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6話 合同葬儀

 お城にいた全ての人間の遺体が大広間に集められました。


 お屋敷中を隈なく調べましたが、結局、生き残っている人間は一人もいませんでした。

 検死は全てパトリシアが一人で行いましたが、全員が最初の光が見えた瞬間に即死していたそうです。


 現在大広間は空調温度を零度まで下げて、遺体の保管場所になっています。


  人間がいた時には不可能な事でしたが、アンドロイドやロボットは気温が零度でも活動に支障はないのでここまで気温を下げても問題はありません。


 ・・・しかし、わたしは『寒い』という感情を抱いていました。


 アンドロイドの仕様的には活動可能温度の範囲内なのですが、気温が低いという状況を不快と感じていたのです。


 人間たちがいなくなったという喪失感と相まって、わたしは気持ちが沈んでいましたが、そんな時でも、わたし以外のアンドロイド達は普段と変わった素振りも無く仕事をしていました。




 そして、大広間にはバスティアンの指示のもと、ほとんどのアンドロイドとヒューマノイドが集められていました。


 持ち場を離れる事が出来ないロボットや一部のヒューマノイド以外は全て集合しています。

 このお城で働いているアンドロイドは全数がそろっています。


 このお城には執事のバスティアンも含め、一級アンドロイドは8体存在すると聞いています。

 その他に、二級以下も含めると数百体のアンドロイドが働いています。

 そのため、一見数多くの人間が生き残っているようにも見えますが、実際にはその全てが人間ではなくアンドロイドなのです。




「それでは、これより我らが主人たちの合同葬儀を執り行ないます」


 レイチェルの司会で葬儀が始まりました。

 葬儀はこの国の一般的な様式に基づいて行なう事になりました。


 レイチェルが亡くなった人の名前を順に読み上げていきます。

 

 そして、最後に公王様とその親族の名前が読み上げられました。



 お嬢様の名前が読み上げられた時、私は泣きそうになるのを必死にこらえて平静を装っていましたが、本当はお嬢様の遺体にしがみ付いて泣き出してしまいたかったのです。


 全員の名前が読み上げられた後は葬送の歌の斉唱です。


 本当は参列者全員で歌うものなのですが、歌を歌う機能を持ったロボットやアンドロイドは限られます。


 ここで、メイドアンドロイドのエミリーとキャサリンが前に出ました。

 二人とも一級アンドロイドです。


 エミリーは緑色の巻き毛をツインテールにした、外観年齢17歳くらいの可愛らしいアンドロイドで、この国に来る前は、別の国でアンドロイドアイドルとして芸能活動をしていたそうです。

 仕事で歌を歌っていたので当然、高レベルな歌唱機能が搭載されています。


 キャサリンは別の国で水商売をしていたアンドロイドだという事を聞いた事がありました。

 紫がかった長い巻き毛は大人の女性らしさを醸し出しています。

 キャサリンもまた、仕事がら歌を歌う事があったのでしょう。

 エミリー同様に歌唱機能を搭載していいる様です。


 前に出た二人が葬送歌を歌い始めました。


 二人とも仕事として歌っていただけあって、見事な歌唱力です。

 声もとてもきれいです。


 私は二人の歌声を聞いて、心が鎮まっていくのを感じました。


 それは二人の歌声もさることながら、その歌詞の内容によるところもあるのだと思いました。

 歌の歌詞は、亡くなった人の事をいつまでも悲しまないでくれと言う思いのこもった歌でした。


 この歌はおそらく、亡くなった人のためだけでなく、残された人の事も想って作られた歌なのでしょう。


 悲しみに沈んでいたわたしの心は、この歌のおかげで少しだけ軽くなりました。

 そして気が付くと、いつの間にかわたしもその歌を口ずさんでいたのでした。


 わたしには専用の高度な歌唱機能は実装されていませんが、以前、お嬢様からせがまれ歌を歌っていた時に、基本的な歌唱アプリケーションを独自にアレンジして歌唱機能をチューニングしてあったのです。

 今聞いた二人の歌に合わせて、無意識にチューニングを調整して歌い出していたのでした。


 すると、エミリーとキャサリンの二人は歌いながらわたしの方に歩いてきました。

 そして微笑みながらわたしに手を差し伸べたのです。


 わたしが両手でそれぞれの手を取ると、二人はわたしを前に引っ張り出しました。


 それからわたしを真ん中に挟んで三人で並ばされたのです。


 どうやら一緒に歌えと言う事の様です。


 バスティアンから歌唱機能を持ったアンドロイドは葬送歌を歌う様に指示があったのですが、わたしは二人の様に業務用の歌唱機能を実装していなかったので辞退していました。

 しかし、二人はわたしの歌を聞いて歌唱能力があると判断した様です。


 おそらく二人は前職の仕事柄、こういったシチュエーションではお客様を誘って一緒に歌う様に促す所作をインプットされていたのでしょう。


 それでも私は、二人に認められた事をなんだか嬉しく感じていました。




 わたしは、お嬢様と、それから他の人間たちを送り出すために、心を込めて葬送歌を歌ったのでした。


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