厳格なる宇宙人
宇宙人は言った。「おい、信号、赤だぞ」
首根っこを掴まれた男が言い返す。「ふざけんな、会社に遅れる」
強引に宇宙人の手を離すと走り去った。
宇宙人は言った。「九時の約束だっただろう」
向かい合って座った男は後頭部を掻いた。
「いやぁ、寝過ごして」
「目覚ましもないのか?」
「いや、あるけどさぁ」
「むぅ……」
公園の前に占い師がいた。
占い師は宇宙人を呼び止めて、言った。「死相が見えます」
「私には見えないなぁ」と応えて、宇宙人は去った。
「私の気持ちなんて解らないのね」と目の前の女が言った。
「解らん」と宇宙人は切って捨てた。
「独りでも生きていける」と若者が言った。
宇宙人は応えた。「じゃあ、そのカップメンは如何するんだ?」
「スーパーで買う」
「……」
宇宙人は地球を去ることにした。
彼は思っていた。
知性は社会性や協調性や理性と共に萌芽するものだと。しかしどうやら前提が違ったらしい。母星に帰って早く報告せにゃならんと思いつつ、地球を後にした。
世の中、色んな異星人もいるんだなぁと思った。