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だいじょうぶ

リビングは乱雑としている。家具量販店で買い揃えた椅子の背もたれに、シワシワのパーカーやジャンパーが放り投げるようにかけられている。壁際には空になったペットボトルや缶が、それぞれ大量にビニール袋に詰め込まれて置いてある。他にも雑誌やなにがしかのコードが埃をかぶって詰んである。キッチンの流しには、朝ごはんと、昼に雄一がが食べたであろう弁当の空箱が置かれている。だがキッチンにもリビングにも、生ごみだけは放置していない。それだけは白が必ず捨てているからだ。


白はランドセルを椅子に置いた。ふきんで軽くふいてから、


「よいしょ」


とアストレイを取り出し、タオルを敷いてテーブルに置いた。それからカバーに入ったタブレットを取り出して、画面を叩き操作する。


「つながったよー」


『携帯端末を常にネットに接続していないとは、なんて不便で非合理的なんだ……。おい、俺を端末にくっつけてくれ。直接吸い出す』


「直接?タブレットに乗っけたら画面が割れちゃうし、隣に置くとゴムのカバーが邪魔だし。あ、たてかければいいか。これでいい?」



『テメエ、俺様が人格をもつ一個人だってことをくれぐれも忘れるなよ。完全にオブジェクトとして扱いやがって。まあ、今のこの状態なら致し方ないが、どうにも納得行かん……』


ぼやいている。


『ふん。これがインターネット。……なるほど、惑星を覆って……。うわ、なんか生ぬるい……。あ、これが壁⁉︎な、なんて原始的な……。いや、逆に情報真科学において重要なサンプルになりうる……?ふんふん……。……あっ、へぇー……。そういう……』


独りごつアストレイを見ながら、白は息をのんだ。


アストレイの表面にある突起と突起の間の溝の部分が発光している。光は青白く、電子機器のように機械的で規則正しい。端から反対側の端まで波打つような光り方だ。以前理科の授業で見たクラゲを思いだした。


(わー。すっげーキレイじゃん……)


声には出さなかった。集中しているのが分かるからだ。


音を立てないよう、静かに椅子を引いて腰掛ける。揺れないようゆっくりとテーブルに上半身を寝そべらせた。天板の先ほど拭かなかった部分にほおが触れる。何かペタペタする。


(…………)


白は心の中が少し重くなった。けれど何も言わず、袖でベタベタをこすって落とした。袖に茶色い汚れがついた。


心の重さを振り払うため、ことさら明るく、しかし作業(何をしているのかはよくわからないが)を邪魔しない音量で話しかけた。


「どうだった?げんそあった?」


深海生物のような石は答える。


『元素はどこにでもある。今度オレ様直々に講義をしてやろう。

……ふむ。オレ様たちメタリアンの体を構成するメタリウムs2原子は、どうやら地球上には存在しないようだ。少なくともお前たち地球人は発見できていないし、各国、あるいは各団体の研究記録にも該当するものは見受けられない。まあ、まだ全部は見れてないが……。ま、望み薄だな』


なんてことない口調で言った。


「えっ?それってつまり、」


『オレ様の素敵ボディを造ることはできない、ということだな』


ええーーーーーっ⁉︎


「どうすんの?やばいじゃんっ!」


『ま、心配するな。予想はしてた。惑星ごとに含有物が変わるなんてさもありなんだ。こうなればひとまず、地道に救難信号を送ってみるとしよう』


「きゅうなんしんごう?あ、SOSのこと?」


『ああ。とりあえずこの国の放送機関の電波をいくらか借りることにする。かまわないよな?』


唐突に許可を求められて白は戸惑った。


「えっ?よくわかんないけど……。しょうがない、かな?緊急事態だし……」


とりあえずうなずく。


『おう。ありがとう』


アストレイは何事かをぶつぶつと呟いた後少しの間黙り込み、


『よし』


と声を出すと、発光が終わった。ただの黒い石に戻っていく。


「終わったの?」


『ああ。バックドアを通して信号を送っている。とりあえずは、近くを誰かが通りがかれば届くだろう』


「アストレイの仲間が地球にくるってこと⁉︎」


瞳を輝かせた。


『運が良ければな。ま、当然他の手段も考えてるさ。だからひとまずこのボロ家にしばらく置いてくれ、白』


「うん。もちろんいいよ!ボロ家は余計だけどな!早く誰か、迎えに来てくれるといいね。……なあ、アストレイ」


『あん?』


白はそっとアストレイに触れた。ヒヤリと冷たい石の感触。優しく撫でる。


『し、白?』


「だいじょーぶだよ。俺、むずかしいことはよくわかんないけど、ちゃんとアストレイは自分のうちに帰れるよ。絶対だいじょーぶ。なっ」


手のひらを添えるようにゆっくりと、何度も撫でる。怪我をした友人を労るのと同じぐらいの力加減。


アストレイは一拍間を置いた後、『おう』と答えただけだった。


しばらく無言が続いた。そこに電子音が響く。壁掛け時計が午後5時を知らせたのだった。


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