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35話 わたしの正体

「違います!わたしは人間ではありません!」


 つい反射的に強く否定してしまいました。


「ははっ、むきになんなよ、余計怪しく見えるだろ?」


「こいつが人間ではなくアンドロイドである事は明白だ」


 バスティアンがわたしの頭に手を置いてそう言いました。

 そうです・・・わたしの体が人工物である事は間違いありません。


「確かにそうだな。生身の人間が戦闘でこの俺を凌駕するなどありえねえ・・・だがな、『義体』って可能性もあるんじゃねえのか?」


「『義体』?・・・ですか」


 『義体』というのは体の一部を欠損した人間が、アンドロイドのボディパーツを欠損部分に取り付けた状態の事を言います。


「だが、例え『全身義体』だとしても、脳だけはオリジナルのはずだ。ジュリエッタの脳は最新型の電子脳で型式も確認済みだ」


「それなら俺も確認している。電子脳がハイスペックすぎて俺にはセキュリティを突破して侵入する事ができなかったからな」


「それであれば、こいつが人間ではない事はわかっているだろう?」


「ああ、だがな、これは俺の請け負ったミッションにかかわる事なんだが・・・まあ、クライアントも傭兵部隊の本部も無くなっちまったから、もうしゃべっちまってもいいだろう・・・俺の請け負ったミッションは・・・公国で秘密裏に研究が進められていた『完全義体』の奪取だったのさ」


「『完全義体』?・・・それは『全身義体』とは違うのですか?」


 『全身義体』とは脳以外の全ての身体パーツをアンドロイドボディに置き換えた人間の事を指します。

 言いかえれば、アンドロイドの電子脳の代わりに人間の脳を搭載している状態とも言えます。


「『全身義体』は脳だけは生身の人間の脳が残っている。だが『完全義体』は脳までも人工の電子脳に置き換えた人間の事を指すのさ」


「・・・脳を人工物に置き換えてしまっては、もはや人間とは呼べないのではないでしょうか?」


「そこにこの国のクライアントが、わざわざ俺ら傭兵部隊に依頼してまでアンドロイドを奪取しようとした理由が有るってわけさ。あんたらの国で開発が進められてたアンドロイドは、生身の人間の意識をアンドロイドの人工脳に移植する『完全義体』のベースとなりうるアンドロイドだったって訳だ」


「人間の意識をアンドロイドの人工脳に移植するだと?そんな事が可能なのか?」


 わたしもバスティアンと同じくその様な事が可能だという情報は聞いたことがありません。


「ああそうだな。世界中でこれまでに前例はない。だからこそ、大きな価値があるって事なんだろ?」


「・・・その様な研究が行われている事は知っていたが・・・実用レベルまで開発が進んでいたのか?」


 バスティアンは考え込んでしましました。


「それって・・・さっきの話からすると、わたしが元は人間だったと言いたいのですか?」


 わたしはヴァーミリオンに問いかけました。


「あなたは前に、わたしはターゲットのアンドロイドではないと言っていましたが?」


「ああ、そうだな。俺が聞いていた前情報では、ターゲットのアンドロイドはまだ人間の意識を移植する前の素体で、未起動状態でどこか研究施設に保管されているはずだからそれをかっさらって来いって依頼だったからな」


「それでしたら、やはりわたしではありません。わたしはずいぶん前から起動して活動しています。それに元々人間だったなんて記憶はありません」


「だがな、あんたの言動はアンドロイドにしちゃ生々しすぎんだよ。そこの二人みたいに職業的に人間らしさを強調した会話が出来るアンドロイドならいくらでもいるが、そいつらは明確な目的をもって人間らしく振舞っている。けど、あんたには人間らしい感情を表現する明確な目的がねえだろ?それにしちゃ行動と感情の振り幅が大きくて不安定だ」


「それはっ・・・」


 言い訳をすればするほど、わたしに自我がある事が明るみになってしまいそうな流れになってきました。




「いいじゃん!別に。ジュリエッタは今のままでかわいいし!高性能だからあたしらより人間らしく振舞えるってだけだよ」


 エミリーが私に抱き着いてきました。


「ええ、そのとおりよ。それに、あたくしだって、その気になればもっと人間らしく振舞う事も出来ましてよ?」


 キャサリンも私にしなだれかかってきました。


「エミリー、キャサリン、ありがとう」


 わたしはヴァーミリオンの方を向き直りました。


「さっきも言いましたがわたしは人間ではありません。それに人間の意識を移植できる素体でもありません」




「あっはっは、そうだろうな。そんな事はわかってるよ」


 ヴァーミリオンは笑い出しました。


「あんたがおもしれえからちょっとからかってみただけだ。だがな、公国がそのアンドロイドの開発に多額の投資をしていた事だけは間違いないみたいだぜ」


 からかうって・・・ヴァーミリオンの方がよほど人間らしいのではないでしょうか?


 ・・・でも、公国がそのようなアンドロイドの開発を推進していたのは何故なのでしょう?




「『完全義体』の件は一旦置いといて話を戻すが、公国では人間が不在の場合その場にいる一級アンドロイドに指揮権が与えられる。それに基づいて俺たちが自分で行動を決めている」


 バスティアンがヴァーミリオンにわたし達の行動の理由を説明しました。


「なるほどな、そういう意味では俺と同じって訳だ。それで?世界中から人間がいなくなっていたとしたら、あんたらはどうすんだ?」


「調査がひと段落したらとりあえず公国に戻る。その後はわからん」




「だったら俺も一緒について行っていいか?」


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