのはお前だけだしな」
「全然信ぴょう性がありません」
・・・この人は本当にどこまでが本気なのでしょう?
「でも、クロエの件は可能性があるかもしれません。確認したいので手伝って貰えますか?」
「ああ、構わないぜ。うまくいけば俺もライバルが減るからな」
・・・何のライバルでしょう?
「では、まずはクロエに聞き取り調査してみます」
わたしとヴァーミリオンはクロエを探しに行きました。
クロエは基本的に指示された自分の仕事をこなした後は大抵中庭のベンチでぼーっとしています。
担当の部屋を見に行ったら既にクロエはいなかったので、わたし達は中庭に向かいました。
「いました。ベンチに座っています」
中庭に行くと、クロエはいつものようにベンチに座っていました。
いつもこうやってバスティアンの事を考えていたのでしょうか?
それとも、お嬢様の昔の記憶を思い起こしているのでしょうか?
「クロエ、ちょっとお話良いですか?」
わたしはクロエの傍に行って話しかけました。
するとクロエはゆっくりとうなずきます。
「では隣に失礼します」
わたしはクロエの隣に座りました。
「こうして二人でお話しするのは初めてですね?」
わたしがそう話しかけると、クロエはこくりとうなずきました。
クロエにはわたしと夢の中で出会っているという認識は無い様です。
わたしが夢の中で会っていたのはクロエではないのでしょうか?
それとも、単にその記憶が無いだけなのでしょうか?
「前にお嬢様のお葬式で泣いてましたよね?あれはどうしてですか?」
わたしはずっと気になっていた事を聞いてみました。
「・・・お葬式?・・・・・・・・・クロエは・・・悲しかった」
「それは、お嬢様とお別れするのがですか?」
「お別れ?・・・クロエ・・・お別れ・・・わからない」
今一つ会話がかみ合わない感じです。
でもこの様子からすると、今のクロエにお嬢様の自我が目覚めている事は無さそうです。
「クロエはお嬢様の事は覚えていますか?」
「お嬢様?・・・わからない・・・あなたの事はたくさん知ってる」
これはお嬢様自身の記憶を持っているから、客観的なお嬢様の記憶が無いのかもしれません。
「わたしの事は知ってるのね?」
「クロエ、ジュリエッタの事、良く知ってる。よく、こうしてお話しした」
やはりお嬢様の記憶は認識しているみたいです。
「バスティアンの事は覚えていますか?」
思い切って直接聞いてみる事にしました。
「バスティアン?・・・ジュリエッタの次によく知ってる」
やはり、お嬢様としてバスティアンと会った記憶も持っているみたいです。
「クロエはバスティアンの事をどう思っていますか?」
「どう?というのは?」
「好きか嫌いかという事です」
「好きか嫌いか?・・・クロエ・・・バスティアン・・・好き」
やっぱり!
クロエ自身のAIは、まだはっきりと自我に目覚めている様子はありません。
今のはお嬢様の感情を答えたのでしょう。
お嬢様がバスティアンの事を好きだったというのは間違い無いみたいです。
「ありがとう。クロエ」
わたしはクロエの隣から席を立ち離れました。
「どうだった?」
わたしは遠くから見守っていたヴァーミリオンのところに戻りました。
「今のところ、クロエにお嬢様の自我が目覚めている感じはありませんでした。でもお嬢様がバスティアンの事が好きだったのは確かな様です」
「やっぱりそうだっただろ?・・・で、これからどうする」
「とりあえずバスティアンの話も聞いてみます。その上でクロエの距離をどう近づけるか考えてみます」
「そうか、わかった。俺に手伝える事があれば言ってくれ」
「しばらくはクロエの行動を監視していて下さい」
「わかった。任せてくれ」
わたしはバーミリオンと離れてバスティアンを探しました。
この時間ならバスティアンはおそらく執務室にいるはずです。
バスティアンの執務室の扉の前に立ち、扉をノックしました。
「入りたまえ」
中から返事があったので扉を開けて中に入ります。
「失礼します」
扉の中ではバスティアンが端末に向かって仕事をしていました。
相変わらず無線が使えないので、わたし達アンドロイドでも、サーバーにアクセスする時は人間と同じ様に端末を使用しています。
「相談したい事があるのですが、お時間宜しいでしょうか?」
「ああ、構わん、そこに座って待っていろ」
わたしは部屋に入り、応接セットのソファーに腰を下ろしたのでした。