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17話 戦いの後

 ヴァーミリオンは目を見開いたまま倒れこみ、そのまま微動だにしなくなりました。



「終わった様だな」


 振り返ると、バスティアンがわたしの方に歩いて来るところでした。

 バスティアンの方も、他のアンドロイドを全て倒したようです。


「はい、指に搭載されている放電機能のおかげで助かりました」


 わたしの指にはAED機能が搭載されていますが、これはスタンガンとしても使用できるのです。

 あのまま、ヴァーミリオンの首を握り潰したとしても、彼の言う通り、わたしの小さな手では彼の太い首の奥にある中枢部まで一握りでは損傷させる事は出来なかったでしょう。

 一方で彼の大きな手であればわたしの細い首は一握りで潰されてしまいます。

 普通にやり合ったのではわたしの負けは確定していたのですが、スタンガンで彼の中枢回路に決定的なダメージを与える事が出来たのです。


「この様子では自力で再起動はできないだろう。お前の方は怪我はないか?」


「はい、大した損傷はありません。服が少し破けた程度です」


「そうか、良かった」


 バスティアンがわたしの全身を上から下へ目視チェックし破れたスカートに視線が止まりました。


 スカートの裂け目からは私の太ももが見えていました。


「あの、恥ずかしいのであまり見ないで下さい」


 私は慌ててスカートの裂け目を手で隠しました。


「恥ずかしい?・・・すまない。お前にはそういう感情があるのだな」


 バスティアンは目線をわたしの顔に戻しました。


「いえ!それは・・・その、お嬢様から恥じらいを持って振舞う様にと言わていまして・・・」


「まあいい、体に異常がないのなら、こいつらを運ぶのを手伝ってくれ」


 バスティアンが親指で指した先には、倒されたアンドロイド達が拘束されていました。


「それから、そいつも・・・」


 バスティアンが言いかけた時、私の背後で気配を感じました。


 振り返るとヴァーミリオンが逃げ去るところでした。


「待ちなさい!」


 わたしはすぐに彼を追いかけようとしました。


「よせ、他にも仲間がいるかもしれん。深追いはするな」


 バスティアンは私の肩を掴んで制止しました。

 その間にヴァーミリオンの姿は見えなくなりました。


「完全に機能停止していたかと思ったが、どうやらふりをしていただけだったらしい・・・それにしても、どうした?お前らしくもないな」


「・・・彼らは・・・お嬢様の仇です」


「なんだと?どういうことだ?」


「彼の話からすると、先日の攻撃は隣国からのものかもしれません」


「奴がそう言ったのか?」


「はい、彼も核攻撃の事は知らなかったみたいですが、恐らくそうだろうと・・・」


「そうか・・・いずれにしても隣国に何かありそうだな・・・それよりも、とりあえずお前のリミッターを元に戻すぞ」


 そういえば、ずっと体が火照ったままでした。


「お前のアクチュエーターは体格のわりにの最大出力が高すぎる。常時リミッターを解除していると自壊するぞ」


「そうですね、おねがいます・・・でも、またあれをするのでしょうか?」


「無線機能が回復していないから仕方がない」


 ・・・さっきは緊急事態だったから意識していなかったのですが・・・アンドロイドとはいえ、男性と唇を重ねるのは、ちょっと抵抗があります。


 人間の場合、男女が唇を合わせる行為には特別な意味があるのです。

 お嬢様が、その手のお話が大好きでたくさん読みましたが、その時のお嬢様のうれしそうな顔や恥ずかしそうな顔が忘れられません。


 そして、さっきバスティアンと唇を重ねた時の事を思い出すと、なんだか自分が物語のヒロインになったような気がして、恥ずかしくなってしまうのです。


「他の方法はないのでしょうか?」


「他の方法?・・・口が嫌だったら別の部位でも可能だが?」


「別の部位と言いますと・・・・・」



 わたしもバスティアンも一級アンドロイドです。


 一級アンドロイドは体の外見の全てが人間と全く同じ構成で作られているのですが、口以外で表皮ではなく粘膜組成で疑似体液を分泌できる部位というと・・・・・




「・・・・・口でお願いします!」


 わたしは目をつぶってバスティアンに向かって唇を突き出しました。


「では、接続を開始する」


 バスティアンはわたしの両肩に軽く手をかけ、優しく唇を重ねました。


「んっ」


 思わず声が出てしまいました。

 そして、再びバスティアンの意識がわたしの中に入ってくるのを感じます。


 でもさっきのと違って、余計な事を考えてしまったので、変に意識してしまいました。


 わたしは今、バスティアンと人間の恋人同士が行なう行為をしているのです。

 そう考え始めたら、ますます変な感覚になってきました。


 バスティアンに対してそういった特別な感情を抱いているわけではないはずですし、そもそもアンドロイドのAIである私に恋愛感情というものがあるのでしょうか?

 これは過去にお嬢様と一緒に読んだ物語の設定に自分を重ねているだけなんだと思います。


 自分の危機を助けてくれた男性との口づけという、物語の中でヒロインが恋に落ちるよくあるシチュエーションと、今回のバスティアンの行動が偶然重なってしまったために、わたしのAIが錯覚を起しているだけなのだと結論付ける事にしました。



 ただ・・・全身のアクチュエーターのリミッターが再び有効になったにも関わらず、なぜかわたしのボディは火照ったまま温度が下がっていかない気がしたのです。


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