12話 邂逅
この町は隣国へと繋がる一本道の入り口にあるため、大昔、戦争があった時代には国を守る砦としての役割を担っていたそうです。
この公国は二つの大国を隔てる険しい山脈の中央にある僅かな平地に位置しています。
国に繋がる道はそれぞれの大国に繋がる二本の山道だけです。
その内の一本の道がこの町に繋がっているのです。
公国には、城下町の他に大きな町は、この町ともう一つの国境の町の二つしかありません。
周辺の小さな村々は近代化が進んでおらず、作業用の旧型のロボットはいましたが、アンドロイドやヒューマノイドはいませんでした。
しかし、これくらいの規模の町ならアンドロイドやヒューマノイドもいるはずです。
もしかしたら何か新しい情報が得られるかもしれません。
アンドロイドがいるとしたら、おそらく領主の館ですので、わたしはまず領主の館を目指す事にしました。
領主の館は町の中心にあります。
館に向かう途中の家や店舗を一部確認しましたが、やはり住人は皆亡くなっていました。
しかしこれまでの村と違って、少し違和感を感じました。
家の中が荒らされた気配があるのです。
それも、荒らされたのはつい最近で、おそらく例の光が見えた日より後です。
ロボットが家を荒らすとは考えられないのですが、もしかして人間が生き残っているのでしょうか?
気になったので、領主の輩に向かう途中の家を全て調べていきました。
すると、殆どの家の中が荒らされた形跡があるのです。
明らかに何者かが町中の家を調べて回ってる様です。
痕跡からすると作業用ロボットやヒューマノイドではなく、人間かアンドロイドの可能性が高いです。
もし、アンドロイドだとしたら・・・わたしの様に自我を持ったアンドロイドの仕業だという可能性も考えられます。
でも・・・もし自我を持ったアンドロイドが悪事を働いているのだとしたら・・・それはとても恐ろしい事です。
懸念を抱きつつも領主の館を目指しました。
館の正門に到着すると、門の扉が開け放たれていました。
警備の兵もアンドロイドもいません。
つい最近、誰かが通った形跡があります。
わたしは警戒しながら敷地の中に入っていきました。
玄関の前まで来ると、玄関の扉も僅かに開きかけたままでした。
センサーで感知してみましたが、相変わらず電磁波の障害が強くて正常にデータを取得する事が出来ないため、中に誰かがいるのかどうか、わかりませんでした。
仕方ないので、視覚と聴覚で周囲を警戒しつつ中に入る事にします。
扉を開くと、そこはホールになっています。
やはり何か違和感を感じますが、わたしは思い切って中に踏み込みました。
そこには・・・数体の壊れたヒューマノイドが倒れていたのです!
「・・・これは、一体?」
「よう、まだ生き残ってる人間がいたんだな?」
突然、横から男性の声がしました!
声のした方を向くと、そこには・・・赤い髪の男の人が立っていたのです。
「この町の人間は全員死んでるのかと思ったが、こんなかわい子ちゃんのメイドが生き残ってるとはな」
男の人はわたしの方に歩いてきました。
背は高く、整った顔立ちをしていますが、その表情に危険なものを感じました。
男の人は不敵な笑みを浮かべていますが、笑みの中に何か得体のしれない狂気を感じるのです。
ヒューマノイドを壊したのはこの男の人でしょうか?
「あなたは・・・誰ですか?」
「俺か?俺の名はヴァーミリオンだ。あんたは?」
「私はジュリエッタです」
「ジュリエッタか、見た目の通りかわいい名前じゃねえか」
・・・警戒すべき相手なのに、普通に自己紹介をしてしまいました。
「あなたはこの国の人ではありませんね?ここで何をしてるんですか?」
「何って?探し物に来たのさ」
「探し物?・・・それでは町中の家の中を物色したのはあなたですか?」
「ああ、そうだ!目的の物を見つけて持って帰らなくちゃならねえ」
「一体何を?」
「あんたには関係のないものだ・・・いや、待て・・・あんた、人間じゃなくてアンドロイドなのか?」
「はい、そうです」
「そうか!じゃあ、無関係じゃねえな・・・・・それにしても、ここまで人間と区別がつかねえアンドロイドは初めて見たな・・・もしかしてあんたが・・・・・ちっ!、やっぱり無線が使えねえ!」
男は悪態をつくと、わたしの方に近づいてきました。
最初は人間かと思いましたが・・・この男もアンドロイドです。
これまでの言動からすると、おそらく二級以上のアンドロイドです。
しかも自我を持っている様に見えます。
そして、私の前に立つと私の顎に手を添えました。
「ほう、これだけ間近で見ても人間と区別がつかねえな。一級アンドロイドでもここまで精巧に出来た奴は見た事がねえ」
「そういうあなたも一級アンドロイドですか?」
「俺か?俺はそういうのとはちょっと違うな」
・・・どういう事でしょう?
近くに来てわかりましたが、この男、アンドロイドである事は間違いないのですが、何か違和感があります。
「失礼、お嬢さん」
そして、そのアンドロイドはわたしに顔を近づけると・・・いきなりキスをしたのです。