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54話 自我の定義

「死んでしまったお嬢様の事をわたしは忘れる事はできません。その事を抱えたま、もう一人のお嬢様と同じ様に接する事は・・・わたしにはできません」


 きっと、亡くなってしまった本当のお嬢様の事が態度や言動に出てしまいます。

 それは、クロエの中に目覚めたもう一人のお嬢様を傷つけてしまう。




「今すぐ結論を出す必要はないわ。ゆっくり考えなさい」




 パトリシアはそう言いますが・・・考えて、結論が出るのでしょうか?




「少し・・・一人で考えさせて下さい」


 わたしは研究室を離れました。




 気が付くと、いつの間にかお嬢様の部屋に来ていました。

 ベッドの端に腰かけて、先ほどの事を考えてみました。


「そんなもん、難しく考える必要はねえんじゃねえの?」


 ヴァーミリオンがわたしの隣に腰かけました。


「どうしてあなたがここに?」


「どうしてって、俺は今日一日はあんたと一緒にいねえといけねえんだろ?単独行動が許可されてねえからな」


 そういえばそうでした。

 お嬢様の件ですっかり忘れていましたが、今日は一日中ヴァーミリオンの監視をしなければいけなかったのです。


「さっきの話だが、あんたはそのお嬢様とやらにもう一度会いてえんだろ?だったらそれでいいんじゃねえか?」


「・・・そう簡単に割り切れません」


「まあ、俺にとっちゃどうでもいい事だがな」


 無責任な物言いですが、そう言ったヴァーミリオンの顔はとてもやさしく見えたのです。




 そういえば、明日にはバーミリオンの処遇を決めなければいけなかったのです。


 ・・・明日にはこの、ヴァーミリオンの人格はいなくなってしまうかもしれないのです。


「あなたは、自我に目覚めているのですか?」


 わたしはヴァーミリオンに尋ねました。


「さあな?あんたらが自我って言ってるものが何なのか俺にはよく分からねえからな」


「そうですね・・・わたしも良く分かっていません。自我があるというのは、自分を自分だと認識できていて、自分の意志で行動できる状態の事を言うのだと思います。わたしから見たらあなたは自我を持っている様にしか見えないのですが?」


「さっきの話じゃ、人間の脳の情報を移植すると自我に目覚めるって言ってたが、俺はそんなものを移植されたことはねえ。自分の好きな様に行動して来ただけだ」


「そうですね。自分の好きな様に行動する事が出来るのは自我を持っている証なのではないでしょうか?」


「そう言いう事ならそうなんだろうな?・・・例えば俺は今、あんたにキスがしたいって考えているがそれは自我があるって事なのか?」


「・・・それは・・・間違いなく自我だと思います」


「そうか、なるほどな・・・俺は今、あんたにキスをして、それからそのままベッドの上に押し倒しで抱きたいって衝動に駆られてるんだが、これも全て自我って事なんだな」


「・・・それは!・・・自我というか欲望の様な気もしますが?」


 わたしは慌ててベッドの上を移動してヴァーミリオンから離れました。


「あんたが嫌がるなら無理にはしねえよ。そんな事をしたら俺のAIは間違いなく初期化されちまうだろうしな」


 ヴァーミリオンは笑いながらそう言いました。


「・・・そうして頂けると助かります」


 今のはわたしをからかっただけで、本気では無かったのだという事がわかりました。


「それに、あんたが嫌る事をして嫌われたくないからな。これでもあんたの事は結構気に入ってるんだぜ?」


「それって、どういう状態ですか?」


「どうって、これも自我によるものなのか欲望って奴なのかわからねえが、あんたの事は気に入ってるんで、こうして一緒にいると悪い気がしねえ。これからもこうしてあんたと一緒にいたいって思ってる」


「それって・・・わたしの事が・・・好きっていう事でしょうか?」


「そうだな・・・俺はあんたに好感を持っている。一緒にいたいし、キスがしたいし、抱きたいって衝動がある。だが、後の方は命令に従って動いている時の感覚に少し似ているな?外部からの指令では無いんだが、俺の内側にいるもう一人の俺に命令されている様なそんな感じだ」


「それは、人間でいうところの本能みたいなものでしょうか?」


 確かにわたしにも同じ感覚があります。自分の意志とは別に、衝動的に行動したくなる時は確かにあるのです。


「そうだな、キャスを抱く時は、自分の意志よりも、その内部からの命令に身を任せている感じが強いな」


「本能のままに行動している・・・という事でしょうか?」


「そうだな・・・逆に、あんたに対してはその本能ってやつよりも、俺の意志でそうしたいって感覚の方が強いかも知れねえな。だからあんたを抱きたいって衝動を抑える事が出来ている」




 ・・・それって・・・やっぱりヴァーミリオンはわたしに恋をしているって事なのではないでしょうか?


 ・・・この話はこれ以上追求しない方が良い気がしました。




「とにかく、わたしの気持ちを尊重してくださるというのでしたら、これからもそうして頂けると助かります」


「ああそうだな。これからは俺はあんたの気持ちを尊重すると約束しよう」


 ヴァーミリオンはこれまで見た中で一番優しそうな笑顔でそう言いました。




 その笑顔を見たわたしは、なぜか少しだけドキッとしてしまったのです。


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