21話 遠征部隊
「当面の脅威は隣国だ。今回の工作員の侵入と先日の核攻撃の関連性は確定ではないが、隣国がこの国の何かを狙っている事は間違いないだろう」
「バスティアン、やはり、隣国へ調査に行った方が良いと言う事ですね?」
「そうだ、それについてここで決議を取りたい。隣国へ調査団を派遣する事についての是非についてだ」
「わかりました。それでは早速、この場を借りて判断したいと思います」
「まずはパトリシア、捕獲した隣国のアンドロイドの調査結果を報告してくれ」
「はい、かしこまりました。うちの方から調査結果を報告いたします」
パトリシアが立ち上がり報告を始めました。
「今回とらえたアンドロイドですが、これらは隣国から工作活動にやってきたという話でしたが、機体情報を調査した結果、機体は隣国の所属ではありませんでした。おそらくアンドロイド傭兵の派遣を行っている国際組織の様なところの所属で、隣国がその組織に今回の作戦を依頼したものと思われます」
「それじゃあ、ヴァーミリオンも?」
「ヴァーミリオンというのは一体だけ逃亡したという個体の事ですね?おそらくそのアンドロイドも同じ組織の所属だと思います。これらの傭兵アンドロイドは、この様に捕獲された時の用心として、依頼主の情報を明確に記録していないのです。そしてミッションの内容も、捕獲された時点で完全に抹消される仕組みになっていたみたいです。データのサルベージも試みましたがダメでした」
「でもヴァーミリオンは、作戦の内容をわたしに色々話してくれました。何故なんでしょう?」
「ジュリエッタの報告では、その『ヴァーミリオン』と名のった個体は、妙に感情表現が強かったという話でしたよね?」
「はい、まるで人間の様に感情の起伏が激しく、気まぐれに行動している様に見えました」
「感情表現が豊富なのはエミリーやキャサリン、それに最近のジュリエッタもそうですが、エミリーやキャサリンは職種上その様に設定されている訳ですが、工作活動に派遣された傭兵アンドロイドが感情豊かなのは理由がわかりませんね?」
パトリシアがわたしの方をちらっと見ました。
「ええと・・・わたしはお嬢様に言われて、できるだけ感情を表現する様にしているのですが・・・でもヴァーミリオンはまるで本当の人間の様に気まぐれに行動していました」
「理由はわかりませんが、そのヴァーミリオンの『気まぐれ』のおかげでうちらは隣国が首謀者と知る事が出来たわけです。ただし、それもどこまで正しい情報かどうかわかりません」
・・・確かに、ヴァーミリオンが真実を語ったという保証もないのです。
「そうだな、こちらを混乱させるために敢えて偽の情報を流した可能性もある。だが、奴が逃げ去ったのが隣国へ続く一本道なのは間違いない。他に情報がない以上、とりあえず隣国に行って情報収集するしかないだろう」
「そうですね、バスティアンの言う通りこれについては隣国の調査を行うしかないでしょう。この件について反対の方はいますか?」
レイチェルがみんなに問いかけましたが、誰からも反対の声は出ませんでした。
「では、調査を実施するものとします。次に調査隊を構成する事になる訳ですが・・・」
「わたしが行きます!」
レイチェルを遮って手を上げました。
「ジュリエッタ、希望は聞くけど、まずは全員の意見を聞いてからよ」
・・・レイチェルに窘められました。
「隣国へ調査に行くに当たっては諜報活動のスキルが必要だが。そのスキルと経験を持っているのはこの中では俺とバレッタだけだろう。この二人で行動するのがベストだが、今回バレッタにはこの国に残って、防衛に当たってもらいたい」
「それは、もう一つの大国からの侵攻を警戒してという事ですか?」
バレッタがバスティアンに質問しました。
「そうだ。目的はわからないが、隣国がこれだけの手間をかけて、この国の何かを手に入れようとしている。つまりそれにはそれだけの価値があるという事だ。となると、もう一方の大国もこの国を狙ってきてもおかしくはない」
「了解しました。ボス。自分はここに残り防衛に専念します」
バレッタはクールにそう答えましたが、私には若干不満そうにも見えました。
「それからジュリエッタ。希望通りお前にも同行してもらう。ヴァーミリオンと面識がある事も理由だが、お前の潜在的な戦闘能力は先日確認できた。今回必要な諜報活動スキルもインストールすれば、お前なら十分使いこなせるだろう」
「あっ、ありがとうございます!」
わたしは思いっきり頭を下げました。
「それからもう二人、キャサリンとエミリーも同行してくれ。この中では二人が最も対人経験が豊富だろう?」
「ええ、男性相手なら、どんな情報だって引き出して見せるわ」
・・・違う意味の対人経験の様な気もしますが・・・
「あたしも友達を作るのは得意だよ!よろしくね!ジュリ」
エミリーとキャサリンも一緒だと心強いです。
・・・実はバスティアンと二人っきりだと、ちょっと気まずい気がしていたのです。
「それでは、以上4名で隣国調査に向かう」
・・・これで・・・ついに私はお嬢様の仇を見つけに行く事が出来るのです。