20話 会議
目を開けると、そこはアンドロイドのメンテナンスルームのベッドの液体の中でした。
「目が覚めたみたいね。表皮の修復も終ったみたいだし、もう出てもいいわよ」
パトリシアがベッドを操作すると液体が回収されていきます。
そして全ての液体が回収されると、ベッドのカバーが開きました。
「はい、お疲れ様。これで体を拭いて。新しい服は用意しておいたわ」
「ありがとう・・・パトリシア」
タオルを渡されたわたしは、一瞬自分の状況がわかりませんでした。
・・・わたしは・・・今まで夢を見ていたのでしょうか?
・・・それとも・・・こちらが夢?
渡されたタオルで体を拭きながら、頭の中を整理しました。
・・・間違いなく、これが現実です。
わたしは、少しだけがっかりした気分になりました。
こちらが夢だったらよかったですが、お嬢様と会っていたのが夢の中の事だったのです。
でも、さっきの夢の中のお嬢様とのやり取りは現実にあった事ではありません。にもかかわらずお嬢様は本当にお嬢様の様に振舞っていたのです。
・・・あれはわたしが夢の中で作り上げた幻だったのでしょうか?
「そろそろ服を着てくれないかしら?うちとしては、このままあなたのきれいな体を眺めていても良いのだけど?」
そうでした!わたしは全裸のまま物思いに耽っていたのでした!
パトリシアが、わたしの胸のすぐ前でしげしげとわたしの体を眺めていました。
「すっ!すぐ着ます!」
わたしは急いて新しい下着を付け、新しいメイド服を着ました。
それから髪を乾かして身だしなみを整えます。
「お待たせしました」
「捕獲したアンドロイドの調査もさっき終わったところだから、一緒にみんなのところに行きましょう」
パトリシアは、わたしの治療中に捕獲したアンドロイド達を別の部屋で調査していた様です。
わたしがパトリシアと一緒にお城の会議室に入ると、中には一級アンドロイド達が集まっていました。
わたしたちが席に着くとレイチェルが話し始めました。
「これで全員揃ったわね」
部屋にはレイチェルの他にエミリー、バレッタ、キャサリン、クロエ、パトリシアとわたし、それにバスティアンを加えた。8体の一級アンドロイドが全員揃っていました。
「それでは会議を始めます。まずは現状の報告だけど、みんなに調査に行ってもらった結果、この国には人間は全員が死亡していた事が確認されました」
・・・予想はしていましたが・・・この国は本当に人間のいない国になってしまったのです。
「皆さんご存じの通り、わたくしたちアンドロイドにはその所有者となる人間がいます。わたくしたち8体の場合は公王陛下がそれにあたります。そして所有者が亡くなった場合、アンドロイドは相続権を持った親族に所有権が移ります」
そう、わたしたちアンドロイドは所有する人間の財産という扱いになるのです。
「そして、相続権を持った親族が誰もいない場合、他の財産と同様に、所有権は国に移ります。よって、わたくしたちは現在、国有アンドロイドという事になります」
「国有アンドロイドとなったわたくしたちは、この国の取り決めに基づき、国の利益のために奉仕する義務が発生します」
「でもさあ、人間が一人もいなくなったんでしょ?人間がいない国って国って言えるのかな?」
エミリーの言う通りです。国というのは国民あってのものではないでしょうか?
「その判断も人間がいなくてはできないのではないかしら?」
キャサリンも首をかしげています。
「本来であれば、公王を筆頭とする国の執政機関の判断するところになりますが、今となってはそれすらも不在となりました。このような事態はそもそも想定されていないのです」
「それではわたしたちはどうやって自分たちの行動を決めればいいのでしょうか?」
わたしはレイチェルに尋ねました。
「それについてですが、各行政機関の組織ごとの条例の中には、意思決定が必要な場に人間が一人もいない場合に限り、特例として一級アンドロイドにその現場の指揮権を委譲する事が可能との一文があります。本来の意図とは異なるかもしれませんが、現在の状況はこれに当てはまると解釈する事にします」
レイチェルは私たち全員を見まわしました。
「ここに集まってもらったのはこの国に現存する全ての一級アンドロイドです。つまりこの国に人間が不在となった現在、この八人がこの国における最高指揮権を持っているという事になります」
「ええっ!それじゃ自分の好きなようにやりたい放題って事じゃん!」
エミリーが立ちあがってはしゃいでいます。
「もちろん好き勝手に何でもやってい良いという事ではありません。今後はこの八人の総意によって決議を取る事になります」
「でもさあ!言ってみればこれからはあたしたちがこの国の王様って事だよね?」
「王様って言っても、うちら以外に自由意思で動けるアンドロイドはいないけどね。二級以下のアンドロイドやヒューマノイドは誰かに具体的な命令を出してもらわないと行動できないから、結局今までとあまり状況は変わらないって事だよね?」
「それもそっか!まあ、好きな事が出来るって言っても特にやりたい事もないんだけどね」
「そんな事よりも早急に対処しなければならない問題があるのではないですか?」
バレッタが発言しました。
そして、バスティアンが立ち上がりました。
「そうだ。隣国からの侵略者の件を迅速に対応しなければならない」