43話 監視担当の日
バスティアンがわたしとキスをしている時だけ人間と認定されるというのは、どういう事でしょうか?
いえ、そもそもあれはキスでは無くてデータ通信していただけなのですが・・・
エミリーと別れた後もそんな事をずっと考えていました。
その日から、連日交代でヴァーミリオンの監視を行い、わたしの担当する最終日になりました。
「よお、今日はあんたの番か、せいぜい楽しませてくれよ」
「話には聞いていますが皆さんに色々迷惑をかけていたみたいですね」
「迷惑なんてとんでもねえ。俺はデートを盛り上げようとしただけだぜ?」
「セクハラぎりぎり・・・というか完全にセクハラ行為をしていたと聞いています」
「ただのスキンシップだぜ?スキンシップ。電波障害があるんだから仕方ねえだろ?」
「ディープキスはスキンシップとは言いません」
初日にいきなりレイチェルにディープキスを仕掛けて、思いっきりビンタされたという話を聞いていたのです。
「いや、あれはてっきりあの女王様が誘ってるんだと思ったんだが・・・どうやら違ったらしいな」
レイチェルは間違いなくヴァーミリオンみたいなタイプが一番嫌いです。
誘う訳がありません。
「その後の人たちからも、胸やお尻を触られたと聞いています」
「触ったって言っても服越しだぜ?直接触った訳じゃねえ。直接触ったのはキャサリンだけだ。あいつとは一日中ベッドの中で過ごしたけどな」
・・・その情報は聞かなくてもいいです・・・
「あなたはアンドロイドなのにどうしてそんなに異性型のアンドロイドに執着してるんですか?」
「なんでって・・・気持ちいいからに決まってんだろ?」
「・・・『気持ちいい』なんて感覚があるんですか?」
「あんたにだってあるんだろ?俺とキスした時気持ちよさそうだったよな?」
「そんな事ありません!」
「はは、相変わらずおもしれえな。そんな真っ赤になって否定されると、またやりたくなっちまうぜ」
「絶対にやめてください!」
「あんた怒った顔がかわいくて、ついからかいたくなっちまうんだよな」
本当に、どこまで本気かわかりません。
・・・例の人間判定アプリはエミリーに教えてもらってわたしにもインストールしてみました。
確かに他のみんなは『アンドロイド』という判定が出ています。
わたしの事は自分自身では判定が出来ません。
確かにヴァーミリオンの判定結果には揺らぎがあり、基本的には『アンドロイド』なのですが、エミリーの言った通りしばしば一瞬だけ『人間』と判定される瞬間があるのです。
また、バスティアンについては、わたしとキスしている時だけ『人間』と判定されるというのが本当かどうか、確認はしていません。
・・・確認するためにはキスをしないといけませんから・・・
ヴァーミリオンもわたしとキスをすると『人間』と判定が出るのでしょうか?
そんな考えが一瞬頭をよぎりましたが、確認のためにキスはしたくありません。
キャサリンに聞いた話では、キャサリンとはキスの時も、それ以外の接触・・・の時も、判定は『アンドロイド』のままだったそうです。
必ずしも異性型のアンドロイドと接触した時に判定が変化するという事でもないみたいです。
「それで、今日はどうするんだ?」
そういえば、今日一日何をするのか考えていませんでした。
通常のわたしの仕事と言えばお屋敷の掃除などですが・・・
「昨日まで何をしていたんですか?」
「そうだな・・・一日目はひたすら、決まり事の説明を受けた後は、ずっとお説教だったな」
レイチェルにディープキスなんかしたら・・・当然そうなるでしょうね・・・
「二日目は一日模擬戦をやってたな。ほとんど何も会話はしなかったか?」
バレッタはヴァーミリオンと会話したくなかったのでしょう。
「三日目は一日中カラオケで歌わされ続けてた」
エミリーはカラオケが大好きでですからね。
「4日目は、さっきも言ったが一日ベッドの中だ」
キャサリンはヴァーミリオンの事をどう思っているのでしょうか?
「5日目は・・・・・何もしないで一日中窓の外を眺めていたな」
クロエの行動についてはわたしも良く分かりません。
「で、あんたはどうする?俺の希望としてはベッドの上で・・・」
「却下です」
・・・そうだ、前から気になっていた事を聞いてみます。
「前に言っていた、人間の意識を移植するためのアンドロイドというのは、わたしたちの中にいたのでしょうか?」
「これでこの国の一級アンドロイドには全員出会ったんだよな?だとしたら、他にまだ未起動のアンドロイドが眠っているのか、この中の誰かが既に人間の意識をインストールされてるかって事になるが・・・」
「・・・それって・・・クロエだったりしますか?」
「おそらく違うな。あいつは感情表現は乏しいが、一応自分の考えで行動している。素体は電子脳が完全に無垢の電子の状態じゃないと意味を成さない。かといって人間の意識を移植した後にしては感情が乏しすぎる」
クロエがそうなのではないかと思ったのですが、違ったみたいです。
「そうすると、やはりあなたが依頼を受けたミッションのターゲットはこの国にはいなかったという事ではないですか?」
ヴァーミリオンは少し考えこんでいました。
「この国のどこかに秘密の研究施設みたいなものはねえのか?」
「わたしは知りません」
秘密の施設なら、わたし達にも秘密なのだと思います。
「そうか・・・じゃあ、こうしねえか?今日は二人で秘密の実験施設を探すってのはどうだ?」
ヴァーミリオンは悪そうな笑顔を浮かべてそう言ったのでした。