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13話 接触

 

 ヴァーミリオンと名のったアンドロイドはわたしに唇を重ねてきました。




 ・・・これは、愛し合う人間の男女がお互いの愛を確かめ合う行為です!




 お嬢様の好きなお話は、大抵最後は愛し合う二人が結ばれてハッピーエンドとなるのです。


 出あって恋に落ちた二人は、様々な苦難を乗り越えてた末に結ばれて、口づけを交わして物語が終わるのです。


 出会って、いきなりするものではありません。

 ましてや、この人はわたしの敵かも知れないのです。


 ・・・いえ、お嬢様の好きな王道のラブストーリー以外に、変則的なお話もありました。

 最初は敵対していた男女がやがてひかれあって、最後には結ばれる話です。


 ・・・でも、わたしがこの人と結ばれるなどと言う事があるのでしょうか?

 そもそも、わたしもこの人もアンドロイドなのですから・・・


 そんな事を考えて混乱していると、バーミリオンの意識がわたしの中に侵入してきました。



 ・・・これは!・・・キスではなく、ハッキングをしようとしています!


 アンドロイドは物理的な通信コネクタを持たないため、通常は無線で外部とのデータ通信を行ないます。

 しかし現在、強力な電波障害により、一部のセンサーと無線通信が使用できなくなっているのです。

 そこでわたしたちは、人間が普段使用している音声会話や視覚を用いた情報伝達を行なっていたのです。


 ですが、アンドロイドにはもう一つの通信手段があります。

 それが接触通信です。


 アンドロイドの表皮は一部を除き絶縁物質で構成されていますが、口腔内など外皮と異なる素材で構成されている部位どうしを人工体液で潤滑されている状態で接触する事により、直接通信が可能になるのです。

 この機能は普段使う事は無いのですが、メンテナンス時や無線通信機能が使用できない時のために用意されているのです。


 ヴァーミリオンは、わたしと口腔内粘膜を直接接触させて回線を開き、わたしの人工脳に侵入してハッキングを行なおうとしているのでした。


 わたしはすぐに、ハッキング対策のファイヤーウォールを強化すると共に、人工筋肉のリミッターを解除して、ヴァーミリオンを突き離し、強制的に唇を遠ざけました。


「なんだ、つれないじゃねえか?見た目と違って、結構なじゃじゃ馬だな」


「どういうつもりですか?」


「どうもこうもねえよ。あんたがターゲットかどうか調べさせてもらう」


 ヴァーミリオンはそう言うと同時に、再びわたしを脱き寄せて唇を重ねました。


 今度はさっきよりしっかりと抱きしめられてしまったために、簡単には突き離せませんでした。

 そこでわたしは体を捩って唇を離しました。


「おいおい、そう嫌がんなよ」


 ヴァーミリオンはわたしを床に押し倒し、さらに強く抱きしめて、激しく唇を押し付けてきました。


 これでは唇を離す事も出来ません。


 そして、わたしのファイアーウォールをこじ開けて無理やりAIに侵入して来ようとしています。


 わたしも必死に抵抗します。

 人工筋肉のリミッターを自己判断で解除できる限界まで解除しましたが、それでもまだ振り払えません。

 ヴァーミリオンの出力はおそらくもっと上なのでしょう。


 ファイアーウォールの防御も強化していますが、ヴァーミリオンのハッキングプログラムは特殊なタイプで、既存のディフェンスプログラムでは防御しきれません。

 ディフェンスプログラムの隙を巧みに掻い潜って来るのです。

 このままでは時間の問題で侵入されてしまいます。




 そこで私は、こちらからもヴァーミリオンのAIをハッキングする事にしました。

 通信回線が開いている以上、条件は双方同じなのです。


 まずは普通にバーミリオンのOSの通信機能認アクセスしました。

 さすがにプロテクトが掛かっていますが、表層のプロテクトは単純な暗証番号でパス出来ます。

 解除の方法は、先ほどヴァーミリオンがわたしのプロテクトを解除した時に学習しました。


 同じ方法でヴァーミリオンの表層プロテクトも解除できました。

 更に奥に侵入していきます。


 ヴァーミリオンがわたしのプロテクトの解除を次々と進行しているので、その方法論を観察し、漏らさずに学習していきます。

 そしてわたしもその方法を真似してヴァーミリオンのプロテクトを解除していくのです。


 ヴァーミリオンもわたしがハッキングを始めた事に気が付いた様で、ハッキングのペースを上げてきました。

 わたしもそれに追従してハッキングのペースを上げます。


 でも、このままだと、確実にヴァーミリオンの方が先に私の内部に侵入してしまいます。

 ハッキングのノウハウを持たない私は、ヴァーミリオンに先行する事が出来ないからです。


 ヴァーミリオンは私の主記憶領域への侵入を目指しているようですが、わたしはその途中で方針を変えてヴァーミリオンの身体制御領域への侵入を開始しました。


 ヴァーミリオンはわたしの身体制御領域への侵入は試みていませんでした。

 物理的な力で拘束出来ているのでその必要が無いと判断したのでしょう。


 身体制御領域への侵入は見本がありませんが、これまでの手順から方法を予測して試したところ、完全ではありませんが一部の領域に侵入が出来ました。


 そこでわたしは、バーミリオンの身体制御領域のデータを適当にかき乱してみました。


「うわっ!」


 ヴァーミリオンは突然もがき苦しみだし、その隙にわたしは彼から唇を離し、突き飛ばして距離を取りました。


「何しやがった?こいつ!」


 ヴァーミリオンは体が痙攣して自由に動けなくなったみたいです。


 わたしは、屋敷から走り出しました。


「待て!・・・くっ、足が動かねえ・・・」


 ヴァーミリオンが後ろで叫んでいますが、わたしは振り返らずに走り続けました。


 しかし、もう少しで屋敷の敷地から出られるというところで、門の前に見知らぬ二体のアンドロイドが立ち塞がっていたのです。


「そこを通して下さい」


 わたしは門を塞ぐように立っているアンドロイドに話しかけました。


「そうはいかない」


 そのうちの一体がそう答えると、わたしを捕まえようと手を伸ばしてきました。


 わたしは咄嗟に後ろに飛び退き、彼らから距離を取りました。



「やれやれ、とんだじゃじゃ馬なお嬢さんだったな」



 その時・・・背後からヴァーミリオンの声がしたのです。


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