40話 捕虜の処遇
「では、ヴァーミリオンの検査結果をお知らせします」
パトリシアがヴァーミリオンを連れてみんなのところへ戻って来ました。
「彼の体を徹底的に調査しました。まずハードウェア的な面ですが、爆発物などの危険性の高い内蔵物は見当たりませんでした。当面、リミッターを掛けた状態であれば問題は無いと考えられます。次にデータ関連ですが、ミッションの指令以外の有益な情報は見つかりませんでした。以前に捕獲した他のアンドロイド同様に、ミッションのクライアントや、傭兵部隊の本部に関する情報はすべて抹消されています。ミッションも不達成として終了した扱いになっており、今の彼は初期状態のアンドロイドと大差ない状態です」
「つまり、何も危険な要素は無いという事だな」
「はい、ただ彼の人格プログラムは少々攻撃的な性格に設定されています」
・・・それは言われなくてもなんとなくわかります。
「性格設定の変更は可能ですが・・・AIがかなり独特な進化を遂げており、性格の変更を行うと一部の記憶や習得したスキルがリセットされる事になります」
「まあ、早い話が俺が俺で無くなるって事だよな?つまり俺からしたら死ぬのと同じ事って訳だ」
「はい、人間に例えるならそういう事になります。うちたちもそうですが、長期間稼働しているAIは独自の成長を遂げています。性格設定はそこに大きく絡んできますので、強制的な性格変更は、AIを初期化する事と何ら変わりません」
「で、どうすんだ?俺をこのまま生かしておくのか?それとも殺して別のアンドロイドとして仲間にすんのか?」
ヴァーミリオンは嫌な笑顔でそう言いました。
「つまりこれから行う審議はヴァーミリオンのAIを初期化するか否かという選択になるという事だな」
「あるいはこのまま国外追放という選択肢もあるのではないですか?」
バスティアンの見解に対してわたしは質問をしました。
「いや、それは有り得ない。僅かでも我々に対して危険要素が残るなら、そのまま野放しにはできないな。国外追放するにしてもAIのリセットは行う」
「それなら国外追放するという選択肢は無いですね。この状況ですから労働力は一人でも多く必要です」
レイチェルはクールにそう答えました。
「けっ、とんでもねえとこに来ちまったな。まあいいや、あんたらの好きにしな。今の俺に何の未練もねえしな」
ヴァーミリオンは言葉とは裏腹に意外と楽しそうに、そう言いました。
「すぐに結論を出すのは難しいだろう、7日の猶予を与える。その間、お前たちはヴァーミリオンを観察してどちらを選ぶか決めろ」
「へえ?その間は自由に行動していいのか?」
「この城から出る事は認めない。それから交代で常に一人監視を付ける。監視の者はその間にこいつの事をよく観察する様に」
「ははは、このかわいこちゃん達と、とっかえひっかえデートが出来るって事か?ずいぶんと大層なもてないしだな?おい」
「彼女たちに何か危害を加えたら、審議を待たずしてAIを初期化する。そのつもりでいろ」
「こいつら全員、あんたの女って訳か、大したハーレムだな」
「貴様!ボスを侮辱するな!」
バレッタがバーミリオンに掴みかかりました。
「そうだよ、バスティアンの彼女はジュリだけだよ?」
「エミリー!それは違います!」
エミリーのせいで話が更にややこしくなっています。
「ふんっ!自分は絶対にお前を認めないからな」
バレッタはヴァーミリオンを突き飛ばしてその場を去っていきました。
「おお、こわ。ずいぶんと嫌われたもんだな」
ヴァーミリオンは首をさすりながら去っていくバレッタを見ていました。
「それでは明日以降、日替わりで彼の監視を行う事になります。スケジュールはわたくしの方で決めておきます。それでは今日はこれで解散とします」
ヴァーミリオンを牢に監禁した後、わたしたちはそれぞれの部屋へ帰って行きました。
わたしも久々に自分の部屋に帰りました。
なんだか懐かしいような、少しだけ悲しいような不思議な気持ちになりました。
やはり、ここに戻るとどうしてもお嬢様の事を思い出してしまいます。
わたしはふと思い立って、隣にあるお嬢様の部屋に行ってみる事にしました。
お嬢様の部屋に入ると、中に人影がいました。
「・・・クロエ?」
人影はクロエでした。
クロエはぼーっと立って部屋の中を眺めています。
相変わらず表情に変化がありません。
わたしが声をかけると、ゆっくりとこちらを振り向きました。
「こんなところでどうしたのですか?」
クロエは小さく小首を傾げ、わたしの方に歩いてくると、目の前で立ち止まり無表情にわたしを見つめています。
「わたしがどうかしましたか?」
聞いてみましたがクロエは無反応です。
そうしてしばらくの時間が過ぎると、クロエはふっと目線を逸らして、わたしの横を通りすぎ、部屋から出て行ってしまいました。
・・・今のは何だったのでしょうか?
相変わらずクロエの行動は良く分からない事が多いです。
・・・わたしはお嬢様のベッドに腰をおろしました。
よくこうやってお嬢様と一緒にベッドに座って本を読んでいたものです。
そんな事を考えていると、この部屋で過ごしたお嬢様との思い出が次から次へと溢れてきました。
そして・・・気が付くと、わたしの目からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていたのでした。




