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24話 雪山の一夜

 山小屋には暖炉と薪が用意してあったので、とりあえず暖炉に火を点けて暖を取る事にしました。


 アンドロイドとはいえ、氷点下で一晩を過ごすと何かと不具合が生じます。

 何より、わたしは寒さを不快と感じ、温かい状態を心地よいと感じてしまうのです。


 それに、こうして暖炉に薪をくべて暖を取ると、薪の焼けるにおいや、爆ぜる音が聞こえてきて、エアコンで部屋を暖かくするのとは違った情緒があり、なんだか気持ちも穏やかになる気がします。


「ふう、温かいです。生き返りました。こうやって暖炉で温まるのっていいものですね」


 暖炉の火に当たって体が温まってきたわたしは、つい、自然とそう呟きました。


「ふふっ、ジュリエッタってば相変わらず人間ぽい事を言いますね」


「ほんと!本心から幸せ!って感じのセリフだったよ?表情もほんとに幸せそうだったし」


 キャサリンとエミリーに続けて指摘されました。


「えっ、・・・そうですか?これは・・・潜入捜査のために今から人間らしく振舞う練習をしているだけですよ!」


 ・・・我ながら苦しい言い訳です。

 

 でも・・・日に日に感情が表に現れやすくなってきている気がします。

 気を緩めるとつい、今の様に感情を抑える事を忘れてしまいそうになるのです。


「そうかなぁ、最近のジュリって、本当に感情表現が豊かになって来てる気がするよね?」


 エミリーにもそう見えているって事は本当に危ないです。

 わたしが自我に目覚めている事が気付かれてしまう可能性が高くなります。


「いや、ジュリエッタの言う事にも一理ある。我々はこれから人間のふりをして隣国の町に潜入する事になる。今から人間らしい自然な対応を学習しておくのも悪くない」


 バスティアンがわたしの方を見て真面目な顔で言いました。


「これからは我々の間の会話の中でも、できるだけ人間らしい反応をする事にしよう」


 ・・・バスティアンからまさかの提案でした。


「おもしろそう!あたし、そういうの得意だよ!」


「あたくしもそれが本職ですから」


「えっ、わたし、そういうの慣れてなくて・・・」


「ジュリ今のままでもう十分出来てるって!」


「それよりも問題はバスティアンではないかしら?」


「そうだよね、なんだかんだ言ってもバスティアンが一番ロボットっぽいもんね」


「そうか?俺はこれで結構自然だと思うが?」


「だめだめ!全然硬すぎるよ!」


「これはバスティアンが一番練習が必要かもしれないわね?・・・そうだわ!取り合えずバスティアンとジュリエッタで、恋人同士っていう設定で会話をしてみたらどうかしら?」


「それいい!やってみて!」


 キャサリンとエミリーは勝手に盛り上がってしまいました。


「なっ!何を言ってるんですか」


 わたしは咄嗟の事に動揺してしまいました。


「なぜ、俺がそのような事を?」


 バスティアンは冷静に反応しています。


「言い出しっぺはバスティアンですよ?そのままでは隣国に入ったらすぐにアンドロイドだと見破られてしまいますよ?」


 ・・・バスティアンは考え込んでしまいました。

 そして、しばらくして口を開きました。


「・・・そうか・・・ではやってみよう」


 えっ?・・・本当にやるのでしょうか?


 バスティアンはわたしの方を見て真剣な顔をしてわたしを見つめてきました。


 そしてわたしの二の腕を両手でつかんだのです。



「ジュリエッタ、愛している」



 バスティアンは真剣な顔でわたしにそう言ったのです!


 えっ?今何を言われたのでしょう?

 わたしは頭の中が真っ白になって顔が熱くなるのを感じました。


 


 ・・・いいえ、これは人間らしく振舞う練習でした。


 わたしもそれらしい対応をしなければいけませんでした。


「・・・ええと・・・わたしもです!バスティアン」


 ・・・咄嗟にそう答えてしまいました。


 バスティアンは相変わらず真剣な顔でわたしを見つめています。 

 でも目の前のバスティアンの顔がまともに見られません。


 この後はどうすればいいのでしょう?映画などでは、こういった展開の後、恋人同士の二人はキスをするのが自然な流れだったような気がします。


 ・・・ええと・・・これからバスティアンとキスをすべきなのでしょうか?


 わたしとバスティアンは固まったまま動けなくなってしまいました。



「あはははは!二人とも真剣すぎ!でも、さすがにいきなり最初から愛の告白は早すぎだよ!」


 エミリーが大爆笑しています。


「そうでもなくってよ?これから向かう隣国は情熱的な国で、結構大っぴらに愛の告白をして人前でキスをするのが普通みたいよ?」


「そうなの?じゃあ、二人とも早くキスしちゃいなよ!」


「しません!そんな事!」


「あはははは!ジュリってば真っ赤になってかわいい!」


「もう!からかわないでください!」


「ごめんごめん、でもそれだけ感情豊かならジュリは大丈夫だよね?」


 なんだか二人に遊ばれているだけの様な気がします。

 でも、これなら今後は無理に感情を抑える必要が無くなりました。


「バスティアンの方はもう少し人間らしさの特訓が必要ね?」


 キャサリンがバスティアンにしなだれかかりました。




「どう?今夜あたくしと寝てみない?」




 キャサリンがバスティアンにとんでもない提案を持ち掛けました。


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