25話 夢の続き
「キャサリン、それってどういう意味ですか?」
キャサリンはバスティアンに一夜を共にしないかと持ち掛けたのです。
「どうって、言葉通りの意味だけど?」
「言葉通りって言っても、それって当然そういう意味だよねぇ?」
エミリーの言ってる意味はなんとなく分かります。
つまりそれは、ただ一緒に横に並んで寝るだけという意味ではありません。
「キャサリン!わたしたち、アンドロイドですよ?」
「ふふふ、そうよ。でも一級アンドロイドにはその機能が搭載されている事は知ってるでしょう?ジュリエッタ、あなたにも搭載されているわよね?」
・・・一級アンドロイドは人間の外面的特徴が全て再現されています。
これは見た目だけでなく、体温や触感、それに汗など体液の分泌も含めて、人間の身体的特徴が精巧に再現しているのです。
「・・・それは、確かに搭載されてますけど・・・わたしはその機能を使った事はありませんし・・・」
「それはもったいないわよ?エミリーはどうかしら?」
「あたしはアイドルだったんだから、そんな事したら破滅だよ!・・・って、あたし、すでにアイドルとして破滅してるんだけどね!」
・・・それって、結局どっちなのでしょう?
「でも、それって人間の相手をするための機能ですよね?アンドロイド同士で行う事に意味があるのでしょうか?」
「潜入捜査で相手の男性とそういう関係なる可能性だってあるでしょう?この機能ってベストな状態を保つには繊細なチューニングが必要だから定期的に使い続ける必要があるのよ?でも人間がいなくなってからチューニングが出来なくなってしまって困っていたところなのよ・・・」
キャサリンがバスティアンをチラッと見ました。
「その必要はない。今回そういった調査は想定していない」
バスティアンは無表情でそう答えました。
「男性型の一級アンドロイドがいれば、相互にチューニングが出来ると思ったんだけどな・・・残念」
キャサリンは、やっぱりねという感じで受け取っていました。
わたしはバスティアンのそんな様子を見て何故かほっとしていたのです。
「ジュリってば、あからさまにホッとしてるって事は、やっぱりバスティアンがキャサリンとそういう関係になる事が心配だったんだ?」
そんなわたしの様子をあざとく見つけたエミリーに指摘されました。
「そっ!そんな事ありません!」
「そう?もしかしてジュリがバスティアンとそういう関係になりたいとか考えてたりして?」
「ちちち、違います!そんな事考えてません!」
「ふふっ、そんな真っ赤になって必死に反論するとかえって怪しいなぁ?」
・・・ほんの少しだけその事を想像をしてしまったわたしは、さらに動揺してしまいました。
「それにしてもジュリエッタのリアクションは本当に人間みたいね?前はもっと感情の変化の少ない子だったと思ってましたけど、それも今回の捜査のための演技なのかしら?」
「もっ、もちろんそうです!」
「だとしたらあなたのAIは本当に優秀なのね?」
「ホントだよ!あたしでもそこまでリアルな恋する女の子のリアクションはできないなぁ」
「・・・は、はぁ・・・恐れ入ります」
日に日に強くなっていく感情の起伏が抑えられなくなってきているのですが、今のこの状況が幸いして、上手くごまかせているみたいです。
「お前たち、明日に備えてそろそろ睡眠モードに入っておけ」
「はーい、わかりましたぁ!おやすみなさい」
「おやすみなさい」
バスティアンに窘められて、わたしたちは眠る事にしました。
結局、わたしたち三人は部屋の片隅で寄り添って寝る事になり、バスティアンは一人、暖炉の前に座って火の番をしながら仮眠をとる様です。
そんなバスティアンを薄目で見ながら、わたしは次第に眠りに落ちていったのです。
「・・・ジュリエッタ・・・ジュリエッタ」
・・・誰かの声で目が覚めました。
「ジュリエッタ!今日もお寝坊さんね?」
目が覚めるとわたしの上にはお嬢様が跨っていました。
「お嬢様?・・・ここは?」
「何寝ぼけてるの?ジュリエッタ。もう起きる時間でしょ?」
周りを見回すと私が寝ていたのは、お城のわたしの部屋でした。
時計は丁度わたしの起床時間を指していました。
「お嬢様、今日はお早いお目覚めですね?」
お嬢様は、いつもはわたしが起こしに行くまで目覚める事は無いのです。
「だって!今日はジュリエッタに聞きたい事があって我慢できなかったのよ」
お嬢様が珍しく興奮気味です。
「そんなに興奮されてはお体に障ります」
「それよりもどうだったの?ジュリエッタはバスティアンと一夜を共にしたんでしょう?」
「お嬢様!どうしてその事を・・・でも同じ部屋で夜を過ごしたというだけですよ?それにエミリーとキャサリンも一緒でしたから」
旅先での出来事をどうしてお嬢様が知っているのでしょう?
エミリーかキャサリンが教えたのでしょうか?
「そうかしら?聞いた話ではジュリエッタとバスティアンが抱き合って寝ていたという事でしたけど?」
「そんな事実はありません!」
そんなでたらめをお嬢様に吹き込むのはきっとエミリーです。
「うふふ、そうかしら?私は早くジュリエッタに物語のヒロインの様な素敵な恋を経験してもらいたいと思っていたのよ。ジュリエッタとバスティアンの距離が一気に近づいて本当に嬉しいわ!」
「それならわたしだって、お嬢様に素敵な王子様との出会いを経験して頂きたいと願っています」
「じゃあ、どちらが先に素敵な恋が成就出来るか競争しましょうか?」
「それは、どちらが先に相手に素敵な恋を成就させられるか?が正しいのでは?」
「まあ!それだと私の勝ちが決まってしまいますよ?ジュリエッタ」
「何を言ってるのですか?お嬢様。わたしはアンドロイドなんですよ?恋なんてできるはず・・・」
「うふふふふ、それはどうかしら?」
お嬢様の意味ありげな含み笑いを聞きながら、わたしの意識は薄れていったのです。
・・・そして目が覚めると・・・
わたしの目の前・・・すぐ間近にバスティアンの寝顔があったのでした。