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27話 雪中の下山

 わたしはお嬢様のお部屋で、いつもの様にお嬢様の湯あみのお手伝いをしています。


 でも、いつもならわたしはメイド服を着たままで湯あみのお世話をしていたはずなのですが、今日はなぜか、わたしも下着姿です。




「ジュリエッタってば・・・バスティアンとそんな関係にまで進展してしまったなんて・・・」


 鏡に映るお嬢様は、頬に手を当てて少しあきれ顔です。


「違うんです!雪山で遭難して、色々事情があって、その・・・確かに抱き合って寝ましたけど、それ以上の事は何も・・・」


「ふふっ、わかってるわよ・・・でもあなたの気持ちはどうだったのかしら?」


「どうって?」


「バスティアンと抱き合って寝る事が嫌だったのかしら?それとも嬉しかったとか?」


「ええと・・・嫌では・・・なかったと思います・・・なんだかとても安心できて・・・でも、恥ずかしくてドキドキしました」


「ふぅん・・・嫌じゃなかったんだ?」


「・・・嫌では・・・なかったと思います」


「そっか・・・ジュリエッタはバスティアンの事をどう思っているのかな?」


「どうって?」


「異性として好きなのかどうかって事よ」


「異性としてって、わたしたちはアンドロイドですよ?」


「あら?最近のあなたの感情はアンドロイドの物かしら?人間と同じ感情を持っているのではなくて?」


「それは!・・・・・わたしは一体どうなってしまったのでしょう?お嬢様は、何かご存じなのですか?」


「そんな事、私には分からないわ。だって私自身も、自分がどうして自分なのかなんてわからないんですもの。気が付いたら自分が自分だっただけだわ。ジュリエッタ、あなただってそうでしょう?」


「・・・人間も・・・自分がどうして自分なのかわからない?・・・」


「そうよ、だから今のジュリエッタは人間と同じって事なんじゃないかな?・・・それで話を戻すけど、ジュリエッタはバスティアンに恋をしてるのかしら?」


「・・・恋?・・・・・これが恋なのかどうかはわかりません」


「ふふっ、それも人間と同じね。人間だって最初は恋なのかどうか、自分ではわからないものよ?一緒に読んだお話でも、主人公はみんなそうだったでしょ?」


 ・・・確かにそうでした。


「だから、ジュリエッタも物語の主人公の様に、これが恋なのかどうか、楽しみながらゆっくり確認していけばいいんじゃないかな?・・・いつか答えが出たら私にも教えてね?その時を楽しみにしてるから」


「お嬢様・・・お嬢様はその時まで・・・・・待っていて下さるのですか?」




「ええ、私はいつまでも待っているわ・・・」




 お嬢様はそう言って、嬉しそうにほほ笑んでいました。







「おい、そろそろ起きろ、ジュリエッタ」


 名前を呼ばれて目を開けると、すぐ目の前にバスティアンの顔がありました!


 ・・・どうしてこんな真正面に?




 ・・・そうです!昨晩は温度低下を防ぐために抱き合ってスリープモードに入ったのでした。


「目が覚めたか?いくら呼びかけても目覚めないから、接触通信で直接再起動しようとしていたことろだ」




 ・・・接触通信というのは・・・例の、唇を接触させて行うデータ通信の事です。




「おっ!おはようございます!大丈夫です!目が覚めました!」


 もう少し遅かったら、バスティアンがわたしにキスをしていたところでした!

 わたしは慌てて目が覚めた事をアピールしました。


「少し様子がおかしいが、大丈夫か?念のため調べてやろうか?」


 バスティアンはそう言って再び顔を近づけてきました。


「ほんとうに大丈夫です!」


「そうか?また身体温度が上がったみたいだが・・・いや、それは俺も同じか?・・・どうやらお前に接触していると俺も温度が上がる傾向にある様だ。おそらくその様にシステムが組まれているのだろう」




 ・・・それって・・・もしかしてバスティアンもわたしの事を意識してるという事では?


 いや、それはバスティアンに自我が目覚めていた時の話で、今の時点で自分以外のアンドロイドが自我を持っているかどうか、確認する方法がないのです。


 ・・・でも、本当に恋をしているのだったら、それが自我に目覚めた証拠になるのでは?


 いえ、本当の恋なのか、プログラムによるリアクションなのか、それを判別すること自体が出来ないのでした。




「それよりも、すぐに出発するぞ」


「え?今すぐですか?」


「そうだ。雪が止んで日が差している。今のうちに山を下りるぞ。特に準備も必要ないだろう」




 ・・・そうです。

 わたしとバスティアンは今身に着けている下着以外は一切の荷物が無いのです。

 特に身支度も必要ありませんでした。




 バスティアンと一緒に小屋のドアを開けて外に出ると、一面の銀世界に雲一つない青空、そして眩しいくらい輝く太陽からは温かい赤外線の熱を感じます。




「ここからだと公国に戻るよりも隣国の町の方が近い。天候が変わる前に町まで下りるぞ」


「ええと・・・この姿のまま町に入るのですか?」


 さすがに下着姿の男女が雪山から降りてきたら怪しまれるのではないでしょうか?


「山を下りて町の郊外の森の中で日が暮れるのを待つ。夜になって人気が無くなってから町に潜入し、着る物や必要な物資を調達する」


 確かに、山を下りれば気温は高くなるので、夜になっても下着姿で稼働は出来ます。


「了解しました」




 そしてわたしとバスティアンの二人は、白銀の世界に下着姿で駆け出したのです。


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