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ハラハラ☆クッキング

「あ、やば。もうこんな時間だ。ばんごはん作んなきゃ」


白はアストレイから手を離した。慌てて立ち上がる。椅子が床に擦れた。


『ばんごはん?』


不思議そうだ。


「夜に食べるご飯だよ。食べないと腹減って寝れないじゃん。……ん?あれ?アストレイって、何食べんの?もしかして500年、何も食べてない?やばくない?えっ、死なない⁉︎」


『ああ、なるほど。エネルギー摂取のことをお前らはご飯と呼ぶのか。まあ心配するな。元来、我々メタリアンはお前ら有機生物と違って頻繁なごはんを必要としない』


納得した、と言う。人間だったらうんうんとうなずいていることだろう。そんな雰囲気だ。


『お前らが有機物を消化・吸収するように、我々は無機物ならあらゆるものを分解してエネルギーに変えられる。物によって変換効率の良し悪しはあるけどな。今もごはんしてるぞ。接触するエアロゾルを吸収してる。だから何も問題はない』


「よくわかんないけど、腹減らないならよかったよ」


アストレイをテーブルに置いたまま、白はキッチンへ移動する。冷蔵庫を開けた。


中から野菜と肉の入ったパックを一つ取り出す。パックにはフードデリバリー会社のロゴが入っている。表面に貼ってあるシールに、、入っている食材と料理名が印刷されている。今日は回鍋肉だ。


米を研いで炊飯器にかける。食材を、袋からフライパンへいっきに流し込む。思ったよりキャベツが多い。


(……もっと肉が食べたい)


冷蔵庫のお肉ゾーンから徳用ウインナーの袋を取り出す。まな板を洗うのが面倒なので、手でウインナーを折り曲げて、切れ目を入れる。


『うわっ、うわっ、なんだそれ』


リビングテーブルから驚愕と、若干の恐怖が入り混じった声がする。


『お前それ、お前と同じ哺乳類に大組織をペースとして成形したやつだぞっ』


「言ってる意味はよくわかんないけど、すごいテンション下がること言われてんのはなんとなくわかるんだけど。やめろよな、その言い方、うまいからいいんだよ」


回鍋肉をフライパンの端に寄せて、できたスペースにウインナーを放り込む。香ばしい匂いがキッチンに満ちる。


できた。火を止めて蓋をする。片手鍋に水と粉末出汁を放り込む。パックから出した豆腐を手のひらで刻む。


『や、やめろ白っ!手、切れちゃうぞ!刃が、刃が当たって……っ。わあーーーっ!白ーーーっ!』


あまりの必死さに、白は思わず吹き出してしまった。


「ふ、ふはは。だからやめろってばアストレイ!手ェ震えちゃって、ほんとにケガしちゃうじゃん!」


どうやら本気で焦って止めようとしているらしい。笑いをこらえようとすると手が震えてしまう。包丁を持つ手に力が入りすぎないよう細心の注意をこめる。切った豆腐と乾燥わかめを鍋に流し込んだら、リビングに手の平を向けてヒラヒラと振ってやった。


『エンジンポンプが止まるかと思ったぞ……。今の俺にはないけど……』


顔があれば息切れをしているのだろう。石のまま憔悴するアストレイを見る。


「……さっきから思ってたけど、アストレイってロボットみたいなこと言うな?」


『体構造をもつ無機生命体は大体地球人の言うロボットみたいなもんだよ……。ああ、見てるだけで疲れたぜ。いつかの昔、生命史研究者から有機生命体はエネルギー摂取に関して場合によって自らを危険にさらしてでも嗜好を満たそうとすると聞いたとき何をバカなと思ったが、まさかそれが真実だと今になって知らしめられるとは……』


あまりのやつれぶり(見た目は変わらないが)はさらに面白くて、白はとうとう声を出して笑った。


冷蔵庫から刻み青ネギを入れたタッパーと味噌を取り出す。味噌汁の完成。味見はしない。まあ不味くはならないだろ、と思っているから。


時刻は18:20を過ぎた。2階から降りてくる足音がする。夕食の時間だ。

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