18話 新たな目的
「リミッターの設定が完了した」
バスティアンはそう言って私から唇を離しました。
バスティアンの唇が離れた瞬間、口元に風を感じ、一瞬寂しさを感じた気がしました。
「異常はないか?」
「ええと・・・大きな問題ではないのですが、アクチュエータの発熱が収まらないのですが」
「そうか?・・・確かに表面温度が高いな?・・・すまない、設定を間違えたかもしれん。もう一度確認してみる」
バスティアンはそう言うと、再びわたしに唇を重ねたのです!
そうでした。
システムの異常かもしれないとしたらこうやって確認するしかないのです。
でも、バスティアンの唇が触れた瞬間、わたしは全身の温度が更に上がったのを感知しました。
バスティアンはわたしのシステムの確認をしながら首をかしげています。
それはそうです、リミッターは正常に設定されていて、他にシステム異常が見当たらないのに、アクチュエーターが発熱を続けているのです。
バスティアンはさらに調査範囲を広げてわたしのシステムの中を調べ始めました。
より詳しく調べようとしたためか、わたしを抱きしめる腕に力が入り、唇を押し付ける力も強くなりました。
「あーっ!ジュリとバスティアンがキスしてる!」
「ボス、何をしているのですか?」
そこに聞いたことのある声が聞こえてきました。
慌てて、唇を離して振り返ると、そこにはエミリーとバレッタがこちらに向かって歩いてくるところでした。
「なになに!ジュリってば恋愛に興味無いふりして、実はバスティアンとそういう関係だったんだ?」
エミリーはにっこにこ顔で迫ってきました。
「ボス、そういう行為は諜報活動中に女性のターゲットから情報収集する際にするものではないですか?部下のアンドロイドとその行為をする意味が分かりません!」
バレッタは無表情でそう言いました。
でも、口調に若干の怒りが入っているように聞こえました。
「もう、バレッタってばお堅いなあ。二人が愛し合ってるからに決まってるじゃない!」
「あのっ!違うんです!これはそういうのじゃなくって・・・」
「ジュリってば、そんな真っ赤になって言っても説得力ないよ?」
「確かに顔が赤いな?設定数値に問題は無かったのだが?・・・ハードウェアのトラブルかもしれん。確認するから服を脱げ」
バスティアンはそう言ってわたしの襟元のボタンを外そうとしました。
「おお!二人の仲はそこまで発展してるの!」
エミリーは異様な盛り上がりを見せています。
「待ってください。わたしは正常です!どこにも異常はありません!」
わたしは慌ててバスティアンから離れて、身なりを整えました。
「そうか、だが城に戻ったら精密点検をしておけ」
「・・・はい、そうします」
「ところでボス、一体この状況は?何があったのですか?」
「二人でこっそり逢引きしてた・・・って雰囲気でもないよね?」
わたしたちの周りは激しい戦闘の痕跡と倒されたアンドロイド達が転がっています。
「これらのアンドロイドはこの国の物ではありませんね」
「隣国からの侵入者だそうだ」
「どういうことですか?」
「詳しい事はジュリエッタが話してくれ」
バスティアンがわたしの方を見て説明を促しました。
「ええと、わたしが接触したアンドロイドから聞いた話なんですけど、この国で極秘裏に開発されている特殊なアンドロイドを強奪するために来たそうで、先日の攻撃も隣国からの可能性が高いと言ってました」
「では、このアンドロイド達は隣国の物で、先の核攻撃も隣国の仕業という事ですね?」
「特別なアンドロイドって何だろう?ジュリの事じゃないの?この国で一番高価なアンドロイドってジュリだよね?なんたってあたしを含め他のアンドロイドって、みんな中古品だもんね!」
「ちっ、違います!わたしでは無いと言ってました」
「じゃあ、クロエなんじゃないの?」
確かにクロエもわたしの後に新規で購入されたアンドロイドです。
「クロエの基本スペックはジュリエッタより劣る。それに特別変わった特徴は無いはずだ」
「いずれにしても、アンドロイド強奪のために核攻撃まで行うとは考えにくいですね。ターゲットに影響が出る可能性もあるし、全く採算が合いません」
「それは俺も同感だ。アンドロイド奪取の手段として核を使用する事は考えにくい。隣国にもっと大きな別の目的があってアンドロイドの奪取はその一環の可能性もある」
バスティアンとバレッタは状況分析を始めました。
確かにヴァーミリオンも核攻撃の事は知らなかったみたいですが・・・
「あのっ!隣国に調査に行ってはどうでしょうか?」
わたしは思わず口に出していました。
「確かにそうだな。通信が回復するまで国外の状況が把握できないが、再び工作員が派遣される可能性もある。迅速に情報収集を行なって状況を把握した方が有利に事を運べる」
わたしの提案はあっさり受け入れられたようです。
「とりあえず一旦城に帰還する。すぐに隣国調査の計画を立てるぞ」
「あのっ!隣国の調査にはわたしも参加させてください!」
「どうした?妙に積極的だな」
「いえ、ヴァーミリオンと接触した事のあるわたしがいた方が役に立つのではないかと」
「わかった、考慮しよう。とにかく城に戻ってから人選を行う」
「ありがとうございます」
そう、隣国に行けば、お嬢様の仇を討つ事が出来るかもしれないのです。
わたしにとって、それが新たな目的となっていたのです。