36話 帰国の前に
ヴァーミリオンがわたし達の公国について来ると言い出しました。
「何が目的だ?」
「強いて言えば目的が無いからかな?」
バスティアンの問いかけにヴァーミリオンがそう答えます。
「前回のミッションは失敗に終わっちまったし、クライアントも本部も無くなっちまったから、もうあんたらの国に危害を加える事はしねえよ。俺もこの町のロボットと同じで次の指示があるまで行動を起こす必要がなくなるだろう。だが、おそらく次の指示は永遠に来ない。でも、あんたらの国に行けば何かやる事がありそうだからな」
「それは俺たちの命令に従うという事か?」
「ま、それもいいかもしれねえな。少なくともこの町に残るよりは退屈し無さそうだ。あんたを見てるだけでも楽しそうだしな」
ヴァーミリオンはわたしの方をチラッと見ました。
「わたしなんて見ていても別に面白くありませんよ」
「そんな事ねえさ、あんたほど面白いアンドロイドは他にいねえよ」
やはりヴァーミリオンはわたしが普通のアンドロイドとは違うと考えている様です。
・・・それにしても、本当にわたしだけが自我を持つ人工知能という特別な状況なのでしょうか?
わたしから見たらヴァーミリオンも自我を持っている様にしか見えません。
それにエミリーやキャサリンも実は自我を持っているのではないかと感じる瞬間が何度もありました。
それに・・・バスティアンが時折見せる優しさも、バスティアンの自我によるものであってほしいと思ってしまう自分がいるのです。
実はわたし以外のアンドロイドも全員がわたしと同じ様に自我を持っているのだとしたら、こんなに必死になって隠す必要もないし、それはとても素晴らしい事だと思います。
「ん?どうした?そんなに見つめて。俺に惚れたか?」
ついバーミリオンを見つめたまま考え事をしてしまいました。
「違います。そんなわけありません」
「そうだよ!ジュリはバスティアンに恋してるんだから!」
「おっ?なんだ・・・そうなのか?」
「ちっ、ち、違います!エミリー、変な事言わないでください!」
「・・・なんか『違います』のニュアンスが俺の時と違うんじゃねーのか?」
「そんなことありません!」
またしても、のせられてついむきになってしましました。
「・・・まあいいや・・・で?どうなんだ?ついて行ってもいいのか?」
ヴァーミリオンは笑いながらそういうと、その後バスティアンの方に向き直りました。
「ここにいる者だけでは決められない。どうしてもそれを望むなら、公国に残る他の一級アンドロイドの総意が必要だ」
「わかった。それなら結論が出るまで俺を無力化しておけばいい」
「いいのか?それで」
「ああ、構わねえよ。ここにいても俺は何もやる事がなく朽ち果てるだけだからな」
「承知した。ではお前の出力にリミッターを掛けさせてもらう」
バスティアンがそういってヴァーミリオンに近づきました。
・・・あれっ?これはもしかしてバスティアンとバーミリオンがキスをする事になるのでは?
「おい、ちょっと待て。お前がやるのか?」
「そうだが何か問題か?」
「唇を接触させてシステム介入するんだよな?悪いが俺にはその手の趣味はねえよ」
「単なる通信手段だ。問題ない」
・・・やはりそうでした・・・
わたしはなんだか良く分からない複雑な気持ちになっていました。
「別にあんたでなくてもいいんだろ?だったら彼女にやれせてくれよ」
ヴァーミリオンがわたしの方を指さしました。
「えっ?わたしですか?」
「あんたでも出来んだろ?前に一度接続したことがあるしな。俺もキスをするならかわいい女の子の方が嬉しいからな」
「わたし・・ですか?」
「ああ、軍のシステムに侵入できるくらいだ。俺のリミッター設定ぐらい簡単だろ?あんたが入って来るなら今度はセキュリティを解除して受け入れてやるぜ。俺の中を好き放題いじり回しても構わねえぜ?」
「わがままな奴だな・・・出来るか?ジュリエッタ」
バスティアンがあきれ顔でわたしに尋ねました。
確かにできなくはないのですが・・・
「ええと・・・でも・・・」
「やっぱり俺がやろう」
わたしが困っているとバスティアンがそう言いました。
・・・バスティアンの目の前で、バーミリオンとキスをする事なんて、とてもできません。
しかし、バスティアンがバーミリオンとキスをする事にも抵抗を感じているのです。
「その役目、あたくしではダメかしら?」
わたしが困っているとキャサリンがヴァーミリオンの前に出てきました。
「へえ、あんたがやるのか?」
「ジュリエッタはバスティアンの事が好きだから、自分だけでなくバスティアンにもあなたとキスしてほしくないのよ」
「なるほどな、だったら早くそう言えよ?」
ジュリエッタとヴァーミリオンが、生暖かい目でわたしの事を見ています。
「だから違います!」
「あら?違うの?だったらこの役目はジュリエッタに返すけど?」
・・・キャサリンはわたしを助けてくれたのに、ついむきになってしまいました。
「ええと・・・違いますけど・・・お願いします」
「ふふっ、素直じゃないのね。まあいいわ」
キャサリンはそう言うと、ヴァーミリオンと濃厚なキスを始めたのでした。