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誰もこない神社

「うわっ、思ってたよりボロいな……」


山の神社にたどり着いた。


聞いていた通り、周りは草ぼうぼう。虫どころか蛇やイノシシまで出てきそうなので、ここまで「わーっ」「わーっ!」と声を出しながら歩いてきた。


神社の前には鳥居が立っている。元は赤かったのだろう。塗装がほぼ剥がれ根元が腐り、大きく傾いている白はかけられた文字を見上げた。


「なんとか神社。一文字目は天。次は……なんて字だ?」


首をかしげる。掠れているが、読み取ることはできる。読み方がわからないだけで。


ちなみに、今日の漢字小テストは10点満点中3点だった。


『ま、いいか!天なんとか神社ってことだ、ここは』


社殿そのものもひどい有様だ。屋根に大きな穴が空いて長年雨風の吹き込んでいるのが見て取れる。壁にもあちこちに獣の出入りした跡がある。


白は思わず、


「おお……!」


と感嘆の声を上げた。


「なんかボロすぎてテンション上がってきたぞ……!」


正面の格子戸から内部をのぞいてみる。天井の穴から光が差し込んでいて落ち葉や朽木や土砂で汚れているのがわかる。


そしてどうやら、その奥にもさらに部屋があるようだ。窓のない頑丈そうな木の扉が見える。


「何があるんだろう………御神体、ってやつかな?」


学校裏の神社には大きな丸い鏡が鎮座している。社会科見学で見に行ったことがあるのだ。夏祭りでは社殿の扉が開かれ、餅や酒などが備えられる。夜になると、鏡の前で巫女の格好をした女子が踊るのをみんなで見る。


(じゃあ、ここには何があるんだろう?)


先ほどまでの憂鬱な気分を忘れて、白はすっかりワクワクしていた。


探検、冒険、発見。どれも大好きな言葉だ。


格子戸には錆びついた大きな南京錠がかかっている。鍵はないか、辺りを見回してみる。


あるわけがない。


戸木はだいぶ傷んでいて思い切りぶつかれば開きそうだが、どんなにボロでも神社である。神社とはつまり神様の家だ。ひとの家を壊すのは気が引ける。


ならば、と白は立ち上がる。

周囲をぐるっと回ってみる。膨らむように葉を茂らせるシダの葉をどかしてみた。


「おっ」


側面の壁に、大きめの穴を見つけた。ランドセルを置いて、服の裾をカーゴパンツに入れ、


「よしっ」


気合を入れてくぐる。かぶっている帽子が壁のささくれに引っかかってずれた。


「よい、しょっと。……へえー。神社の中って結構広いんだな……」


鼓動が少し早くなる。それを抑えるために帽子を位置を何度もいじって直しながら、奥へと続く扉の前に立つ南京


錠は、かかっていない。手を添える。扉が動いた。


「お、おじゃましま〜す……」


がぎ、ががが。


土砂をどかし、重たい戸を開ける。落ちている枝に転ばないためだけでなく、そろりそろりと扉の奥へ。ぎぃ。床が軋む音がどこか不気味だ。


部屋の中は薄暗い。どこにも穴が空いていないのだ。ここが一番頑丈に作ってあると一目でわかる。


壁にくっつけるようにして木の祭壇が置いてある。祭壇は3段ある。1段目は何もない。


2段目の中央に汚れひびは入っているが割れてはいない白い皿と、左右にかつて榊だったであろうシミのこびりついた白い筒状の陶器が左右に置かれている。そして3段目には、木の箱が置かれている。


白は手を伸ばそうとして、


「……」


一旦下ろし、胸の前で合わせた。けれど視線は箱から外せない。


開けてみたい。なぜだろう。どうしても。


呪術廻戦のような札が貼ってあるかと思って見てみるが、何もない。けれどどう見ても、この箱の中身が御神体だ。


唾を飲む。箱に触れてみる。


指の先から古い、けれど丁寧に磨かれた木の感触がする。持ち上げてみる。ずしっと重いが、持てる。


箱を床に丁寧に、本当に丁寧に置く。小さく呟く。


「すみません。ごめんなさい。ちゃんと元に戻しますから」


そして、蓋に手をかける。木の擦れる音がした。開けられる。


き、き、と少しずつ蓋を上に上げていく。最後は少し抵抗が強くなったあと、「ぱこっ!」と気持ちいいぐらい勢いよく外れた。


恐る恐る中身をのぞいてみるとそこには、


「…………石?」


なんの変哲もない石がひとつ置いてあるだけだった。


白は拍子抜けしてしまった。まさか両面宿儺の指か、カッパのミイラでも入っているのでは……⁉︎と想像をふくらませていたのだ。口から息が漏れて、


「ほぅあ」


と間の抜けた声が出る。


とりあえず取り出してみることにした。


大きさは白の両手でちょうど持てるくらい。重いが、多分2、3キロくらい。


顔の前に掲げて眺めてみる。どこからどう見ても、ただの石だ。シルエットはよく膨らんださつまいもにゴツゴツした突起をつけた感じ。色は黒。ツヤツヤして鈍く輝く様が綺麗といえば綺麗である。


「…………」


自分でも勝手だなぁとは思うが、正直少しがっかりした。


石。石か。そっか……。


なんともいえない気分で眺めて、そのまま箱に戻そうとした。


その時だ。


『……んぁ?』


声がした。吐息とほぼ同じくらいの声量。まるで、寝起きのような。


白は思わず石を取り落としそうになったが、すんでのところで抱え込みことなきを得た。ただの石でも御神体だ。粗末に扱ってはいけないだろう。


慌てて周囲を見回す。自分以外誰もいない。気のせいか?


『おおーい!待て待て!待てこらおい!』


「えっ、な、だれ⁉︎」


『どこ見てやがる!ここだ、ここ!お前の腕の中だアホ!』


腕の中?


恐る恐る、自分の抱えているものを見る。先ほどと同じただの石。


『ようやく気づいたか。チッ。どんくせーなテメー』


白は目を白黒させた。信じられない。


間違いない。喋っているのはこの石だ。

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