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47話 好意と感情

「何するんです!放して下さい!」


 わたしは抱き着いてきたヴァーミリオンを振り払おうとしました。

 でも力で劣る今のわたしには振り払う事が出来ません。


「あらあら、無理をしちゃだめよ?女の子って無理やりそうゆう事をされても気持ちよくならない物よ」


「そうなのか?」


「そうです!好きでもない人にそんな事されても、不快になるだけです!」


「俺は誰とでも気持ちいぜ。別に好きな相手でなくても」


「それは男性と女性の性欲のシステムの違いね。アンドロイドの性欲のアルゴリズムは人間のサンプルデータをもとに構築されているから。元となる人間の男女のでは性欲と性的快感の発生原理が異なっているのよ」


「そうなのか?」


「ええ、人間の場合、男性は視覚情報と触覚情報により性的パラメータが大きく影響を受けるけど、女性は、視覚や触覚などの外的情報の影響が少なくて、内部的な感情パラメータの影響が大きいのよ」


 キャサリンの言っている事はなんとなく共感が出来ます。


「女性って相手に対する信頼感とか、安心感とか、好感度とか、そういうパラメータが規定値を超えていないと性的興奮のパラメータが上昇しない様になっているのよね」


「つまりこいつが俺の事を好きにならねえと、興奮しないって事か?」


「そういう事よ。だから早くジュリエッタを放してあげて」


「だがよ、こいつ今少しだけ興奮してるぜ?・・・つまり俺の事が少しだけ好きになったって事じゃねえのか?」


 ヴァーミリオンがとんでもない事を言い出しました。


「なっ!何を言ってるんですか!そんなわけありません!」


 わたしは全力で否定しました。


「俺に隠そうとしたって無駄だぜ?俺から逃れようと藻掻いてはいるが、本気で拒絶している挙動じゃねえよな?それに体温も少し上がっているし、顔も赤いぜ?」


「それは!変なところを触られて恥ずかしいからです!・・・それに、あなたが力を加減して、わたしが苦しくならない様に気を使っているからです・・・」


 そう、ヴァーミリオンはわたしが逃れられない様にしながらも、わたしにダメージを与えない様に気を使っているのはわかっていたのです。


「ほら見ろ、嫌悪感よりも恥ずかしいって感情のパラメーターが上がってるって事だよな?それからあんたを優しく抱いているのは、俺があんたの事を好きだからだ」


「そんな事を言って・・・あなたは女性なら誰でもいいのではないですか?」


「そんな事ねえよ。キャスとは体だけが目的で、別に好意を持っている訳じゃねえ」


 ヴァーミリオンはキャサリンの事を一瞥しました。


 ・・・というかいつの間に愛称呼びなっていたのでしょう?


「そんなにはっきりと言われると傷つくわね・・・まあ、あたくしも同じですけど」


 キャサリンも言葉とは裏腹に全然傷ついた様子も無く、笑顔のままそう答えました。


「他のアンドロイド達とも接してみたが、こんな風に好意を持ったのはお前だけだぜ?」


 ヴァーミリオンはわたしの耳元でそうささやきました。


 さっきから、わたしを抱きしめていた腕の力を更に抜いているのはわかっています。

 でも・・・そんな事を言われてしまったわたしは、体に巻き付いた腕を振り払えなくなっていたのです。


「冗談は・・・やめてください」


「冗談じゃねえよ・・・好きだぜ・・・ジュリエッタ」




 頭の中で何かが『ボンっ』と破裂した様な感じがしました。


「ななななな!何を言ってるんですか!からかうのはやめてください!!!」


 わたしはヴァーミリオンの腕を振り払い、彼から逃れました。


「ははははは!予想通りの反応だな!おもしれえ!」


「やっぱりからかってたんじゃないですか!ひどいです!」


「あはは、そんな事ねえよ、俺は本気だぜ!」


 ヴァーミリオンはいつもの不敵な笑顔でそう言いました。


「それもAIの対話応答で言ってるだけですよね?」


「そうかも知れねえな?・・・だが、あんたの方の反応は、どう見てもAIの範疇を超えてるよな?」


「それは・・・」


「そうねえ、ジュリエッタはヴァーミリオンと行動する様になってから、ますます感情豊かになってるわね?」




 ・・・それはわたし自身もなんとなく自覚していました。

 

 目まぐるしく感情が変化して、それに振り回される自分がいて・・・それに反応している体があって・・・もう、自分を自分と認識している事が自然になりすぎて、自分がアンドイドのボディに搭載されたAIだという事を忘れてしまいそうになっていたのです。


「それは・・・私もなんとなく自覚しています・・・でも、ヴァーミリオンもそうなのではないですか?」


 わたしはもう一度ヴァーミリオンに問いかけてみました。

 わたしの方から見ても、ヴァーミリオンは次第に感情表現が強くなり、人間ぽくなって言っている様に見えていたのです。


「俺か?・・・俺は・・・・・こういう風に性格設定されてるってだけだぜ?あんたとは違ってな」




 ・・・またしてもエミリーの時と同じような返答でした。




 ・・・でも、何か一瞬言い淀んだような気がしました。

 



「さあさあ、今日はもう遅いし、また明日にしたら?」


 キャサリンに言われて気がつきましたが、もう夜になっていました。


「そうだな、明日も付き合ってもらうぜ?ジュリエッタ」


「・・・ええ、それはそのつもりでしたので・・・」


「まあ!やっぱり二人は付き合っているのね?」


「そういう事ではありません!」


「ふふっ、冗談よ冗談」




 なんだか結局最初の話に戻ってしまいました。


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