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別物語 雷の美姫と炎狼の剣士1






 水しぶきが遠くで上がったのを、遠くから私は見ていた。


 いつのまにか居なくなっていた友人の灰魔術師カオスマスターの姿を探して、屋根の下から草原の先に広がる大運河を眺めていた。


 何もない草原の先に、大運河の前に、灰色の空の下に、小さな人影を見つけていた。


 私に大人しくしておけなどと言っておきながら、自分だけ『探検』に出かけた薄情者の姿を視認する。


 どうしてやろうか。


 ポンポンと肩で模擬剣でリズムを出すように、手慰みのようにして。

 友人Eへのお仕置きを考えていた。


 おっといけないいけない、思わず唇に笑みが溢れてしまったわ。


 その時だ。遠くに、大運河に水しぶきが立ったのは。


 位置からすると、水しぶきを立てたのは灰魔術師カオスマスターEだろう。

 遠くてよくわからない。が、魔物が出現した、その首長竜みたいな姿は見覚えがある。


「おい、アレ魔物じゃないのか」


 私達の旅団を警護している、ナタリーの実家、アーガンソン商会の警護人の一人がそう皆に知らせている声が聞こえた。

 『駅』にいる大人たちに緊迫した空気が走る。野営準備をしていた手を止めて、臨戦態勢に動き出そうとする。


 私はそれを、

「大丈夫よ」

 と、少し大きな声で、皆に聞こえるように口にする。


 何か細長いモノが見える。それが少年らしき人影に何かを渡しているように見えた。


「アレはあの子が呼び出した灰魔術カオスマジックの使い魔だから」


 そう説明する。正確には違うが、正確に言ってもしょうがない。


 それだけで、大人たちから「ああ、アイツの仕業か」と弛緩した空気が流れた。


「本当ですかい?」

 先ほど警告を口にした警護人から尋ねられて、私は頷いた。


「ええ、見たことあるから」

「全く人騒がせな奴だ」

 警護人からは怒りというよりもホッとした声色が漏れる。


「本当ね」

 私はそれほど関心があるように見せず、なんでもない事のように話す。

「行ってトッチメてやるわ」

「止めてください。ここで大人しくしててくださいよ」


 どいつもこいつも。


「じゃあ帰ってきたらお仕置きしてやるわ。直々に」

「死なない程度でおねがいしますよ」


 失礼ね。加減ぐらいは弁えてるわ……半身冥土行きね。


 警護人は暫く川面の方へ目を向けていたが、魔物らしき姿はすぐに消えたのを自分の目で確認して安心したのか、視線を切って屋内の方へ顔を向けていた。


 私の眉は逆に歪む。

 違和感、異物、異変の徴を発見したからだ。


 あの子の姿が、パタリと倒れたように見えた。

 それは僅かな変化でここからではよくわからない。


 もうひとつ。

 

 こちらは徴などという僅かな兆しではない。

 あの子の側面から走り寄る人影がある。


 私は飛び出した。

 雨は上がっている。だが、足元はぬかるんでいる。


 パシャ。


 水音を背後に置き去りにするスピードで湿気た草原を駆ける。


 荒々しい踏み込みは逆効果だ。地面に圧力が伝わる前に次の足に重力を載せる。

 要は水上歩行の要領だ。


 そのままスピードに乗ったまま、少年とそれに近づく人影に向かう。


 女?


