11話 辺境の調査
城下町から外に出ると、田園風景が続いています。
その中をエミリーと当たり障りない会話を続けながら歩いていきました。
話をすればするほど、エミリーには自我があるのではないかという気がしてくるほどの、自由奔放ぶりです。
これまでエミリーとはあまり会話をした事が無かったので、あの日以前からこうだったのか、わたしと同じ様にあの日に自我が目覚めてこうなったのか、それも分かりません。
結局のところ、エミリーに自我があるのか、単に恋人モードが誤作動しているだけなのか判別する事は出来ませんでした。
そもそも恋人モードは、アンドロイドと本気の恋愛をしたい人のために用意されたプログラムなので、対話のシナリオだけでなく、表情や仕草などのモーションデータが、とても綿密に作られているのです。
ただ、どちらにしてもエミリーが正常な状態でない事に変わりは無いのですが・・・
むしろ、エミリーがこの状態で放置されているという事は、わたしが自我を持っている様に振舞っても問題無いのかもしれません。
そんな事を考えている内に、最初の農村にたどり着きました。
この村はエミリーの隊と合同で調査します。
「人の気配が全くないね?」
エミリーの言う通り、物音一つ聞こえてきません。
「家の中も調べてみましょう」
わたしはエミリーと手近な家に入りました。
家のドアには鍵はかかっておらず、そのまま開ける事が出来ました。
中には、この家の住人らしき人が倒れていました。
・・・そして、一目見て亡くなっている事がわかります。
あの日からすでに何日も経っているため、既に遺体の腐敗が始まっていたのです。
鼻に搭載された嗅覚センサーからの情報からもそれはわかります。
その数値は動物性たんぱく質が腐敗した時に発せされる成分である事を表しています。
そしてわたしはその数値を『匂い』として、とても不快に感じています。
「やっぱりみんな死んじゃったみたいだね。それにしてもひどい匂い!」
エミリーは鼻をつまんで、そう言いました。
エミリーもこの匂いを不快に感じている様です。
「とにかく他の家も調べていきましょう」
わたしとエミリーは、ヒューマノイドたちに遺体の処置を指示して、次の家に向かいました。
結局、数十件あったこの村の全ての家の住人が亡くなっていました。
やはり、この様子だと国中の人間が亡くなっている可能性が高くなってきました。
村にあったの遺体を一カ所に集めて数体のヒューマノイドを残し、わたしとエミリーはそれぞれ別の村に向かいます。
「じゃあね、ジュリ。お話しできて楽しかったよ!帰ったらまたお話ししようね!」
「ええ、エミリーも気を付けてね」
エミリーと別れると、話し相手がいなくなって、ちょっと寂しくなりました。
そこで、同行している三級アンドロイドに話しかけてみました。
「ねえ、あなたは恋をした事ってありますか?」
「自分には恋愛プログラムはインストールされていません。必要でしたら一部の機能限定でインストール可能です。全ての機能をご利用になられたい場合は一級アンドロイドをご購入下さい」
・・・何だかとても営業的な返事が返ってきました。
わたしがその一級アンドロイドなのですが、このアンドロイドの会話プログラムは対人間用なので、わたしを人間と想定して返答しているみたいです。
三級アンドロイドの標準の会話といったら大体こんな感じです。
三級アンドロイドは外見的には一級や二級とそれほど変わらないのですが、表情のバリエーションが少なく、触れた時の感触も人間とは異なります。
それに人工脳のグレードも少し落ちるので高度な会話は出来ないのです。
それでも何とか会話が成立しないかと思って、色々話題を振ってみたのですが、やはり事務的な返答しか帰って来ませんでした。
「あなたの様にアンドロイドと自然な会話を楽しみたい方は、二級以上のアンドロイドのご購入をお勧めいたします」
・・・再び営業をかけられてしまいました。
二級アンドロイドは外観と表情の変化、それに皮膚の触感などは人間と見分けがつかないくらい精巧に出来ていて、外観的には一級と二級にはほとんど差がありません。
人工脳のグレードは一級よりは劣るものの、それなりに高度なAIを搭載していますので、データベース次第ではかなり自然な会話が可能です。
ただし、生体機能は実装されていませんので、一緒に食事をしたりなど、より親密なコミュニケーションをとる事は出来ません。
人間同士で行うほとんどのコミュニケーションを実現する機能を持ったアンドロイドが一級アンドロイドなのです。
結局、三級アンドロイドとは、エミリーの様に会話を楽しむという訳にはいきませんでした。
そう・・・思えばエミリーとの会話は、まるでお嬢様と会話している時の様に楽しかったのです。
その当時のわたしには、『楽しい』という感情は無かったはずなのですが、その時の記録を呼び起こすと、わたしはその時の会話を『楽しかった』と感じているのです。
そうしているうちに次の村にたどり着きました。
二つ目の村でも、やはり生き残っている人間はいませんでした。
幼い子供達も亡くなっているのを見て、お嬢様の事を想い出し、悲しみの感情がこみ上げてきました。
そもそも、この攻撃は、一体だれが何の目的で行なったのでしょう。
この様な、何もない小さな国に攻撃を仕掛けた理由が解りません。
お嬢様や、こんな小さな子供たちの命を犠牲にしてまで、やらなければいけない事があるのでしょうか?
そんな事を考えていたら、悲しみの中に、次第に小さな怒りの感情が混ざっている事に気が付きました。
これはアンドロイドにはあってはいけない感情です。
それからも、いくつかの小さな村を見て回りましたが、いずれの村でも生き残っている人間は一人もいませんでした。
やがてわたしの隊は、最終目的地である国境の町にたどり着いたのです。




