31話 国境の古城
「平和そうな町ですが、収容所なんてあるんですか?」
「山から下りて来た時に、麓の小高い丘の上に古城が立っていただろう?あそこがそうだ」
「確かに古城はありましたが、この場所にお城を構えて国境を守る必要があったんですか?」
「この町に隣接する国は公国だけだから現在では事実上機能していなかったはずだ。だが、過去にはこの国は公国を挟んで山脈の反対側の国と戦争を繰り返していた。ここは、公国を通って敵国が攻め込んできた時の防衛の拠点だったのだ」
歴史の本には確かにその様に書かれていました。
公国の領地は独立前は戦争のたびに両側の国で取り合いが繰り返されていたそうです。
・・・つまり、あの険しい山道を行軍して戦争を繰り返していたという事です。
「でも現在では戦争は起こっていませんよね?それでは行っても意味がないのでは?」
「あの古城は現在ではこの国の軍隊の駐屯地として使用していたはずだ。この付近で捕らえた密入国者はそこに連れ込まれた可能性が高い」
「そうなんですね?それなら確かにエミリーたちが捕らえられている可能性は高いですね」
「ああ、それに軍の施設なら今回の件に関して重要な情報が得られる可能性もある」
「その分警備も厳しいのでは?」
「そうだ。だが、人間が不在になったのであれば、指揮系統が混乱しているはずだ。それなら付け入る隙がある」
わたしたちは古城の近くまでやってきました。
建物自体は昔に作られた古風で趣のあるお城ですが、近くで見るとあちこち補強してあり、周囲には強固な高い塀が追加されていました。
「どうやって中に入ります?」
「俺たちなら飛び越えられるだろう?」
バスティアンはそう言ってわたしにキスをしました。
「行くぞ」
バスティアンは軽く数歩助走をつけて軽々と高い塀を飛び越えていきました。
・・・予告も無しにキスをするのは反則です!
リミッターを解除されたわたしも同じ様に塀を飛び超えました。
「姿勢を低くして一気に建物まで走るぞ」
バスティアンは何事も無かった様にいつも通り普通です。
「・・・どうした?」
ちょっと不機嫌な態度をとってしまったわたしの顔をバスティアンが覗き込みます。
「・・・なんでもありません!行きます!」
わたしは先に走り始めました。
「おい、一人で先行するな」
バスティアンが追いかけてきますが、わたしはさらに速度を上げて追いつかれない様に走りました。
そして逃げ切ったわたしは先に建物にたどり着きました。
「ふふっ、わたしの勝ちです!」
「ばかもの、見つかったらどうする」
「見つからない様に姿勢を低くして走ったから大丈夫です」
「・・・まあいい・・・建物内に侵入するぞ」
わたしは建物の扉の電子ロックに手を触れました。
わたしのシステムの中枢部分にアクセスするには唇からアクセスする必要がありますが、表層的なデータ通信だけなら指先の接触でも可能なのです。
指先からの接触通信で電子ロックの管理システムに介入します。
出発前にインストールしてもらったスキルの中に電子ロックの開錠スキルがあるので、それを使ってロック解除コードを見つけ出し、ロックを解除します。
「できました。扉が開きます」
「さすがだな。俺がやっていたらもっと時間がかかっていた」
「ふふっ、これくらいならお任せください」
バスティアンに褒められて、少しだけ嬉しくなりました。
古城の中に入ると、通路には誰もいませんでした。
さっき、扉の電子ロックからこの古城のセキュリティシステムに侵入しましたが、現在この城の警備システムはまともに機能していない事を確認済みです。
そして建物の内部構造も大体把握できています。
「拘置所は地下です」
わたしは取得した建物のマップを元に最短ルートで地下の拘置所を目指します。
途中、警備のロボットやアンドロイドに遭遇しましたが、物陰に隠れてやり過ごすと、こちらに気が付かずに素通りしていきました。
「警備のレベルがかなり低下しているな。これなら動きやすい」
順調に地下の拘置所にたどり着き、エミリーたちが居ないか探しました。
しかし、二人の姿はどの監房にも見当たりませんでした。
ほとんどの監房は空で、一つだけ全裸のアンドロイドが2体横たわっている監房がありましたが、それらはエミリー達ではありませんでした。
「エミリーとキャサリンはここには居なかったのでしょうか?」
「捕まらずに逃げ延びたか、あるいは別の場所に囚われているかだが・・・彼女たちが居ないのならここから出よう」
わたしとバスティアンは地上階への階段に向かうために拘置所のある地下室から出ようと扉を開けました。
すると、目の前に丁度目の前に軍服を着た2体のアンドロイドと鉢合わせしてしまったのです!
「まずい、逃げるぞ!」
バスティアンに言われてわたしは、咄嗟にそのアンドロイド達を躱して走り抜けようとしました。
「ジュリエッタ!」
・・・えっ!その声は?
「エミリー?」
軍服を着た二人のアンドロイドが帽子のつばを持ち上げると・・・
それは、エミリーとキャサリンだったのです。