 人影のフォルムからそう判断したが、それより重要なことがある。

 武装している。


 私は右手に持った模擬剣を収めるための革鞘を吊るした腰に手をやった。

 視線は真っ直ぐ前を向いたままで。


 チッ、あの子魔力切れ起こしてるじゃない。


 友人の体が倒れていたのをはっきりと視認する。

 何か飛び道具を受けたことも考えられるが、可能性としてはそのほうが高いと私の事前知識と目視によって判断する。


 あの子は灰魔術師とか言っている割にすぐに魔力切れを起こす。

 別にそれを責める気はないが、普段から割りきった言動をするくせに、行動が伴わないのがあの子の個性で、随分と私も迷惑を掛けられた……気がする。


 お互いの速度。お互いの距離。

 勘案するに向こうのほうが先にあの子のもとにたどり着く。


 私が十メートルまで近づいた時にはあちらは既にスピードを緩めて足を止める段階だった。

 もちろんお互いの存在は視認している。


 栗色の髪をした女だ。私よりは当然年を喰っているとは言えまだ若い。十代前半の少女。


 だが、警戒心を強める。


 軽装。革製の鎧らしいモノを身に着けており、こちらと反対側の腰に剣もぶら下げている。

 そして右手が鍔元にかかっている。


 私は咄嗟に自分の模擬刀『基本剣セブンアイアン』を構えて、そのまま素振りする。

 革の鞘がその遠心力で前方に向かって、栗髪の女剣士に向かって飛んでいった。


 女の方も一瞬で抜剣して、飛んできた鞘を叩き落とした。


 その動作で私は女の剣の技量を推し量る。少なくとも私よりも剣の技量は上だ。


 次の瞬間には、女が地面に鞘を叩き落とした瞬間には、私は相手の懐に飛び込んでいた。


「!」


 私の幼い外見からは想像もできない瞬発力と踏み込みに驚いたのだろう。

 私は勢いを殺さずそのまま剣を振り下ろす。

 栗髪の女剣士は自身の戸惑いに手元を違えること無くあっさりと打ち込みを剣で受け止めた。


 澄んだ金属衝突音が響く。


 騎士だ。正式剣術の使い手。

 女剣士の動作から新たな予測を叩き込む。


 そして、確信する。


「はい、勝った」

「!?」


 私は剣を握っていたのと反対の掌を瞬間を置かずに女に向けた。


 ボッ!と噴出音が向けた掌と女剣士の間でしたかと思うと、彼女は体をくの字に曲げて吹っ飛んだ。


「ぐぅ!?」


 お腹を襲った衝撃に理解と反応が追いつかないのだろう。彼女の体は浮き上がって後方に飛んだ。


 私はそれを追撃はせず、倒れている友人Eと女剣士の間に割り込む。

 距離的に追撃が無理だったわけではない。

 時間的な問題からだ。

 私の観察眼は、吹き飛ばされた女剣士の瞳に意志が宿ったままで、体勢も保ったままだったことが分かっていた。追えば反撃を喰う。


「ちょっ!?」


 だがそこまで予想していても今度は私が驚く番だった。


 女剣士は吹き飛ばされて後方に着地する前には反撃に打って出ていた。


 栗髪の女剣士が何か呟くと、彼女の剣に炎が灯る。

 金属が松明の様に炎を先端に伴うわけがないから、私が先ほど彼女を吹き飛ばしたのと同じように、何か魔術を使ったに決まっている。


 女剣士が剣に炎を纏わりつかせたまま、先ほど私が鞘を投げつけた時のように、後方に飛ばされながらも空中で素振りした動作が見えた。


 ヤバイ!


 私の第六感が警報を響かせ、折角割り込んだ『陣地』から、やむを得ず横っ飛びする。

 その空いた『陣地』を剣から放たれた炎狼が凪いでいった。


 なにあれ!?


 私は予想よりも反撃が早かったことと、反撃が予想外の方法で行われたことに驚く。


 剣に纏った炎が狼の形をして敵に襲いかかるって、どんだけ~……古いか!?


 チッ。『私と同じ』魔法剣士か。魔法剣士(本来の呼び方なら魔導剣士?)って名前の割に珍しい存在レアジョブな筈なんだけどね。


 しかし、戸惑っているのはあちらも同じようだ。いや動揺は女剣士の方が大きいらしい。

 炎狼を放った瞬間。

「あっ!」 

 と言ったのがわかった。


 私が炎狼を避けた時には、女剣士は着地して体勢を立て直していた。腹を『風圧ウィンドハンマー』で強打されたダメージもないようだ。意外にダメージがないことに違和感を覚えたが、それよりも女剣士の顔面全体に覆っている『?』マークの方が目立っていた。


「……なにも、の?」


 疑問が多すぎて、上手く言葉が出ないらしい。殺気らしいものは欠片もない。

 いきなり現れたのが私のような幼女で、いきなりだったらそれも当然の反応と疑問か。先ほどの炎の狼による遠隔攻撃も「あっ!」という言葉からも分かる通り、体が反射的に動いただけだろう。


 発音、物腰、剣術が護身術の域であるところを見ると……ふぅん? お育ちがいいのかしら? その外見と合わせて戦場や殺し合いとは無縁の土地で生まれ、先天と努力のみで培った実力ってところかしら?

 日常的な暴力に晒された者の気配がしない。


「貴女こそ何者よ」

 





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