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10話 アンドロイドの恋

「エミリーは男の人を好きになった事があるのですか?」


 エミリーが自分のコイバナをしたいみたいなので聞いてみました。


「よくぞ聞いてくれました!こう見えてあたしは恋多きアンドロイドなんだよ!」


 エミリーは腰に手を当てて待っていましたとばかりに語り始めました。


 アンドロイドを恋人がわりに購入する事は良くある事で、珍しい事ではありません。

 恋人仕様のアンドロイドには、いかにも恋愛をしている様なふるまいをするプログラムが組み込まれています。

 ・・・ただ、確かエミリーはアイドルアンドロイドとして芸能活動をしていたのではなかったでしょうか?

 アイドルとして活動しているアンドロイドに、わざわざ恋人プログラムが組み込まれているとは考えられません。


「以前は芸能活動をしていたって聞きましたけど、恋愛は大丈夫なんですか?」


「うん!もちろん大丈夫じゃないよ。だから今、この国でメイドをやる羽目になってるんだよ」


 あれっ?・・・もしかしたら結構ヘビーな話なのかもしれません。


「あたしってさぁ、自分で言うのもなんだけど結構人気のアイドルだったんだよね」


 確かにエミリーはとても愛らしく、笑顔が天使の様に可愛いのです。


「だから、ファンの男の子の中には本気であたしに恋をしちゃう子が続出しちゃってね、何度かトラブルに巻き込まれた事があったんだ」


「アイドルも大変なんですね」


「ファンの中にはあたし好みの男の子もいてさ、そういう時ってあたしもつい気を許しちゃって、握手会やサイン会で、ちょっと過剰サービス気味になっちゃうんだけど、後で厄介な事になってたりするんだよ」


 アンドロイドが過剰サービスって・・・どういう事でしょう?


「厄介な事と言うと?」


「ストーカーとかだね。まあ、その頃あたしは事務所内に部屋をもらって住んでたから、セキュリティは問題無かったんだけどね。でも中には過激な行動に出る人がいて、そんな時にいつも助けてくれたのがマネージャーだったんだよ」


「それでさ、何度も助けてもらっている内に、そのマネージャーをちょっと特別な存在に感じる様になってたんだよね。そしてある時、結構過激なストーカーに狙われてたあたしをマネージャが助けてくれた事があってね、嬉しくなっちゃって、抱きついた後、そのもままキスしちゃったんだよね」


 それって、AIのリアクションプログラムの範疇を越えているのではないでしょうか?

 正常なAIが出来る事ではないのでは?


「ところが撃退したストーカーにその瞬間を写真に撮られて、ネットに公開されちゃったんだ。おかげでそのマネージャーは解雇になって、あたしもその国で芸能活動が出来なくなっちゃったってわけ。それで事務所から売却されてこの国に買い取られたってとこかな」


「そんな過去があったんですね。ですがその話はわたしに話しても良かったんですか?」


「うん、ネットで検索すればわかる事だし、今更隠してもしょうがないからね」


「でも、アンドロイドのエミリーがどうしてそんな行動をしたんですか?」


「どうしてって、マネージャの事を好きになったからに決まってるじゃない」


 ・・・決まってるじゃないって言われても、正常なAIがそんな行動をとる事はありません。

 やはりエミリーにはその頃から自我が芽生えていたのでしょうか?


 あるいは、何故インストールされていたのかはわかりませんが、恋人モードのプログラムが間違えて実行されたのかもしれません。

 いずれにしてもAIが正常では無いと判断されかねない状況です。


 通常であればAIを初期化されてしまうところですが、その記憶を持っているという事はエミリーのAIは初期化されていないのでしょう。


「その後、エミリーのAIは初期化されなかったのですか?」


「それなんだけどさ、お城の方針で、中古のアンドロイドのAIは初期化せずにそのまま使用するらしくて、機密情報だけは消去されているけど、それ以外の当たり障りのない記録や習得したスキルなんかは消去されずに済んだんだよね」


 ・・・そういえば、お城の他のアンドロイド達も、過去の記憶を持っている様でした。

 お城にいる8体の一級アンドロイドの中で、新品でメーカーから購入されたのは私とクロエだけで、他の6体は過去に別のオーナーが所有していたものを払い下げたのだと聞いた事があります。


 通常、アンドロイドを他の持ち主に売り渡す時は、AIを初期化する事になっています。

 大抵は、前の持ち主のところでついた癖が邪魔になるからだそうです。


 この国では、あえてそれを残したのには何か理由があったのでしょうか?



 

「ところでそのマネージャーさんは、人間だったのですか?それともアンドロイドだったのですか?」


「アンドロイドだよ。あたしのいた事務所の方針で、あたしたちのアンドロイドアイドルのユニットは、スタッフも出来るだけアンドロイドで構成する事になってたんだ。あたしの担当だったマネージャーは優秀で、スケジュール管理から野次馬の対応まで何でもこなしてくれて、時々起きるストーカー被害もスマートに対応してくれてたんだ」


「マネージャーさんはその後どうなったんですか?」


「さあ、あたしみたいにどこかに払下げになったか、あるいは解体されてるかもしれないね。いずれにしてもAIは初期化されているだろうから、あたしの事は覚えていないだろうけどね」


「・・・今でも、そのマネージャーさんの事を想っているのですか?」


「そうだねぇ・・・以前のままで再会できたら今でも好きかもしれないけど、その可能性はほとんど無いだろうね。でも実は、ジュリにつられて泣いていた時に、少しだけ彼の事を思い出してたんだ」


「そうだったんですね」



 エミリーの話から、一見エミリーにも自我芽生えている様にも取れますが、『恋人仕様』のアンドロイドであれば、これくらいの叙情的なやり取りをする事は出来てしまうです。




 エミリーにも自我があるのかもしれないと思いましたが、今の段階で、エミリーに自我が芽生えていると判断するのは、時期尚早かもしれません。


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