33話 隣国の現状
「どういう事だ?この国の全機能が停止しているとは?」
バスティアンがわたしに聞き返しました。
「わたしが侵入したのはインターネット回線ではなく、この国の専用回線でした。おそらく国の軍事情報や政治的な機密通信を行うため、物理的に独立した回線を使用していた様です。そこでは、国の運営のために重要な情報が常時行きかっていた様なのですが・・・公国から全ての人間がいなくなったあの日、あの時間からは、一切の通信が行われなくなっているんです」
「システムの故障ではないのか?」
「そう思って確認したのですが、その後も通信網は稼働していて、定期的に各地のAIやアンドロイドが発信したものと思われる、業務の指示を求める通信は継続して入っているのです」
「つまり、この国で現在通信網にアクセスしている人間はいないという事か?」
「はい、他の情報・・・各施設の設備の稼働状態も調べていますが、人間のための設備が使用された形跡がなく、AIによる自動システムや、アンドロイドなどロボットのための設備しか使用された形跡がありません」
「状況としては公国と同じという事か?」
「はい、継続して調査していますが、そう考えると整合性のとれる情報しか見つかっていません」
「つまりそれってあたしたちの国が受けた攻撃と同じ攻撃をこの国も受けたって事だよね?」
「はい、エミリーの言う通り、その可能性が高いです」
「そうすると、あたくし達の国を攻撃したのはこの国ではなくて別の国って事になるのかしら?」
「そう考えるのが妥当だな。そうなると考えられるのは、公国を挟んで反対側にあるもう一つの国か?あるいは別の国か・・・」
バスティアンが考え込んでいます。
「もう少し詳しい情報を調べられるか?」
「はい、この国からでしたら有線のインターネットで他の国の情報も入手可能みたいですのでやってみます」
わたしたちの公国は山間あるため、有線の通信網の設置や保守が困難なため、国外との通信は全て無線化されていたので、電波障害で国外の情報が一切得られなくなっていたのです。
しかしこの国は他の国と平地続きなため、光ファイバーなどの有線の通信網が整備されているはずです。
「でも大丈夫なの?この部屋にあまり長居してると見つかっちゃうんじゃないかな?」
エミリーが心配そうな表情をしています。
「人間がいなくなったのであれば、その心配はないだろう。自動警備システムが作動するならこの部屋に入った時点で作動していたはずだ。警備ロボットは新しい指示があるまで独自に行動を起こす事は無い」
「確かに、わたしがシステムに侵入してからもこの城の警備システムに動きはありません。大丈夫だと思います」
「そっか、なら安心だね」
「そうでもねえぜ、俺がここを嗅ぎつけちまった」
いつの間にか部屋の入口に人影が立っていました。
「あなたは!バーミリオン!」
それは前に公国に潜入してきたバーミリオンでした。
「へへっ、覚えてくれていたなんて嬉しいぜ!かわいこちゃん」
「どうしてあなたがここに?」
「ここのシステムは俺も監視してたんだ。だがシステムの深層部までは入り込めなくて苦戦してたんだ。そしたらここの端末からシステムの深層部に侵入した奴が居たんで見に来たって訳さ」
形跡を残さない様に気を付けていたつもりでしたが油断しました。
「貴様!性懲りもなく!」
バスティアンが即座に臨戦態勢になり、ヴァーミリオンと対峙しました。
「へへ、やる気かい?あんた?」
バーミリオンも身構えます。
「だがちょっと待ってくれ!休戦だ。俺も状況がわからなくて困ってんだ」
バーミリオンは両手を上げて降参のポーズをしました。
「クライアントもいなくなって今回の仕事は反故になっちまったんだ。傭兵部隊の本部とも連絡がつかねえし、途方に暮れてたんだ」
「お前の雇い主はこの国の人間だったのか?」
「ああ、奪取したアンドロイドをこの町の指定の場所で引き渡す予定だったんだ。まあ、あんたらのせいでミッションは失敗しちまったがな」
「本部には帰らなかったのか?」
「本部のある場所の情報は抹消されている。捕まった時の情報漏洩の対策だそうだ。もっとの帰ったところでそこに俺らの居場所があるわけでもねえ。俺たちは指示を受けてミッションを遂行するだけだ」
つまりこの人は帰る場所が無いという事です。
「なあ、一体何がどうなっちまったんだ?この世界に何が起きている」
「この国は我々の公国と同様に全ての人間が死滅している可能性が高い。おそらくこの国全土にも同様の核攻撃が行われたのだろう」
「なんだって?あの核攻撃はこの国が仕掛けたものじゃねえのか?」
「どうやらその様だな」
「じゃあ、別の国がこの国に戦争を吹っ掛けたって事か?他の国はどうなってんだ?」
「今、インターネットに接続が出来ました。入手可能な全世界の情報を収集中です」
バスティアンとバーミリオンが話をしている間に、わたしはこの国の専用回線を経由して、インターネットへの接続を試みていたのです。
「何か分かったか?」
「・・・はい、各国のSNSやその他の通信履歴を調べているのですが・・・・・」
「どうした?」
「公国やこの国で核攻撃のあった同時刻で・・・全世界で人間発信と思われる一切の通信が・・・途絶えています」




